第1話 はぁ?俺がプリキュア??「侑、この後ええか」練習後突然声をかけられ、条件反射で返事をする。「はい!すんません!! 」北信介は不思議そうな顔をしてそのまま体育館を後にした。「なぁサム、俺なんかやらかしたか……? 今回はほんまにわからへん……」「いつもわかってへんやん。罪が軽いうちに早よ怒られてこいや」「なんで今回お前おらへんの? 裏切りやん」喧嘩をふっかける気力もなく「なんでや……」とぶつぶつ呟きながら着替えを済ませ更衣室を後にすると「侑、ちゃんと謝るんやで」「何やらかしたか明日教えて、じゃーね」「今日は3人でマクドやなぁ」と帰っていく薄情者達を見送った。廊下で1人途方に暮れているといつもと同じ抑揚のない声。「侑。お疲れさん。ちょっとええか」「ハイ!」背筋を伸ばし返事する。「場所変えよか」それだけ言うと北は歩き出した。怒っているとは思えないが侑が声を発することができる雰囲気では決してない。しばらく歩くと人気のない校舎裏についた。足を止めて正面を向いた北はいつもより一段と厳かでこの世のものではないオーラを纏っていた。何か言うことないか、と説教がはじまることを覚悟したその時「驚かんと聞いて欲しいねんけど」「はい」「侑、お前、プリキュアにならへんか」「はい……って、え!? プリキュア? 何? 北さんどないしたんですか? 」素直に突っ込んだ方が良かったのかと考えたが有無を言わさぬ雰囲気にそれすらも出来なかった。いつも的確な突っ込みをくれるアランの存在が恋しくなり泣きそうになった。これでは関西人失格である。北は続けた。「俺ほんまはキタキツネやねんか。地球温暖化って知っとるか。あれな、やばいねん。あれが進むと俺らは生きていかれへんようになる。でもめっちゃ悪い奴らがおってな、そいつらが人間の熱狂をエネルギーに変えて温暖化を加速させよる。誰かが止めなあかん。俺らはただのキツネやからそれを止める力がないねん。人々を熱狂させる力のある人間に少しだけ手を貸してそいつらに助けて貰うしかないねん。つまり、プリキュアや。お前ならそれが出来る。人助けやと思ってプリキュアになってくれへんか。」「いやいやいや待ってくれどこから突っ込んだらええかわからへん」言葉の意味は一応わかったが内容は全く理解できない。「これは新喜劇でもなんでもない、ほんまに世界に迫ってる危機や。俺は1年間お前を見てきた。お前しかおらんねん。」愛の告白だったならばロマンチックだがプリキュアという言葉があまりにも浮世離れしていてそこで思考が止まる。「……プリキュアて、あの、なんやひっらひらの服着てキラッキラの武器でわるもんと戦う女の子のやつですよね」「そうや」「俺が……プリキュアに……? 」「とりあえず変身してみたらええわ。目立つしモテんで」そういうと徐にホイッスルを取り出した。電飾や蛍光とは違う不思議な光に包まれたそれは雪のように白く透明に輝いていた。真ん中に紅い石が見える。「これ吹いてみ」訳もわからぬまま吹いた。ピーッと鳴ったそれは試合会場で何度も聴いた音で気分を高揚させた。瞬間、光が侑を包み込んだ。着ていたはずのジャージは瞬く間にキラキラと輝く衣装に変わり、ふわふわとしたスカートが現れ、使い古したスニーカーはロングブーツへと変わった。最後にホイッスルが胸元の飾りへと変わると侑はすっかり生まれ変わっていた。「キュア・アモーレ!」勝手に口から出た言葉に驚いたのは侑だけではない。北は目を丸くした後珍しく笑顔を見せた。「アモーレ……! お前やったら絶対に世界を救える。俺と一緒に頑張ってくれるな? 」「いやほんまに意味がわからん……衣装やばいやん……これいける? 」「ええやんめっちゃ似合ってんで」こうして宮侑はキュア・アモーレとしてキタキツネの妖精北信介と共に戦うこととなった。