笑顔の理由おやおや、と出会い頭に騎士は微笑む。
…と、いうのもマスターの少年がニコニコと随分とご機嫌に表情を緩めていたのを見たからである。
「何かいいことでもあったの?」
騎士ことアーサーは籠手を嵌めたままではあった両手を差し出し、満面に微笑む少年、立香の頬を柔く挟んだ。
触れたことにも差して驚くことはなく、むしろ更に表情が緩んだようにも思えて、つられて騎士はつい笑いをこぼしてしまった。
「いや、さっき食べたデザートが美味しかったってのもあるんだけど…」
騎士の手に顔を挟まれたままでも、立香は笑顔のまま軽く状況を伝える。
今日は何かといいことが多かったそうだ。
立香からの話ひとつひとつにアーサーは軽く頷き、時に目を丸くする。
それでも、最後に少年が満面に微笑むので、アーサーも最後には口元を綻ばせた。
たとえ自分がすぐ側にいなくても、少年が笑ってくれている状況にあるのなら、それはそれで嬉しいことだ。
アーサーは頬を挟んでいた両手に僅かの力を込めて、その柔らかさを少しだけ堪能する。
「でもね、」
「ん?」
そうこうしているうち、騎士の両手の上に、少年の手が重なる。
満面に微笑む相手に向かい、騎士が緩く首を傾げていれば、にっこりと微笑む少年の顔が一歩分、近づいた。
「今日はアーサーとも話が出来て、もっとラッキーだなぁって」
サーヴァントの数が多いカルデアでは、接触する機会は限られている。
その為、アーサー自身も立香と接する時間は差して長くもないことは確かではあるが、少年からの言葉にアーサーはしばし、目を丸くする。
「…そういう、ものかい?」
不思議な感覚でアーサーが尋ねれば、コクコク、と頬を挟まれたままの少年は何度となく頷く。
その満面の笑みを見つめながら、アーサーは何だか自身の唇が引き攣りそうなのを覚えた。
「あ、ちょっと笑った」
「い、いや…、」
「笑ったよね?」
やや視線を外そうとする騎士に対し、頬を挟まれたままの少年がずい、と顔を近づけて表情を確かめようとしてくる。
慌てて距離を取ろうと思った騎士であったが、そもそも自分が少年の頬を両手で挟んでいたことを思い出し、慌てて離そうとしたものの、その手ががっしりと少年の手に捕まってしまった。