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    ann

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    🕷飼ってる三の洋三ネタ、フリ素だから読ませてほしいよー!
    これは書きたいとこだけプロットにしたらくがき!手直しもなんもしてない

    おまえじゃない「ただいまァ」
     間延びした声とともに家主が帰宅した。
     ベッドサイドで躰を休めていた俺と眼を合わせると、家主はもう一度「ただいま」と口にした。
     天井が真っ白く光る。普段であれば、三段階のなかで一番弱い明かりが灯される電球が、なぜ。眩しさに眼がくらみ、思わず物影に隠れた。胸がざわつく。
     ベッドに腰掛けた家主が、俺を覗き込んだ。
    「えっ、ミッチー、それ毒蜘蛛じゃねーの?」
    「おう」
     軽い応答を返す──ミッチーと呼ばれた──家主。その後ろに佇んでいた小柄な男が、ぎょっとした表情で俺を凝視している。しかし、まぶたが大きく開かれたのは、ほんの一瞬であった。すぐさま細められた黒い眼が、訝しげに俺を睨んだ。嫌な眼だ。男が家主の隣に腰を下ろす。ベッドのスプリングが、二人分の重さを受けて大きくへこんだ。
    「おう、ってあんた……何だってこんなもん」
    「大家さんの掃除手伝ってたら見っけた!かわいいだろ」
     声を弾ませ、彼は男の方へと振り返る。男は眉間のシワを隠そうともせず、視線を俺から家主に移した。
    「だから何で、わざわざ虫カゴに入れてまで部屋に置いてんのさ」
    「だってよう……オレのことなんて簡単に殺せるヤツが飼い慣らされてんのって、良くね?」
     ククと家主の喉が鳴る。俺に向かってのものではないのが残念だが、幸せそうな表情であろうことは想像に難くない。初めて会った日から、彼の笑った顔が好きだ。
     男がため息をつく。
    「絶ぇっ対、飼い慣らされてねーから、それ。危ないから」
     ほら、と手を伸ばしてくる男の腕を、彼がやわく叩き落とした。膨らんだ頬が見える。
    「お前に渡したら殺しそうだから、やだよ。だいたい、蜘蛛は殺しちゃだめだって言うだろ」
    「それ、朝蜘蛛は〜ってやつでしょ。突然、信心深くなられてもなぁ?」男は、彼の手──叩き落とした形のまま宙に浮いていた──を掬うと、やわやわと揉んでから言葉を続ける。「しかも、『毒蜘蛛は見つけ次第、安全な方法で殺処分してください』って最近ニュースでも話題じゃん」
     誤解があるようだが、俺に毒はない。だが、家主である彼が毒蜘蛛を所望しているようなので、今はまだ秘密にしている。いつか教える日がくれば、きっと「なんだ、ただの可愛い蜘蛛だったのかよ」と笑ってくれるだろう。そう。その日まで取っておくのだ。
     




     ベッドに押し倒された家主が、透明な板越しにぼやけて見える。その時俺は初めて、この男と居るときの家主の顔を見た気がする。いつも俺に向けている顔だ。眼球全体が水分で覆われている。きらりと電球の光が反射した。まぶしい。
    「みと……」
     甘ったるい声で名前を呼ばれたので、まぶしいのを我慢して「どうしたの」と問いかけた。
    「ん?どうしたの?」
     俺が尋ねるのと同時に、家主に覆い被さる男の唇が動く。そうして薄く染まった目尻に口付けた。水気を含んだ音に寒気がする。彼がまぶたをぎゅうっと閉じて、眉を寄せた。
     助けなければ──使命感に襲われ、脚を進めてみたが、眼前の薄いプラスチックが俺を阻んだ。カツンカツンと鳴る滑稽な音は、再度落とされる耳障りなノイズに掻き消される。
     彼の唇がぱくぱくと開閉を繰り返して、男が頷くと、俺の視界は途端に真っ暗になった。
     それから何やら、聞いたこともない音がたくさん聞こえた、気がする。彼の顔が見られないため、暇になった俺は暗闇の中で躰を丸めた。
     次に意識が浮上したのは、何者かの気配を感じたからだ。気が付くと、薄暗い視野の大部分をかの男が占めていた。二つの黒い丸がぎょろりと俺を見下している。地面が揺れたかと思うと、躰が浮遊感に包まれ、俺は咄嗟に糸を伸ばした。虫カゴとやらの裏蓋から垂れ下がる俺を眺めた男は、うっそりと眼を細め、嬉しそうに口笛を吹く。
    「もう夜だもんね?」
     俺の意識はそこで途絶えた。

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    TRAINING洋三ワンドロワンライ 5/5「かさぶた/火をつける」

    ※洋→←三
    ※三に自分は相応しくないと思っている洋の独白
    ※三はほぼ出てきません
    ※流血表現あり
    建物と建物の間の路地、喧嘩するにはうってつけのような場所に壁に寄りかかって座り込んでいる。周囲はここで誰かが暴れましたよと言わんばかりの散らかりようで、逃げて行ったやつらの痕跡といえば勝ったもののちょっと立てそうにない自分と、血の付いた刃物だけになっている。
    無意識に手で押さえている脇腹が熱い。ガキの喧嘩で刃物なんか出してくるんじゃねえっつんだよ。

    別に調子が悪いわけではなかった。いやうそだ、少しぼーっとはしていた。気温とか空気感とか色々とあまりにもあの日と似通っていて、望んでもいないのに壊れたビデオテープのように何度も彼の顔を繰り返し思い出していた。
    注意力が散漫になっていたのだろう、ぶつかったぶつかってないのありがちな諍いは、ヒートアップする前に相手の数人のうちの一人から上がった「お前水戸だろ」の声を発端にあっさり殴り合いに切り替わった。どこで買ったか覚えていない恨み――というよりただの逆恨みから始まった小競り合いは結果としてどいつも大した事はなかったが、粘着そうな雰囲気をした一人が刃物を持ち出したことにより空気が一変した。
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