たくさん、買ってきました。在庫がなくなった、とメールを受け取ったのはいいものの、アーサーはコンビニに立ち寄ってはて、と首を傾げた。
いつもはどこのメーカーだったか?から、始まり、どの位必要なのか…とまで考えが及んでしまい商品の並ぶ棚の前にしばし立ち尽くす。
悩んだのは一応として僅か数秒、まぁ足りないと言われるよりかはマシだとその棚に並ぶそれらを手当たり次第、買い物カゴにへと放り込んだ。
ーーー「そしたら、店員さんが何かすごい顔しててね?」
「そりゃそうでしょうよ!!」
買い物での出来事を話すアーサーが軽々しくも笑う側でソファの上で置かれるコンビニの袋の中身に対し、メールの送り主たる立香は置いてあったクッションに顔を埋めた。
「何をどう思ったら、棚にあるゴムを全部買おうと思った⁉︎」
確かに切らしたから、とメールを送ったのは間違いなく立香ではある。
しかし、まさかこんなに買い込んでくるなんて誰が想像した。
棚にあったもの全部買い込んだと告げていたことから、袋の中には様々なメーカーの様々な種類のゴムの入った箱がいくつも詰められている。
3つ数えた時点で、立香はもう数えるのをやめた。
1箱でも大体5個以上入っているものが殆どなのに、それをいくつも買い込んで来るって、何を考えているのだ。一度に何個消費するおつもりなのか。
コンビニの店員さん、さぞ驚いたに違いない。
いや、驚いただけならまだいいだろう。
っていうか、次からそのコンビニに一緒に迎えない、非常に気まずい。
「え、足りない?」
「こんだけ買い込んでどうして足りない⁉︎」
そういう問題じゃない、と立香が熱の集中する顔を勢いよく持ち上げる。
が、アーサー本人は既に隣に腰掛けていて、立香の顔を覗き込んでいる状態。
思ったよりも近かったせいか、咄嗟に出た感想というのが「顔がいい」と一言。
それに対し、アーサーも気分がいいのか「ありがとう」と微笑む。
「ところで、いつも使ってるものとどう違うのかな?これ、箱に書いてる数字って、薄さだよね?」
「……お願い、口閉じて…」
普段は立香が通販を利用して準備する為か、アーサー自身で選ぶ機会がない為、本人は非常に興味津々のようだ。
そんな事まで説明しろと言われても、立香の頭はとっくに沸騰していて、碌に言葉もままならない。
しくじった…どうして今日に限って切らしたなどとメールを送ってしまったのか。
1個1個箱に書かれる説明文を確かめるように読み込む横顔もまともに見れず、立香は再びクッションに顔を埋めた。
程なくして、肩をツン、と突かれる。どうかしたか、とのそりと顔を上げればアーサーは1個の箱を立香に差し出した。
これを使ってみたい、という事だろうか。立香はぐつぐつ茹る頭のままに、差し出されるそれを受け取る。
「……なに?」
「よく分からないけど、表面にツブツブがついてるんだって」
視線を合わせる際の、アーサーの表情がいかにも「面白そう」と、何かを発見した子どものようなものになっている。
なぜ、こういう時に限って、彼はこんなにも幼く感じるのだろうか。
それを一瞬でも可愛いと思ってしまった、自らが非常に悔しいと、立香は唇を引き結ぶ。
しょうがないな、と気恥ずかしさもその他もごちゃ混ぜになってしまった状態ではあるが、立香はクッションから、目の前の人物の頭を抱えるべく腕を伸ばした。
がっしりと頭を抱え込んだまま、ソファの上で横になれば、やや覆い被さるかのようになったアーサーから微かに笑い声がもれ、その振動が胸元が響き渡った。