たいだなはなしごく稀にご褒美のような瞬間がある。眠れない夜、つまらない昼下がりの授業中、はやく起きた朝。いつもくるくると表情の変わる彼が、静かに存在している時の顔。それを覗くことができた時、貴重なものをみたような気がして何故だか嬉しくなってしまうのだ。
そして今朝はいつものアイマスクが外れた状態の彼の寝顔を拝むことができた。
「ハナビくん?朝ですよ」
「んん…」
いつまでもみていたいが、時間は無常。一刻一刻と登校までのタイムリミットは迫っている。
「そろそろ起きないと遅刻しますよ」
つい、魔が差して、無防備に伸ばされた手に指を絡めてみる。自分とは違う体温がじわりと触れたところから広がってゆくのを感じる。
「ん……タイジュ?」
「ハナビくん、遅刻ですよ…ってあれっ?」
「おいおい…今日は祝日で休みだってなかったか?」
「えっ?」
「メッセージ見てみろよ。『今日は休み』ってアブトも言ってたぜ」
「ええっ?」
慌てて自分のZギアを確認する。シンカリオン運転士のグループトーク。そこでの話題に上がっていた。「埼玉県の県民の日」。
JR東日本を除く県内の鉄道が乗り放題となる一日乗車券が発売され、遊園地・動物園等の入園料が無料になる。我らが白銀の救世主は県内私鉄の一日乗車券を駆使して鉄分を補給し始めていた。そしてその横には常葉の親友が写りこんでいる。
「本当に休みですね…シンくんはさすがに学校休みじゃねーんですかね…」
「そういうこった。もうシンに関しては野暮だと思うぜー。なぁタイジュ、イイコトしようぜ?」
ふってわいたこの休み、惰眠を貪るのも大ありである。
「たまには歴史小説もいいかもしれませんね」
思わず笑みがこぼれる。ああ、これはご褒美なのだ。