キスミー・テルユー 耳を通り抜けていった言葉に凛は驚きで目を見張り、さらにはマリアナ海溝よりも深い溜息を吐き出しそうになってどうにかそれを押し留めた。
どれだけとんでも理論だと感じようが、凛の中に途方もない呆れが浮かぼうが、頬を膨らませ本気で睨みつけてくる潔の姿を見てしまっては、流石の凛でも白旗を掲げざるを得ないからだ。
「聞いてんのかよ!」
「……マジで言ってんのか」
「マジだって言ってんだろ。分かったなら返事」
釣り目気味の瞳をさらにとがらせても、昔から変わらず童顔な潔は全然怖く無い。
しかしながら、凛にとって人生で初めて"オツキアイ"している恋人──恋やら愛という響きを聞くだけで鳥肌が立つレベルの恋愛コミュ障だった凛が唯一無二だと認めた相手である──潔は、凛にそんな風に思われているとは露知らず、さらにドスをこめた声で呟いた。
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