ずっと前からカービィ達と時を同じくしてこちらはプププランド、まあまあ大きいデデデ城の廊下を2人の騎士が歩いていた。
顔も姿もほぼ似ている2人だが、今日の表情はいつもと違い真逆のものだった。
「はぁ……。」
深いため息をつくメタナイトに対し、
「何だよ、俺と一緒なのが不満なのか?俺は別にオリジナルと一緒でも問題ねーけどな。」と若干機嫌の良いダークメタナイト。
「いや、そうではないんだが…。」言葉を渋るメタナイトにダークはニヤニヤしながら語る。
「どうせ彼女に何も言わず出てきたんだろ。」
「…くっ…!」
何故わかったといわんばかりの顔をするメタナイト。普段クールな彼がカービィが絡むと色々な表情を見せる事を本人は知らない。
「大丈夫だ。シャドーにアイツを家に呼んでいいぞって伝えてある。今頃和気あいあいと盛り上がってるんじゃねえか?」
その話を聞いてほっとするメタナイト。
ここ数日ハルバートでの仕事が忙しく、恋人とすれ違い状態であったので彼女に対し申し訳ない気持ちがずっとあったからだ。
「そうか…良かった…。」
安心したであろうメタナイトの姿を横目でチラッと見てダークは続けて呟く。
「それに、俺も家にシャドーひとりだと心配だしな。アイツならシャドーの親友だから変な気も起きないだろうし、それに…。」
「それに…何だ?」
何だかダークの様子がさっきから少しおかしいと思いメタナイトは聞き返す。
「シャドーが…凄く喜ぶんだよ……。『ダーク様、ありがとうございます…。ぼく…ずっとカービィをお家に呼びたかったんです!!』って…。」
素顔の目尻が下がった。見えないが口元も少し緩んでいる様な気がする。
こちらも普段なガサツな分、ギャップが激しい。
「ふむ……そうか…。シャドーと一緒ならこちらとしても有難い…。」
平静を装っているがメタナイトの内心は驚きを隠せなかった。あのダークが頬を染めながら惚気話をするなど考えた事がなかった為だ。そしてすこし気持ち悪いと思ってしまうのは鏡の分身である彼を自分に当てはめて想像してしまうから。
そんなこんなで微妙な空気を醸し出しながら目的地であるバルコニーにたどり着いた。
「よぉ、待ってたぜ。」
そこにはこの城の主であるデデデが椅子に座って待っていた。椅子の前のテーブルにはお酒と沢山のおつまみが早く食べて欲しいと言わんばかりに主張している。
「すまない。ダークを待っていたら遅くなってしまった。」
「はぁっ?約束の時間より30分も早いのに遅くなったってどういう事だよ?」
テラスの外に向けてテーブルを挟むように三角に置かれた椅子の両ふちに同じタイミングで座る2人、その様子を見てデデデは笑う。
「普段は互いに犬猿の仲だと言っているのに仲良しじゃねぇか。面白いな、お前らは。」
「「は!?誰がコイツと!」」
「ははははは!本当は仲良しだが互いのプライドがあるもんな。わかったわかった。もうこの話はおしまいに……ふははっ!」笑いながらも2人にワインを薦めるデデデ。
「全く…大王は…いつもわかった様な態度をする……。」
ぶつくさ言いながらもワイングラスをデデデの方に傾けるメタナイト。顔は会わせないが少し照れているようだ。
「まぁ、俺は自分が1番だが、オリジナルが居ないと困るからな。」
片割れは2人と目をあわせるように前を向き、ニヤニヤしながら同じくデデデに向かってグラスを傾ける。
「それより……今日大王が私達を呼んだ理由は何だ?」ワインを一口飲み、おつまみのリンゴチップスを頬張るメタナイトにダークは食いついた。
「アレだろ!?大王様は、おめーらがどこまで進んでるんだ?って聞きたいんだろ?」
勢い良くワインを吹き出すメタナイトの横でデデデは「はぁ!?お前、独り身の俺様の事分かってて言ってんのか?俺達は違いますよーっていう当て付けか?」
とテーブルの上のものがひっくり返りそうなくらいの勢いで椅子から立ち上がる。
「何だ、違うのか?俺はてっきりそうかと思ってたぜ。」
ニヤニヤしながらスモークチーズのお皿を手にのせ、ぱくぱくと食べるダーク。
「お前なぁ、そんなんじゃあの蝶々に愛しのあの娘とられちまうんじゃねぇのか?ガバッといっちまぇよ。」
核心をつかれ、言葉に詰まり椅子に腰を落とすデデデと手を伸ばしたカナッペを落とすメタナイト。
「お前、はっきりと物を言い過ぎだ…少しはなぁ…」
半分怒り交じりの言葉で返すメタナイトに対し、
「……俺様にそれが出来たら苦労しねーわ。」
とすこし諦めた様な弱気な返事を返すデデデ。
あの大王が珍しく弱気である。このままではいけないとダークは思った。
あの時戦った迫力が今は全くない、俺を封じ込めた位のパワーはある筈だ。それを何故、恋愛に生かせないのか、なら……俺達が背中を押してやるしかないな。
今なら、変なことを言ってもアルコールのせいでという言い訳が出来るしな…。
と、短い間に色々考えた後、ダークは口を開く。
「デデデ………そんなんなぁ、酒の勢いとかムードを作っちまえばあっちゅー間よ?ガバーっといっちまって既成事実でも……なんてな。ちょっち大王様にはハードだったか?」
ダークのあまりの豪快な態度に言葉が出ないメタナイト。
ダークはそのまま続けて話す。
「デデデ、お前には押しが足らねぇんだよ。戦闘は押して行くスタイルなのに恋は奥手でどうするんだ。勿体ねぇ。」
追加のワインを飲みながら話を続けるダーク。
「相手もアイツとの間で揺れ動いてるんならこっちがアタックしねーと一生このままか……もう1人のアイツが先にアタックしてお前、振られるぞ?」
ズバッと、真っ直ぐな瞳でデデデに訴えるダーク。
その瞳が本気なのはデデデにも痛いほどわかった。こいつも横に居る騎士と同じ目をしている。幾度との戦いで何度も見てきた。
こいつと同じく…俺も本気にならなくては…。
「…わかった。」
「おいっ…大王…本当に良いのか?」
ダークの圧に押されたかと心配するメタナイトの横で、
「…確かに俺様はアイツに振られるのが怖い。…今までの関係が崩れるのが怖いから前に進まなかっただけだ。」
少し暗い声色で語り出したデデデ。
その横で無言で見つめるダーク。
デデデは暫く黙った後。
「……コイツのいう通り自分の気持ちにケリをつけなきゃな…。アイツが他の奴のパートナーになっちまうのは…そんなのは俺様は嫌だ!!……だったら当たって砕けろの精神で行くぞ!!振られたらその時だ!!」
拳を握りしめ、強く上に掲げたデデデ。さっきとは違い、強く自信がある声に変わっていた。
「おおー!すげーなお前!良い判断じゃねーか。俺は応援するぜ!おい、オリジナル、お前はどうだよ?」
と喜んでいるダークに対し、
「!!そんなこと…大事な盟友の恋路だぞ?応援しない訳ないじゃないか。…だが…急すぎないか…?大丈夫なのか?」
友人というか親の様に心配をするメタナイト。
「…いいや、どこかで決めなきゃなんねー所だったから今回がベストな時だと思っている。2人とも感謝するぜ。…えーと………あと……そのだな…。…もし上手くいったら…色々と今後の事教えてくれねーか?」
いつもの明るい笑顔で、でも少し恥ずかしそうに伝えるデデデを見て
「いいぜ!!上手くいったら夜の事を手取り足取り…」
と、手をわきわきしながらにやつくダーク。
「わああああ!!やめろ!お前だったら2人の目の前で色々やりかねない!シャドーがかわいそうだ!」と焦るメタナイトに、
「は?シャドーは俺のモノだし他人に見せつける気はねぇよ。ってかお前の方がやべーわ、ムッツリナイトさん。」と煽り返すダーク。
「キィィィ!!貴様あぁっ!!」
ギャラクシアを取り出して臨戦体制に入るメタナイトに、
「何だよ!ムッツリにムッツリって言って何が悪いんだよ!」と応戦するダーク。
その近くで新しいつまみを運びながら、
皆さん…楽しそうで良かったです…大王様…頑張ってください…。
と陰ながら応援するバンダナワドルディ君であった。
後日、グリーングリーンズの丘の上、
「…急に呼び出して…どうしたの?デデデ。」
「ポポポ…。」
バルフレイと会わない日を聞き出し、ポポポを呼び出した。
「しかも1人で来て欲しいって言うし……僕にしか言えない大事な話でもあるのかな?」
「……あのな…!ポポポ …!」
「……俺…ずっと前からお前の事…!」
心拍数が上がり、顔に熱が集まってくる。
「デデデ…?」
「ずっと前から…お前の事……1人の女性として……魅力的に思っている……。」
ザザザ…と草原に風が舞う。
「デデ…デ……?」
「本当は今までみたいにアイツと三人で馬鹿やってた方が幸せだったのかもしれねぇが……俺には無理だった……多分……アイツもポポポの事を…好いているだろうから…。」
「えっ……ちょうちょ君が…!?」
「……ポポポにとっては幸せだったのに…俺が…関係を崩しちまう…ごめんな…ごめんなポポポ…。」
膝を落とし、両手をついて頭を下げる。
まるで…彼女ともう1人の男に謝っているかのように。
「デデデ……。」
ふわっとデデデの周りが暖かいもので包まれる。
「デデデは…悪くないよ……僕が……2人にいい顔してるから……2人に気を持たせるような態度をとってるからだよ……ごめんね。」
ポポポがデデデを優しく抱き締める。
この暖かさ、自分が望んでいたものだ。でも…彼女は?彼女は本当にこの展開を望んでいたのか…?急にデデデの心に闇がドロリと近づいてきた気がした。今までの戦いには無かった、恐ろしい程の不安が。
「違う…!違う……っ!!俺様が……っ!うわああああ!!」
その瞬間、デデデは今までの気持ちが涙となり溢れ出て、叫ぶ様に泣いた。
ポポポは無言で滝の様に流れるデデデの涙をそっと拭って瞼に口付ける。
「……ごめんね。…君を泣かせるつもりはなかったのに……。」
「…ポポ…ポ……。」
「……僕が……僕の気持ちを伝えなきゃね……ありがとうデデデ……。大好きだよ。」
「ボポ……ポ…?」
「確かに……ちょうちょ君の事も僕は好きだよ。……でも………将来の事を考えて共に歩きたいと思うのは…君しかいないよ。デデデ。
…辛い思いをさせてごめんね。」
優しく微笑んだ彼女の後ろに陽が射してキラキラ耀いている。不安という心の闇が浄化されていく。
「はは………まるで…。」
女神みたいだ……とデデデは思った。
「ん?どうしたの?デデデ。」
「いんや…何でもねぇ。……それより…応援してくれた友人に…今日の事伝えても良いか?」
「……君の事だから…友達に色々話したんでしょ?…いいよ。」
「…ありがとう。ポポポ。」
デデデは優しく彼女の手を握り、城に向かって歩き出した。