【无風】中秋節「今夜の月は格別だな。白く皓々と光ってる。すごくきれいだ」
「そうだね」
返事をしつつ、満足げに自分を見上げている風息を見下ろす。
虚淮はそこに座って。立っててもいいけど、座っている方が楽だろう?
そう言って岩の上に私を座らせて、自分は少し下の段に腰を下ろすと、風息は杯を片手に月見酒を始めた。見上げる視線の先には私の顔と満月がある。
「これじゃ私が月を見られない」
風息は満足そうだが、私は月を背にしている。見えるのは月ではなく、満足そうな風息の顔だけ。これはこれで悪くはないけれど。せっかくだから共に月を眺めたい。
「ああ、ごめん。もう少し横向きに座れば見えるか?」
「そうだね」
少し斜めにずれて座り直す。そうすれば斜め上に月が見えた。これなら月も風息の顔も両方見える。己の視界に満足し、手を伸ばして私にも杯を寄越せと促せば、笑って手渡された。
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