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    seki_shinya2ji

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    seki_shinya2ji

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    配信者パロアツキタの外伝。前回と同時間軸のアランくんとリンくんとマネの治。

    【アランのオーバードライブ!】朝食は上手い奴が勝つ【ゲスト:リン】「え、シンスケ炎上してる?」
    現在時刻放送開始から20分経っていた。
    元々アランのラジオは生放送だ。始まってには二つのアプリを駆使している。1つは有料会員制で、金を払うとコメントも所謂投げ銭も残せるしラジオ配信を映像で見られる。もう一つは音声のみだが、コメントと投げ銭のみのものだ。そんなアランのラジオに「シンスケが大変だ」とコメントを残したのは同じタイミングだった。
    今日はゲストとしてリンが来ていた。細目があり得ないほど目を見開いて絶句している。さっきまでニコニコと「アランさんの紹介してくれた朝ご飯が美味しくて〜」と言っていた。アランが紹介しようとスマホを開こうとしたタイミングで手元の画面にあったコメントに思わず口をついてしまったのだ。
    「え……?え?」
    「ちょーっと待ってな?」
    リンが固まってしまっているのも無理はない。何を隠そう、リンはシンスケのことを売れない劇団員の頃から密かに追っかけていたのだ。リン曰く、「指先まで意識が入っている演技は素晴らしい。立っているだけで完成しているんだ」とのこと。つまシンスケのことを深く傾倒している。ただ本人には言わないそうだ。下心があって同じグループに入ったように思われたくないそうだ。元々リンは子役経験があったり、そのあとは名古屋を中心に活動しているフリーの役者だ。その子役時代に世話になっていた黒須の事務所からスカウトを受けた。そのスカウトの後にシンスケが入ってきたのだから、下心なんてあっても誰も勘繰らないのだが、ここまでくると本人の意識の問題だ。そっとしておいてやってほしい。
    おかげでなぜかシンスケに余所余所しいリンの態度と、そんなリンの態度を察してちょっと遠いくらいの適度な距離を保つシンスケの関係値はある一定の層から大層受けている。一利があるのならそれでいいのだ、というのが黒須の考えだ。
    アランはマネージャーをつけることなくフリーで活動していたエンタメ人間だ。ただ自分の肌の色を無意識で気にしていて、受ける仕事が顔が見えないラジオに集中していた。しかしおかげで喋りが抜群に上手い。そんな彼がラジオ界隈にあるまじき「7秒ルール」を破って黙り込んでしまった。
    「……いや、シンスケに限ってありえへんだろ。てかお前ら鳩やめえや」
    鳩、とは鳩行為というものだ。他人の配信の内容を全く関係のない第三者の配信で密告する行為だ。伝書鳩に由来している。何がいけないのかというと、まず鳩行為された人間からすると、他人の配信を宣伝されても困る。邪魔以外の何物でもない。また鳩行為の加害者側の配信者は、他人の配信の利益に損害を出したとみなされるため、関係各所に頭を下げないとならないのだ。つまり誰も得しない行為なのだ。
    しかし鳩行為は止まらない。とにかくコメント欄が「シンスケ配信止まってない」「誰か電話してあげて」「変な声が聞こえる」「シンスケエナドリまみれになってる」「プライベートの話聞こえるの」でいっぱいだ。
    「あ」
    先に声を上げたのはリンだ。そしてどこかに行こうと席を立った。RECルームでそれを見届けたアランはその背中を見届けてからハーとため息をついた。
    「今回は助かった、教えてくれておおきに。でも、原則としてアカン行為してるからな。そこは自覚しとけな」
    一応場を納める雰囲気を出した。とはいっても咎めるのもおかしな話ではあったので、あくまでも今回だけ許される行為だ、と念を押した。
    RECルームはガラス張りになっており、そのガラスの向こうではプロデューサーや音響さんが座って番組を下から支えてくれる人間が仕事をする部屋がある。そこでリンは何やら電話をしていたが、まもなくアランに向けて頷いた。
    「お、リン戻ってくるで」
    「……すみません、失礼しました」
    「大丈夫らしいから話続けよや」
    「あ、一応釈明してくれと言われているので……」
    「そうなん?なら聞かせてや。シンスケの失敗なんて珍しいしな」
    「なんか、シンスケさん。ホラゲ配信するって話は知ってたんですけど、ゲーム内の爆発音にびっくりしてエナドリをぶち撒いて焦って配信切り忘れたみたいです。その後マネと拭いてる時の会話が垂れ流しだったらしいです。機材全て無事で、本人は反省しているそうなんであまり弄らないでくださいだって。」
    「え、弄ってええってこと?」
    「違います」
    「冗談やて」
    リンにはこういう片鱗がある。シンスケの邪魔をすることを無意識のうちに嫌う。だから本人の横にはあまり近づきたがらない。おまけに美意識が強いせいか「背の高い自分がシンスケさんの横に行くと嫌でも隠してしまうので隣に立ちたくない」とわがままを言う始末。
    肩を竦めたアランは苦笑してリンの言葉をかわした。
    「リンはホラゲ嫌いなんやろ?」
    「単純に汚いじゃないですか」
    「不潔ってこと?脅かす手段が汚いってことか?」
    「どっちもですねぇ。キャラクターデザインがなんか不潔じゃないですか?血とか不潔です」
    「真顔で「俺はホラゲ怖いです」言うてて笑いそうやわ」
    しかしアランの顔を見たら真顔である。画面に流れるコメントは「声震えてんで」「ホラゲ嫌いアラン定期」「おまいう」だ。そんなコメント欄はいつも通りで、アランは目ざとくコメントを拾って
    「俺はちゃうで。俺はホラゲ嫌いな人もいてるやろからやらんだけや」
    と言い訳した。しかしそんなアランの言葉にクスクス笑い出したのはリンだった。
    「でもアランさんがホラゲで1番嫌いなの、【急に抜ける床】ですよね?」
    「セーーーやねん!」
    「オッホホ!」
    ダァン!と叩かれた机にケラケラとリンが笑う。そばに置かれていたペットボトルの中にある水が派手に揺れた。
    「ホラゲやからクリーチャー出てくるンは分かんねん!せやけど床は抜けるなよ!欠陥住宅て!ハウスメーカーにクレーム入れるで!自分家のメンテはせえよ!」
    「『俺はホラゲ怖いです』って言ってて面白いです」
    「欠陥住宅に住み続ける精神はすごいよな。お金無かったんやろな」
    「どっちかって言うと、欠陥住宅だから、じゃないですか?」
    「あぁ、不潔な菌が増えた、的なことか」
    「そうですそうです」
    リンはどちらかと言うとビジュアル売りであまり口を開くタイプでは無い。しかしアランが喋るせいで引っ張られるのだ。ラジオに出るとなれば話さざるを得ない。ラジオには【7秒ルール】というものが存在する。ラジオは話者の顔や表情を映像では確認できない。となると話者の声のトーンや速度感、言葉選びから、リスナーは話者の表情を察することになる。そうなると『沈黙の時間』というものは何の表情を察する事もできずただただリスナーが何も感じる事ができない時間を作ってしまう。人とは7秒以上沈黙が続くと、他のことを考えてしまうように出来ている。そのためラジオで7秒以上沈黙を作ってしまうのを御法度としているのだ。
    そうなると喋る事を苦手としているリンはあまりラジオに出演することはない。ただ、アラン相手となると別だ。アランがリンの言葉を引き出すような言葉を選ぶのだ。おまけにリンの性格であるツッコミ気質にアランが気持ちよくボケることができるそうだ。ツッコミができる人間はボケもできる、というのが定説だ。ボケがツッコミができるのは、ボケが天然であった場合がほとんどだ。アランもどちらかと言うとツッコミ気質な分スイッチングができるんだ、といつの日かのラジオで言っていた。
    「家も流石に不潔菌には勝てんか」
    「まず床から腐るんじゃないですかね」
    「タイルも無理か」
    「いや、タイルなら勝てそうですよね」
    「タイルならいけるか」
    「そうなるとジャパニーズホラーから無くなりそうですね」
    「いやもうそれでええねん。床が抜けんかったらええねん」
    アランは大きくウンウン頷いた。床に親殺されました?とリンは笑っていた。するとディレクターの奥から銀髪の男が顔を出した。
    「あ、」
    リンが声を上げた声にアランも視線をそちらに向けた。そこにはおにぎりを食べながらペットボトル数本が入った買い物袋を持ったスーツ姿の男が立っていた。
    「マネー」
    リンが何も気にすることなく声を上げるとおにぎりを頬張りながらその顔がリンを見て手をぶっきらぼうに振った。
    「治ぅ飯食いながら来るなよ。てか藤木Dも餌付けせんといてください!」
    そういうとブース内がほっこりと笑いが起こった。「治」と呼ばれたマネージャーはリンのマネージャーだ。他にもレンの面倒も見ている。大食漢な男で、リンのSNSでは時折食べ物の写真と一緒にマネージャーである治の食いつき度合いについての記録がなされている。シンスケやアランのマネージャーである侑とは双子だが、治はこの仕事をする前はフリーターであった。アルバイト先ではバイトリーダーとして年下の面倒を見ていた男だっただけあって予定管理能力はそこそこにあったためか、仕事にはすぐに馴染んだ。しかし何かを口にしていないと動かない。そこが玉に瑕である。しかし人によっては愛嬌というものだ。ものは捉えようで、そのマネージャーの愛嬌で仕事をもらえたりしているのだから、馬鹿にもできないのだ。特にこの「藤木D」と言われたアランのラジオディレクターは特に治のことを気にっている。
    「今ねぇ、治は藤木Dからチョコレート貰ってましたね」
    「おにぎりとチョコ食べてるんだけど……」
    「凄い食い合わせやな」
    「なにおにぎり?」
    呆れているようだがハムスターのような憎めない愛嬌は間違いない。そんな治はおにぎりの具を食い口から見せた。
    「梅干しやな」
    「美味しい?」
    「……美味しそうやな」
    すると藤木Dと打ち合わせを始めたのか、治はRECルームから視線を逸らして何かを話し始めたので、アランはリンに向き直った。
    「マネージャーで思い出したけど」
    「はい」
    「シンスケのマネの方は大丈夫やったんか」
    「そういえば凄い勢いでチャット来てましたね」
    「えー……『スンマセン』。『機材は大丈夫です』『ポンコツ』『飯抜き』だそうです」
    「それで治がご飯を食べてるのか」
    ニコニコとしているリンはこの後ご飯を食べに行こうかな~と言っていた。
    「そういや、この前言うてた朝飯のとこ」
    「ああ、そういえば本当に美味しかったです。小食の俺に丁度よかったですし」
    「せやねん。あそこの近くにな、また違う旨い和食屋があんねん。情報送っとくわ」
    「ありがとうございます」
    アランはとにかく情報持ちだ。レンとはまた違う情報通で、特に美味しいご飯に関する情報量は尋常ではない。飯屋に困ればアランだ。最近治が弟子入りしたらしく、治も関東圏に関してはよく知るようになってきた。しかしこれはどちらかというとリンの口が好む店情報が増えている、というのが現状だったりする。
    そんな2人が飯談義中だが、ヘッドフォンに「残り10分でーす」と藤木Dの声が聞こえた。
    「あーもう時間?マジ?ホンマや。あと10分や」
    「あっという間ですね、思った以上に」
    「早いなぁ~、ぁ?」
    響いたのはRECルームの扉のノック音だった。思わずアランは言葉を切った。そして何よりビックリしていたのはリンだ。2人揃って何も聞いていない。そして返事をする前に入ってきたのはマネージャーの治だった。
    治は何も声を発することなく2人の前に封筒を2通置いてそのまま出て行った。
    「え……?」
    「なん?開けてええん」
    ガラスの向こうにいる藤木がウンウンと頷く。
    「爆発するん」
    「違いますよ。こういうのは番組の打ち切りについて書かれてるんですよ」
    「嘘やろ?」
    「知りませんよ」
    「今猛烈に髪の毛抜けそうやった」
    「禿てもアランさんはかっこええですよ」
    「ありがとうお前しか友達要らんわ」
    「でもまああの言葉を選ばないといけないかもですけど……」
    「ホンマに滅んでもろて。え、これホンマに開けてええん」
    コメント欄を見る余裕なんて2人にはない。特にアランはリンのお陰で「番組存続の危機」である。コメント欄が見えない訳ではないので「じゃあなアラン」「元気でな」の文字を見ると要らぬ不安が無駄に積み上がってしまっている。
    「開けて良いそうですよ。じゃあアランさんから……」
    「ホンマに?一緒に開けよや」
    「嫌ですよ。俺番組終わる瞬間を立ち会うの無理です」
    「え~ホンマに?ええ、ええ……あ、開けんで……」
    「俺はアランさんの反応踏み台にして開けますんで早くしてください」
    「ほんっまに……いくで、いくで!?」
    ホラーゲームの扉の向こうを覗く気分だ。アランは涙目になっているが、気が付いているのだろうか。コメント欄しか気が付いていない。リンは目こそ笑っているが、封筒で隠した口元は引き攣っている。だから隠している。アランが「フー」と長い息をついて、封筒を覗いた。
    「……」
    「アランさん、目開けないと見えないですよ」
    「わかっとらい!!おだまり!!今見るて!!」
    うっすら開いたアランの瞳。リンも先程まで目が笑っていたが、今ではもう笑っていない。不安そうにアランの事を見ているが、きっと本人は気が付いていない。
    「……ん?」
    「え、なんなんですか?」
    「あ、や……これ、お前宛……やな?」
    「は?」
    「いや、【リン様】って書いてんで?」
    「え?なに。俺、やだ」
    「え?嫌て」
    「アランさん読んでください」
    「マジ?」
    今度はリンが冷や汗を浮かべる番だ。思い当たる節が何もないのだ。こんな、仰々しい封筒の中から出てくる書類をこの公共の電波で読んで伝えるなんて、今のリンには不可能だ。何度もいうが思い当たる節はない。怒られるようなことも褒められることも、悲しいお知らせをされるような節がない。一気に脳内が混線してリンは怯えて封筒を机に伏せてしまった。
    「よ、読むで?俺でホンマにええんか」
    「お願いします今度美味しい名古屋飯食べましょう」
    「一声」
    「全額奢ります」
    「よし」
    そういうアランは自分のことでは無くなったため身軽だ。さっさと書類を取り出して一通り目を通した。そして目を見張った。
    「読むで?」
    最後の質問にするつもりだ。リンのことを見たアランの目はしっかり開かれていて、リンはその目にちょっと怖気づいて唾を飲み込んだ。そして恐る恐る頷いた。アランは口を開いた。
    「『リン様 あなた様は来冬全国公開ロードショー予定作品【共犯】にて、W主演の1人佐久間役に正式に合格されました事をここにご報告致します。つきましては、下記日程より撮影が行われますので、ご参加いただきますようお願いいたします。この度は誠におめでとうございます。何卒我々撮影チームの1人としてよろしくお願いいたします。監督より』……やば……おめでとう……」
    読み終わったアランがあんぐりしている前で呆然としているのはリンだ。あんぐりの次のリアクションは首を傾げるだけだった。コメント欄が目で追うことができない速度で流れていく中、アランはコメントを読むのを諦めて、紙に書かれた文字の続きを読み始めた。
    「『追伸。尚、W主演ということでお相手の主演様は、シンスケ様と決定しております。』えーっと……シンスケもおめでとうな……?」
    「……か、」
    「は?」
    「かえります、おつかれさまでした」
    「え!?」
    震える声でリンは立ち上がってフラフラとよろけながらRECルームを出て行った。呆然としたのはアランだ。RECルームから出て行ったリンは治に腕を掴まれたがその腕の中に倒れていってしまい「リンくん腰抜けてるやん」という藤木Dの言葉を聞いてアランはようやっと笑い出した。タイミングよく流れるEDジングルに合わせてアランは話始めた。
    「え~来年の冬?にリンとシンスケが映画W主演します!おめでたい!リンは腰抜かしてブースの外に座り込んでるんで許してやってや。じゃあまた来週聞いてな。」
    「ヤバイでしょ!!治!!絶対今じゃない!!」
    「ウハハ」
    「ほな~『アランのオーバーライドラジオ』でした~!」
    「治ー!!」
    伝説回を作るのは案外簡単らしい。アランは静かに音量コントローラーの抓みを捻った。
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