【零晃】フラバの妄想シーン※以下は救いがないシーンだけなのでご注意ください!!!!!
俺様は大神晃牙だ。
そんで、俺様はAIってヤツだ。
細かいことは知んね〜。オリジナルの『大神晃牙』がいて、俺様はそのオリジナルを基に作られたってことだけは一応わかってる。だから何だっつ〜話だけど。
「ほれ晃牙。もう一回取ってこ〜い!」
朔間先輩がボールを投げた。俺様はそれを追っていく。大好きな人が遊びたいって言うから仕方なく遊んでやってるだけだ。……まあ、楽しくね〜わけじゃね〜けど。
昔はこんなことだってしてもらえなくて、別の昔ではこんなことをしようとする先輩にキレて噛み付いた。
……その昔のひとつも、『俺様』が経験したことじゃね〜んだけどさ。
何だか不思議な感覚だ。俺様だけど『俺様』じゃね〜。俺様は生まれたときからもうこの人が好きだった。そんでこの人がしたいと思うことを、全部やってやりて〜と思ってる。
俺様にオリジナルがいるように、朔間先輩にもAIがいる。その朔間先輩のAIは今、俺様のオリジナルと一緒だ。俺様たちが――オリジナルとAIのUNDEADが二手に分かれるとき、俺様のオリジナルは朔間先輩のAIを睨みつけていた。あんなの好きなやつに向ける目じゃね〜だろ、と思ったが、俺様にも俺様なりに、何か思うところがあったのかもしんね〜、と思ったら納得した。
だってそれは、俺様だって同じだから。
思うって一体何だろう。俺様は作られた存在だから、この思いも作られたものなんだろうか。もし作られた思いに従って動いたら、俺様は朔間先輩の邪魔をしちまうんだろうか。
こう考えること自体、俺様は何かおかしいんだろうか。
わかんね〜。わかんね〜けど、わかんね〜ならもう動くっきゃね〜だろ。だってわかんね〜んだからさ。
朔間先輩が羽風……先輩と何か話してるのが見える。ボールを投げたときと打って変わって真剣な顔だ。装置、とか、今夜、とか、そんな単語だけが聞こえてくる。
きっと終わりは近い。俺様が動かなくったってそれは同じだ。
だからこそ、俺様は決意した。
朔間先輩が変な装置を付けて眠っている。
AIのUNDEADがいることがバレないように、AIの俺様たちはオリジナルと常に一緒に行動してるから、夜も一緒だ。
アドニスはいま普通の充電中か。
充電してる間だけは思考も含めて一切の行動が停止される。でも唯一、モードを切り替えれば違うことができるのを『知ってる』。
夢を見ることができるのだ。
アドニスにも手伝ってもらいたかったのは本音だけれど、俺様がやろうとしていることは俺様たちを作ったヤツ――朔間先輩たちに言わせれば『黒幕』の意思に反することだ。一応、バレたら「監視のつもりだった」とか言う予定だけど、予期せぬ行動を取るAIをそのままにするヤツとも思えね〜し、下手したら存在を消されちまうかもしれね〜。さすがに巻き込むわけにはいかね〜だろ。そもそも相談できる時間もなかったしな。
『――……』
俺様はノイズ混じりの、俺様の声とは違う音で、そのモードを起動した。
目を覚ます。
隣を見れば、AIの晃牙が寄り添うように眠っていた。
「大神はまだ眠っているのか」
アドニスくんが心配そうにやって来る。AIたちの充電時間は四時間ほどだ。アドニスくんと同じタイミングで充電を始めていれば、もう起きていても良い時間だろう。
「眠る前、少しだけ我輩と遊んでおったんじゃよ。あと一時間もすれば起きるじゃろ」
「そうか」
まさかAIたちが夢を見られるとは思わなかった。自分が見たのは装置の説明書だから、当然といえば当然なのだが。
いないはずの晃牙の声が聞こえたときは些か驚いたが、考えてみればAIたちはこのシステムで抽出した記憶を基に作られた存在なのだから、システムに繋がることも可能だろう。それで『黒幕』たちが気づく仕組みになっているかどうかはわからないが、どの道装置を使った時点でアラートは飛ぶと思っていたし、むしろ『黒幕』に気づいてもらう必要があったのだから構わない。
(ばっちり顔も確認できたしのう。もう逃さんわい)
あとは顔を見たことに本人に気取られないよういつも通り仕事をこなしながら、水面下で『黒幕』の捕獲に動けばいい。
計画通りだ。そして現在進行系で計画通りに進んでいる。そのはずだ。
――今度は俺様の番だ。
あれはどちらの言葉だったのだろう。
吸い出された晃牙の記憶が『大神晃牙』ならばそうあるべきと作り出した言葉なのか、それともAIの晃牙が感じたものか。AIにそんなことができるのかはわからないが。
どちらでも、晃牙の言葉であることには変わりがない。
それならば。
「……おぬしが好きじゃよ。だから我輩も動くんじゃよ」
きっと伝わっていると思っていた。けれど、晃牙がああして口にしたのなら、伝わってはいなかったのだろう。これまでほとんど言葉にしてこなかった我輩に非があることは明白だ。
この子も、夢の中の晃牙も、今は別の場所で一緒に戦ってくれている晃牙本人も、例外なく愛している。生まれ変わったって愛する自信がある。
もう二度と、朔間零のために何ひとつだって損なわれてほしくないのに。
――それで『俺様』が終わってしまっても、後悔なんかしね〜からさ。俺様はそれだけ伝えたかったんだ。
「……ああ、苦しいのう」
我輩の言葉は、しんと静まり返った部屋の中にかき消えた。