Wed. Nov. 16th, 20xx「まだ帰りたくない」
グラスの中身を煽った後で、思い切ってわがままを言ってみた。
頬がやけに火照っている。後頭部にナイフで切れ目を入れられ、中身を剥き出しにされるような冷ややかさを感じた。そこからじんじんと伝播していく痺れが、身体も思考も緩々と鈍らせる。
酔っ払ったら、こんな心地なのだろうか。蓮はノンアルコールカクテルの味しか知らない。
歌手が残した余韻と、暖房の温さだけではない熱を纏わせながら、蓮は向かいの男を見た。
平日の週半ば。十九時半。画面上で指をひらめかせて言葉を綴り、自分を夜の街へ誘い出した他校生。お気に入りの店なんだと、高校生にしては背伸びな趣味のこのジャズバーを教えた一つ年上の男。週明けにはきっと、あっけなく断ち切れてしまう関係の好敵手。
1809