おまえじゃない「ただいまァ」
間延びした声とともに家主が帰宅した。
ベッドサイドで躰を休めていた俺と眼を合わせると、家主はもう一度「ただいま」と口にした。
天井が真っ白く光る。普段であれば、三段階のなかで一番弱い明かりが灯される電球が、なぜ。眩しさに眼がくらみ、思わず物影に隠れた。胸がざわつく。
ベッドに腰掛けた家主が、俺を覗き込んだ。
「えっ、ミッチー、それ毒蜘蛛じゃねーの?」
「おう」
軽い応答を返す──ミッチーと呼ばれた──家主。その後ろに佇んでいた小柄な男が、ぎょっとした表情で俺を凝視している。しかし、まぶたが大きく開かれたのは、ほんの一瞬であった。すぐさま細められた黒い眼が、訝しげに俺を睨んだ。嫌な眼だ。男が家主の隣に腰を下ろす。ベッドのスプリングが、二人分の重さを受けて大きくへこんだ。
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