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    ann

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    ann

    DOODLEしぶにもあげた【90年代、少年み増し、全部ふわふわ捏造、ただの後輩先輩距離感】のよみつ。ちょっと手直しした。こういうのを繰り返して、ここからどうなるのか、というのが好き
      雨が降り出すであろう兆しに、スンッと鼻を鳴らし向かい風を吸い込んだ。雨の匂いというのは、植物の油の匂いだと、昔教えてもらったことがある。それが本当かどうか調べるすべを当時の水戸は持ち得なかったが、小雨の気配を感じる度にふと思い返している。
     バイクを走らせながら、まだ日の高いはずの西の空に目を向けると、どんよりと沈んだ雲が広がっているのが見えた。重い一雨が来そうだ。そんな小さな予感が、今の水戸の心をいっそう憂うつにさせた。

     先ほどまで従事していたバイト先での出来事を思い返す。どうにもうまく立ちいかない日だった。
     水戸がレジでお釣りを手渡していたとき、商品の陳列をしていた新人が酒瓶を割ってしまったのだ。床がアルコールと瓶の破片でひどい有様になっていた。怪我はないか、と尋ねても慌てふためき[[rb:覚束 > おぼつか]]ない返答をする後輩──実際には水戸よりも年上だが──。その狼狽具合に叱責を浴びせる気にもならず、水戸は床の清掃を肩代わりして、レジの仕事を託した。用具入れからモップとちりとり、それから使い古された雑巾を手に取り、酒棚の横に黄色いサインスタンドを立てた。無心でフロアを片付けていく。平日の昼過ぎ、昼食用の弁当などを買いにくる団体がはけ、客の少ない時間帯に入っていたことがせめてもの救いだった。
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