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    sakura_bunko

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    いおりくの進捗
    「すこし・ふしぎ」なことが起きる話になる

    ##いおりく

    いおりく進捗声を聞きたい声が聞こえる声を聞きたい
     好きな人に好きって告白して、相手からも同じ気持ちだって言ってもらえたら、どんなに幸せだろう。
     でも、現実はそううまくできていない。告白するのは怖いし、振られたら、ショックでご飯は喉を通らなくなって、夜も眠れないかも。そんな思いをするくらいなら、この〝好き〟は恋じゃなくて、仲間だからってことに……できたら、苦労しないか。
    「いつまで眺めているんですか」
     風邪を引きますよ。――中庭に出たのはほんの数分前だと思うのに、もう、これだ。
    〝いつまで〟なんて咎めるような言葉選びをするくせに、一織の腕には彼のイメージカラーと同じ夜空色のブランケットが抱えられている。出会ってすぐの頃であれば「一織の過保護!」と頬を膨らませていたところだけれど、なんだかんだ甘やかされるのが心地よくて、最近では、素っ気ない言葉にまでニヤけそうになってしまったから困りものだ。
    「ありがとう」
     ブランケットを羽織るくらい自分でできるのに、肩にかけてくれるサービス付き。いったい、一織はどこまで甘いんだろう。
     この優しさが、陸を好いてくれている証ならいいのに。
    「やっぱり、見えないかなぁ」
     こと座流星群の出現期間に入った。極大を迎えるのは四月二十二日だからもう少し先だけれど、事件や事故といった鬱屈したニュース記事が並ぶ中、イメージ写真とはいえ美しい夜空を掲載した記事は、忙しさで疲弊しそうな心に星を降らせてくれた。
    「出現期間の間、ずっと見られるわけではありません。ピーク時だって、肉眼での観測は難しいでしょう。そもそも、こと座流星群の流星数は少なく、――」
    「もー! 知ってるよ!」
     普段なら見落としていたかもしれない、流星群の記事。たまたま目にしたものの、一気に興味が湧いて調べたから知っている。三大流星群と比べたら控えめな流星数なこと、一年の中で二月・三月は目立った流星群がないこと、月明かりがあると観測条件は「よくない」に分類されること。星が好きな環に話を聞いたら、得意気に教えてくれた。
    「でも、ひとつも流れないとは限らない。もしかしたら、みんなが見る日より、今夜みたいに、オレくらいしか見てない時に流れるかも」
     自分でも、まったく根拠のないことを言っている自覚はある。でも、誰もが準備万端で待ち望むピーク時の流れ星より、誰よりも早く地球にやってくる、せっかちで恥ずかしがり屋な流れ星を見つけてあげたい。
     太陽がその日の役目を終えようとした瞬間にそれとなく姿を見せる一番星みたいに、流星群にだって一番乗りがいるはずだから。
     一織にばれないよう、視線だけを動かして隣を見遣る。
    「なにか?」
    「なにって、なに?」
    「用があって見たんじゃないんですか」
     ばれないように見るって、無理なんだろうか? もしかして、一織もこちらを見ているから、こっそり見るなんてできない? 見ている理由は? ――期待するだけ無駄だとわかっていながら、こんなことでも、自分の気持ちが叶う未来を思い描いてしまう。
    「別に、一織こそ寒そうだなーって」
     自分にも他人にも厳しいくせに、陸が一人で過ごしている時は絶対に優しい。陸にブランケットを渡したのなら、さっさと自分の部屋に戻ってもいいのに、それをしない。早く戻りましょうと言うわけでもなく、陸の隣で、同じように夜空を眺めている。
    「こう見えても、しっかり着込んでますので」
     それでも、頬や手は冷たくなっているはず。驚かれないよう、陸の思惑に気付かれないよう、ほんの少しだけ、一織との距離を詰めた。本当に少しだけだから、近付いたところで肩すら触れていない。陸のどきどきが増えただけ。
     リビング、環の部屋、ナギの部屋に灯りがついている。大和、三月、壮五が酒を飲んでいて、ナギは自室で録り溜めたアニメの消化中といったところか。部屋で悠々自適に過ごしていそうな環は、そろそろ大和たちに呼ばれそうだ。
     皆が寮内にいる気配がちゃんとあるのに、一織と夜空を見上げているだけで、世界に二人きりみたいな気分になる。
     どうして、黙って付き合ってくれているんだろう。中庭に出てきた時みたいに〝いつまで〟と咎めてほしい。いつまで、流れるかもわからない星を待つのか、いつまで――
    「うーん……期待してずーっと見てたけど、……そううまくはいかないかぁ」
     ――叶いもしない片想いなんてしているのか。
     一織に、恋心なんて捨てろと言ってほしい。でも、そのためには自分が恋をしていると打ち明けなければならない。他の誰でもない、一織への恋心を。
     絶対に無理だと、小さくかぶりを振った。止めを刺して楽にしてほしいけれど、止めを刺されるのが怖い。
     恋って、こんなにも人を臆病にするものなんだ。これが初めての恋だから、知らなかった。
    「さぁ、そろそろ戻りましょう」
    「……そうする」
     一織にブランケットを返そうとしたら、まだ羽織っていろと止められた。本当に過保護で、優しい。自分が特に優しくされているという自覚があるせいで、期待して、一織の瞳に恋の色が滲んでいないかを探してしまう。一織の恋の話を聞いたことがないから、どんな色かはわからないけれど、バレンタインチョコのラッピングにありがちな、赤やピンクだろうか。それとも、人前では〝クールでシャープなものが好き〟ということにしているから、恋の色もクールでシャープな色なんだろうか。それって、どんなの?
    「あ、やっぱりリビングで環が叫んでる。壮五さんすごく酔ってるなー」
     酔っ払いの介抱なんてごめんだと喚く環と、ふにゃふにゃした壮五の声、それから、大笑いする大和と三月の声が聞こえてきた。ナギが部屋から出てこないのは、彼が――主にアニメ試聴の際に――愛用するヘッドホンの性能がいいことと、彼自身が集中しきっているからだろう。
    「四葉さんには悪いですが、知らないふりをしましょう。私は兄さんの様子を見にいきますので、七瀬さんはご自分の部屋に戻って、もう休んでください」
    「うん。おやすみ」
    「おやすみなさい」
     寮の中庭で空を眺めていた、ほんの十数分すらも、陸にとっては秘かに想う相手とのデートだ。嬉しい。でも、欲をいえば、もっと長く、二人きりで過ごしたかった。
     名残惜しさを振り払うように一織に手を振り、大股歩きで部屋へと向かう。
     なんだかんだと羽織らされたままのブランケットのぬくもりを、他の人に見られないところで堪能したい。これは一織がオレのために持ってきてくれたんだ。オレが風邪を引かないようにって、過保護なまでの優しさを与えてくれた。――夜空の色に包まれて、甘ったるい気持ちがじわじわと全身をめぐっていく。
     そういえば、これは初めて見るブランケットだ。一織の持ちものをすべて把握したいとも、把握できるとも思っていないけれど、一織の好みとは少し違う気がする。改めて広げてみると、無地の濃藍だと思っていた中に、ひとつだけ、白い星が描かれていた。
    「一番星……」
     一番乗りの流れ星を捕まえられたら、一織との恋も掴めそうな気がして、夜空を眺めていた。あの時、一織は隣でなにを思っていたのだろう。
    (仕事のことかな、それとも、学校のこと?)
     一織がなにを考えているか、顔を見るだけでわかれば、自分のこの恋心をあますことなく伝えられるのに。一緒に暮らしているけれど、もっと一緒にいたい。仲間だけじゃなくて、もっと特別な存在になりたい。
     あぁ、神様仏様お星様! どうか、どうか、一織の気持ちを教えてください!
     
     
     
    声が聞こえる
    (R-18シーン中略)

     ウェットティッシュで汚れた手を拭い、そのまま羽織ったままのブランケットに手を伸ばしかけて、反対の手に変えた。拭った程度では、触っちゃいけない気がするから。
     高まった体を包んでいたせいで、自分の体臭がついていたらどうしよう。すんすんとにおいを嗅ぎ、不自然なところがないかを確かめる。たとえば、直接汚したわけではないとはいえ、いやらしいことをしていた痕跡が移っていないかとか。
    (だめだ、気になりだしたら止まらないよ)
     唾液がついた部分を洗ったばかりなのに。こんなことなら、大和に遭遇して変な汗をかかず、一織に一週間ほど借りておきたいと頼んで、明日にでもクリーニングに出すようにすればよかった。今からでも、そうしてしまおうか。面と向かってお願いして、変に勘繰られたら取り繕えない。
     ベッドの端で充電ケーブルに繋いだままのスマートフォンを手に取り、ラビットチャットを開く。なんだかんだ、一織とやりとりすることが多いから、チャット履歴ではいつだって一織が一番上だ。……というか、マネージャーや他のメンバーとのやりとりで一織が一番上じゃなくなるのが耐えられなくて、他の人とやりとりしたあとには、一織に雑談メッセージを送る癖みたいなものができてしまった。直近のやりとりも、特に用事があったわけではなく、チャット履歴で一織を一番上にするためだけに王様プリンのスタンプを送ったものだ。一織から返ってきた『なにかありましたか』に『なんでもない』と返し、用もないのに送ってくるなと叱られた。
    (この時は、一織の部屋に行ったんだよな)
     退屈で、構ってほしくて。――素直にそう送ったら、既読になってから数分後に、部屋に来るよう言われた。どきどきしながら向かったら、翌日の撮影に関する話をされただけで、甘い空気なんて微塵もなかったけれど。
    「はぁ……」
     こうやって思い返すと、自分の言動は面倒くさい彼女みたいだなと思う。チャット履歴の一番上が好きな人じゃないといやだとか、そのためだけに用もなく一織にメッセージを送るとか。
    (って、彼女じゃないし、そもそもオレ、男なんだけど)
     でも、王子様みたいに格好いい一織になら、お姫様扱いされたっていい。以前、仕事で着たメルヘンドリームの衣装みたいに。あの時の一織は本当に格好よかった。いつも格好いいけれど、王子様の衣装がものすごく似合っていて、白雪姫の自分は、童話のとおりに毒林檎を食べてしまいたいと思ったほどだ。王子様のくちづけを受け、目を開いて初めに見た濃藍に、自分のなにもかもを奪ってほしい。
    「わっ」
     写真フォルダを遡っていたら、ラビットチャットの通知音が鳴った。ぼんやりとしていたのを咎めるような電子音に、思わず、姿勢を正す。
    (一織……)
     一織からのメッセージだけ、通知音と通知ランプの色を変えてある。これも、面倒くさい彼女みたいな行動だ。男だから、面倒くさい彼氏か? いや、そもそも付き合っていない、陸の一方的な好意だが。
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    sakura_bunko

    MOURNING最初ははるこみ新刊にしようと思っていたのが、別のを書きたくなったので続きを書くのを一旦白紙にしたもの
    ただ、これの着地点も考えてはいるので、どこかで本にするか、短編集に入れるかなりしたい
    無題 十八年近く生きてきて、何度か「変なところで勘がよくて怖い」と言われることがあった。そのたびに、失礼なやつだなと笑い飛ばしたり、どこが変なんだよとむくれたりしたけれど、自分の勘のよさに鳥肌が立ったのは、たぶん、これが初めて。
     それでも、勘がいいイコール正しいルート選択ができるとは限らないから、世の中って難しい。もっとこう、勘のよさを活かして、正解だけを選べないものだろうか。
     こんなときだけ、普段は信じてもいない神様に縋りたくなってしまう。あぁ、神様、今すぐ俺とこの人だけでも五秒前に戻してください! ……なんて。
     手のひらがしっとりしてきたのは、自分の手汗か、それとも、腕を掴まれているこの人の汗か。汗なんてかかなさそうな涼しい顔をしているくせに、歌っているとき、踊っているとき、それから、憧れの先輩アイドルに会ったときは、見ていて心配になるくらい汗をかく。ちょっとは俺にも動揺して、同じくらいの汗をかいてみればいいのに。そう思ったのが、最初だった気がする。なんの最初かは、恥ずかしくて言葉にしづらい。
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