よみかきのできないすなくん父に連れられて降り立ったそこは
基地と呼ぶにはあまりにも寂れていた
夏だというのにひんやりと暗く黴臭い
それと今まで嗅いだことのない何かが
胸の奥下の方をぐっと刺激した
床に転がる人々の生死はわからない
まだ生きているからここにいるのだと
そのような意味の言葉を父が発したが
理解出来ずに素通りしていった
なるべく息を吸い込まないように口を閉じ
しかし興味深いこの空間に視線を泳がせた
外に出ると光は眩しく空気も正しく戻った
そこに1人の少年がいた
歳は多分自分と同じくらい
ボロ切れのような服を纏い
そこから細く長く生えた手脚は黒く汚れ
たくさんの痣や傷が見えた
しゃがみこんで何かしている
父の目を盗み近づくと、
折れた小さなナイフで地面を削っていた
「なぁなにしてるん?」
背後から声をかけると
ザッと音を立て振り向きざまに
折れたナイフを向けられた
その目は鋭く尖っていて
向けられたそれが殺意だとわかった
しばらく身体は固まったままで
父の呼ぶ声に我に帰りその場を後にした
ちらと見た地面には
線のような模様のようなものが刻まれていた
今日も何も満たされないまま寝床に伏し
昼間見た生き物を思い出す
武器は持っていなかった
白い顔 綺麗な服 間抜けな声
全て作り物のようだった
子供だったかも知れない
時折やって来る偉そうな大人達、
それと違うことはわかった
しかし初めて見たその生き物を
呼ぶための名前はわからない
殺すか、殺されるか、どちらかひとつ
そう自分の身体は言うのだ