優勝と私生活「私生活に密着……」
俺たち、きんぎょすくいもここまで来たということだ。
などと笑っているわけにはいかず。
この仕事に対し、抱えている問題はいくつかあるが、一番の問題は『俺たちがルームシェアをしていることを知らない』のだ。
つまり、俺と優は別々に撮影をすることになる。
番組側伝えるには伝えたのだが、この仕事が無くならなかったのは、「では、お二人は別々にカメラを設置して頂いて……」と、乗り気になられてしまったからだ。
俺たちは別にルームシェアを隠しているわけではないが、言う機会が今までなかった。そう考えると良い機会なのかもしれない。
俺が出かけている間に優が、優が出かけている間に俺が隠しカメラを設置。
いつ置いたか、日時は明かさない。勿論、場所だって言わない。
正直、とてもソワソワしてしまう。落ち着かない。
黄色い金魚のエプロンを着けた奴が何を言うてんねん、と言われれば、それはそうだが……優から貰ったエプロンだ、大切に、けれどもやはり普段から使用したいものだ。
さて、夕飯の支度も済んだわけだが……カメラを探すわけにもいかない、普段通り、普段通りに過ごせば良いだけだ。
といっても、なんだか動作がぎこちなく感じる。
優のことだ、慣れてからカメラを設置する可能性もある。
「その方が普段通りでおもろいやろ?」なーんて、種明かしで言われてしまうのだ。
と、思うと……妙に緊張する。
まあ、優も俺が何処に仕掛けたかは分かるまい。
優にとっては死角、けれどと優がよく映る場所を計算して設置したのだから。
……まあ、優には緊張した素振りがないのだが。
「勝、ただいまー」
「おー、優おかえり。夕飯出来とるでー。はよ手ぇ洗い」
「はーい。あ、勝。これお土産」
手渡してきた紙袋Alliéと書かれている。
「これ、味方くんとこの……! おぉー! プリンや! どないしたん?」
「いやぁ? 近く通ったからお土産に買うただけや。勝はここのプリン好きやもんなぁ」
と、ケラケラと笑いながら手を洗いに立ち去る。
急遽デザートが増えた食卓に二人で座り、仕事の話や最近あった面白い話、そこからネタに使えそうなものをメモしたり等、賑やかな夕飯となった。
「んー! ホンマにここのプリンは旨いなぁ」
「ははっ、今日寄って良かったわ」
「ん、そういや優は今日、何しに出かけたん? 味方くんのとこ通ったちゅーことは、言うて遠くないやろ。なしてこんな遅くなったん?」
「そらぁ、勝がカメラ仕掛ける時間を考えて……ってのは建前で、こういった形私生活撮るんやったら、サプライズでもないとぎこちないところしか撮れへんやろ。特に勝みたいなタイプは。今、カメラのこと忘れとったやろ?」
言われてみればそうだ。これこそ、自然体で私生活の一部だ。
プリンに夢中でカメラを忘れていた……という理由は少々恥ずかしいが、味方くんの作るプリンは本当に美味しいので仕方がないだろう。
「にしても、優は全く緊張しとらんなぁ」
「俺はそう言うタイプちゃうからな、勝が真面目すぎるんよ」
「な、なんや急にぃ……。真面目なのは悪ちゃうやろ。優がテキトーなんちゃうか?」
「俺はオモロいと思うことしとるだけやで? 実際、勝との生活はオモロいもんなぁ」
と優はケラケラと笑うが、撮られてると思うと、少々恥ずかしい。
「……実際、俺も楽しいんやけど……せやけども! そないに急に言われたら調子狂うわ」
「一周回っていつもの調子やろ」
「うぅ……! せや、けど……」
こうして、賑やかな夜は明け、数日後カメラを回収し、実際に俺たちの私生活が放送された。
「『お笑い芸人、きんぎょすくい。実はルームシェア⁉︎』やって。結構話題になっとるなぁ」
「ホンマ⁉︎ 俺、エゴサしてみるわ!」
放送後のサジェストはルームシェア関連の話題で持ちきり。
なんなら「きんぎょすくい」はトレンドに入るほどの反響。
話題にもなり、反響が良かった事に安心していると、優は俺のスマホ画面を覗き、SNSの反応を眺めていた。
「『プリンでテンション上がる勝くんかわいい』せやろー? 俺はいつでも見られんねん。『きんぎょすくいルームシェア尊い』『きんぎょすくいのルームシェアは救いなんだよなぁ……』おぉ、よぉ分かっとる人おるなぁ」
「なんや、えらい嬉しそうやな……」
「そらそうやろ、うちの可愛い可愛い自慢の相方へこーんなに反応来とるやで? しかも相方特権で俺はいつでも勝と居るし? 可愛い勝もいくらでも見られてまう、勝のファンの子らからしたら羨ましかろうなぁ」
いつものように優はケラケラと笑う。
お返しに一つ読み上げてやろう。
「『お土産に好物買ってくる優くん、イケメンすぎ』やって。そらぁ、俺の自慢の相方やからな」
「そうやでー、契稔優は万歳勝の自慢の相方で、万歳勝は契稔優の自慢の相方やからなぁ! ホンマに、お前も過ごす日常は楽しいよ、勝」
「なんや急に。俺もめっっっちゃ楽しいで! 優!」
どうだ、羨ましかろう。