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    スドウ

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    スドウ

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    【主明】夏に関係を持つふたり。無印軸
    文舵練習問題4-2:構成上の反復。こうじゃない気がする。
    夏のいや…な湿度が書きたかった。

    夏は過ち 吹き出た汗が額を伝う。項にも、背中にも、足の間にも。身体に貼り付く服を剥がしながら、腕や足を無心に動かす。湿った布地が剥がれては触れ、剥がれては触れ、と不快感は着々と溜まっていく。
     こめかみから伝った一筋の汗が左の目に入り込んだ。体温とは違う生温さで、暁の視界がぼやける。朝から夕方まで延々と、太陽に焼かれた交差点のコンクリートの熱が、目の前でくねっている。
     密集した群衆から沸き立つ体温が滞留し、肌に纏わり付く。重苦しい空気に、息をするのさえ煩わしい。見知らぬ誰かにねっとりした視線で見つめ続けられるような、そんな心地だった。
     通学鞄の中にいるモルガナのために仕込んだ保冷剤も、もうぶよぶよとした無価値な物体へと成り下がっている。コンビニで買ったペットボトルジュースも既に生温く、漂う湿度をそのまま体内に流し込んでいるような気持ちにさせた。早く帰りたい。
     赤信号に切り替わる直前で、交差点を渡り切る。次の変色を待つ為、信号前には既に人々がたむろしていた。その人ごみの中に、暁は一つの影を見つける。
     数ヶ月前に知り合ったばかりの、一つ年上の他校生。明智吾郎、と昨日見たテレビ番組の青いテロップを思い出す。
     明智は手にしたスマートフォンを見下ろしていた。もう片方の手で、男にしては長い髪を耳にかける。スマートフォンから顔を上げても、距離が近付いても、明智は暁に気付く様子はない。暁も、わざわざ明智に声を掛ける理由がない。そのまま二人はすれ違い、離れていく。
     じっとりとした熱気に、新しい汗が吹き出し、それをまた服が吸う。暑い、と暁は呟いた。
     暑い。暑い。くせっ毛の中にも熱と湿気が籠もる。
     暑い。暑い。茶色い髪がかかった赤い耳と、水滴が光った横顔を思い出す。
     あいつも暑いのか。そんな当たり前の事を考えた。


    「声、掛けてくれても良かったのに」
     今の今まで濡れた食器を拭くのに一生懸命だった暁は、男の顔をようやく見た。定位置となりつつあるカウンター席から、頬杖をついた明智と視線が絡む。
     純喫茶ルブランの窓から差し込む光が、夕暮れから街灯の明かりに変わってどれくらい経っただろうか。店主不在の店内で、テレビ代わりに聞き流していた男の声は、暁に会話を求めた。何の話、と暁は首を傾げてみせる。 
    「一週間前、渋谷の交差点ですれ違った時の話だよ。君、僕のこと見てたよね」
    「人違いじゃない?」
     冷房の風を受けて、暁のくせっ毛が揺れた。年配の客が多いからか、店内がよく冷えるように冷房の設定は強風だ。明智の髪とシャツの半袖も、風に撫でられ揺らめいた。
    「心外だな。僕がそんな間違いをすると思う?」
     明智が浮かべた微笑みは、テレビ越しによく見るものだった。世間で探偵王子と持て囃されるだけある、完璧な笑顔だ。
     作り物のようにさえ感じる表情から視線を外し、暁は水切りかごから最後の食器を手に取って拭き上げた。タオルを干し、食器を棚に戻す。明智の視線が、背中を舐め上げる気配がする。
    「ね、分かるだろう?」
     一仕事終えた暁は、明智へと向き直った。鬱陶しさを込めた視線を答えとして受け取ったらしい明智は、眉を上げて満足気な表情をしている。
    「あんな熱い視線送られたら、誰だって気付くよ」
    「あのさ、もう閉めるから」
     ぶっきらぼうに言い放つ。マスターが居たら怒られそうだと思った。態度も言外に匂わせるセリフも、マスターを参考にしたものだというのに。
    「マスターが淹れてくれたコーヒーを、飲み残しても構わないなら」
     背の高いグラスには、半分程残ったコーヒーに溶けて小さくなった氷が浮かんでいる。
     いつもペラペラ口を動かしているのだから、少し休ませるくらいしたら良いのに。
     そうすれば今頃、暁だってモルガナを連れてファミレスの新作メニューに舌鼓を打つことも出来ただろう。そのモルガナはといえば、明智の滞在が長引くことを察した段階で、さっさと佐倉家へ避難してしまった。
     味方のいない状況で、敵対関係とも言える人物と二人きりというのは、何だか度胸が上がりそうな状況だが、些か緊張感が足りない。相手が勝手に喋る中、自分は黙るか相槌を打ってやれば良いだけだから、そんなもの必要ないのだ。
    「なんなら、君が残りを飲んでくれても構わないよ」
     グラスの中身をうんざりと見つめる暁に、明智は片目をぱちりと閉じる。
    「なんてね」
     一拍置いて、暁が予想した通りの言葉を明智が吐いた。そして、グラスとストローに指を添え、コーヒーの残りを口に含んでいく。こくりと嚥下に合わせて喉仏が上下する。
     暁は、その動きを無意識に追った視線をそっと外した。罪悪感じみたものが、腹の奥から這い上がってくる。
     中身が減っていくグラスに浮かんだ結露を、明智の指がなぞる。戯れに、指先がストローを柔く押し潰す。伏せられた瞳が上向いたかと思えば、また下がる。ねえ、と内緒話のように唇の中で舌が蠢くのが見えた。
    「さっきからあついよ」
     夏の重苦しい空気を厭うように、明智の瞳がうっそりと細まる。だが、その口角は上がったままだ。
     日中は寒いくらいだった冷房の風も、夜になって外気と設定温度に差が少なくなったせいだろうか。暁も、全身に熱が纏わり付くのを感じていた。額に滲んだ汗が冷風に煽られる。
    「ごちそうさま」
     明智が空っぽのグラスを机上に戻す。それを片付けようと、暁はカウンター越しに腕を伸ばした。手のひらにグラスの結露がへばり付いた瞬間、明智に手首を掴まれる。どう振り払うべきか迷う力の強さだった。
    「暑いんじゃなかったのか」
    「もちろん、暑いよ」
     暁が問い、明智が答える。
    「だから、もう少しだけ涼ませてほしいかな」
     手首をぐるりと囲った内の一本が、陽炎のように揺らめき、手の甲を擦った。神経がじりじりひりついて引き攣る。火傷を彷彿させる痺れだった。
     暁は拘束されたままの手で、相手の手首を掴み返した。視線と同じように、互いの腕が一つのものとして絡み合う。手の下で、明智の血管が脈打つのを感じる。



     吹き出た汗が額を伝う。項にも、背中にも、足の間にも。身体に貼り付くシーツを剥がしながら、腰を無心に動かす。湿り気を帯びた肌が剥がれては触れ、剥がれては触れ、と不快を上回った快感が着々と溜まっていく。
     こめかみから伝った一筋の汗が右の目に入り込んだ。纏わり付く湿度と同じ生温さで、暁の視界がぼやける。朝から夕方まで日差しをたっぷり取り込んだ部屋の熱気と、赤らんだ肌が目の前でくねっている。
     二人の身体から沸き立つ体温が滞留し、肌に纏わり付く。重苦しい空気に、青臭さと汗の匂いが混ざり合う。熱に溺れながら、暁は喘ぐように口から空気を吸った。息をするのさえ忘れてしまう。この身を焦がす誰かの視線に見つめ続けられている。
     目の端が白く点滅する。暁はその向こうに揺れる影を見た。
     数ヶ月前に知り合ったばかりの、一つ年上の他校生。明智吾郎、と頭の中で一文字一文字思い浮かべる。
     明智は、暁のことを下からじっと見つめ上げていた。暁は右手で、彼の顔や項に付き纏う長い髪を耳にかけてやる。触れた髪の間にも、熱が溜まっていた。二人の距離が近づいても、明智は暁を黙って見るだけだ。暁も、わざわざ明智に声を掛ける理由がない。そのまま二人の唇は重なって、更に舌でもって相手の口内を暴いていく。
     じっとりとした熱気に、新しい汗が吹き出し、また肌の上を伝い落ちる。暑い、と暁は心の内で呟いた。
     暑い。暑い。くせっ毛の中にも、身体の中にも熱と湿気が籠もる。
     熱い。熱い。茶色い髪がかかった赤い耳と、汗でしとどに濡れた目の前の顔を見下ろす。
    「あついよ」
     手首を握った暁の指を見て、明智が言った。
    「でも、いいよ」
     続いた声は新しい熱と湿度を生み、暁の胡乱な思考をかき混ぜ続ける。


    2022.08.22
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