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    2niwt_bb

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    ※チョロ甘依織

    そうだ、ラブホ行こう。続続続 口をぽかりと開けた依織の手から、するりとコロッケが滑り落ちて、匋平は咄嗟に手を差し出す。間一髪、食べかけのコロッケが地面に落ちることは免れたが、袋の上から強く掴んでしまったのか、少しばかり、形が崩れてしまっていた。
    「何言ってんだ、お前……」
    「?、言ったまんまだけど」
    「まんまって、」
    「依織、今度の休み、ラブホ行こう」
    「聞こえなかったわけじゃねぇよ……」
     学校からの帰り道、連絡もなしにひょいと現れた匋平を不思議に思いつつも、依織は特に気にしてはいなかった。
     バディで動くことを基本とされている二人には、あまり単独で仕事を言い渡されることはなく、昼間は雑用以外に特に用事のない匋平がこうして依織を迎えに来るのはままあることで、依織もそれを、憎からず思っている。
     思っている、というのに。
     腹が減ったと宣った依織についてやって来たいつもの商店街。肉屋でお気に入りのコロッケを買い食いして、並んで歩いていた中での、脈絡のない匋平からの申し出に、依織は開いた口がなかなか塞がらなかった。
     わりぃと告げられた謝罪とともに、硬直したままの手元に戻されるコロッケ。少しだけ形が崩れていて、いやはや、謝ってほしいのはそこではないと思いながらも、依織はさくりと、まだ温かいコロッケを口へと運んだ。
    「……なんで、急にそんな話になるんだよ」
     会話が途切れて数秒、おもむろに歩き出した匋平の後ろを追って、暮れなずむ夕陽の中をゆっくりと歩き出す。前を歩いていたはずのペースは徐々に落ちていき、気づいたときには隣に並んでいた匋平に、コロッケの最後の一欠片を口に放り込みながら、問い掛けた。
     自分から言い出したわりに、それ以上を話そうとはしなかった匋平だが、依織に問われて、ぱっと顔が依織のほうを向く。
     なるほど機嫌を伺われていたのかと気づいたところで、依織は小さく肩を竦めた。待てを解かれた犬よろしく、少しばかり前のめりになりながら、悪い予感を抱けないのは、すっかりこの人たらしの魔の手にハマってしまっているからだと、依織は確かに自覚していた。
    「依織の喘ぎ声が聞きたい」
    「は……?」
    「どこが気持ちいいのかとか、ちゃんと聞いて、そこもっと突いてやりたいし、」
    「おい、おい旦那、何言って……」
    「感じすぎてるとき、どんな風に泣いてるのかも見たい」
    「待てって、ここ、外、だから、」
    「いつも見せてくんねぇから、痛くないのか、苦しくないのか、お前の言葉で、声で、俺に教えてほしくて」
    「なあ、ほんとに、ダメだ、って……、ほんと、に……」
    「それから、」
    「っ、匋平!」
     自覚していて、ちゃんと、警戒しないといけないはずなのに。
     横から話し掛けてきていた匋平が、進路を妨害して目の前にいる。両肩を掴まれ、あまりの勢いに、一歩後ろにたじろげば、じり、と余計に距離を詰められ、依織は言葉で制しようと試みるのに、匋平は聞く耳を持ちやしない。
     ダメだ、と思うのだ。あのときも、はじめてキスをされたときも、身体を暴かれ自分の知らない腹の奥まで犯されたときも、この目が、自分を追い詰めた。ギラギラと、どんな手を使ってでも己が望みを叶えんとする、傲慢な炎が、依織の正常な思考を焼く。
     見てはいけない、自分は、それに弱いのだ。自覚している。
     その言葉に、惑わされるなと、思うのだ。口喧嘩では絶対に負けない自信があって、実際、手を出さなければ、依織が負けたことは一度もない。頭の出来も、語彙力の多さも、匋平よりもずっと良いはずで。
     それなのに。
     理詰めにされるわけでもない、諭すように説教されるわけでもない、難しい言葉で捲し立てられるわけでもない。ただただ、なんの飾り気もないストレートな言葉に、こうも簡単に翻弄される。
    「も、黙れ……っ!」
    「……」
     無意識に握りしめていたのか、ぐしゃぐしゃにしてしまっていたコロッケの空袋を投げ出して、匋平の口を両手で塞ぐ。顔は俯かせたまま、絞り出すように吐き出した言葉は、懇願めいてさえいた。
     キン、と耳鳴りがする。切れかけの街灯が、ジジッと苦しそうに呻いて、今日の仕事を始める。もうとっくに、アパートの近くまで歩いて来てしまっていたらしい。普段から車通りも人通りも少ない道路は、はかったように、ぱたりと往来の影が途切れていた。
     夕陽がもうすぐ沈み切る。東の空に、白い月が浮かぶ。一番星が、夜闇を連れてくる。
    「ほんと、ふざけんな……」
    「……」
     じっとり汗をかいた掌は、力なく滑り落ちた。俯かせたままの顔はまだ、上げられない。
     あんなにペラペラと恥ずかしいことを恥ずかしげもなく並べ立てていたくせに、依織の黙れの一声で、ぴたりと口を閉ざした匋平は、また、お許しが出るのをじっと待っているのだろう。真っ直ぐに見られている気配を痛いくらいに感じる。
     しっかりしろ、ほだされるな。口を開く前に、自分に言い聞かせる。バカなことばかり考えてるバカを正してやるのが、バディとしての務めだろう。
    「……家じゃ、ダメなのかよ」
    「声、聞かれんの嫌なんだろ?」
    「ん……」
    「俺も、依織のエロい声、他のやつらに聞かせたくない」
    「……」
     惨敗だ、結局こうなるのだ、最初からわかっていたことだ。せめて、沈み切った夕陽に背を向けいることが幸いして、自分の顔が火照っているのが、目の前の男にバレないことを願うくらいしか、依織にできることはない。
     いいや、肩を掴んでいた手が頬に伸びてきたところを見るに、完全にバレてしまっているのだと気づいてしまえば、いっそ情けなささえ込み上げてくる。
     聞かれたくないのは、お前にもだとは、喉まで出かかって、結局は言葉にはならなかった。今まで頑なに譲れなかった一線を、あんなふざけた口説き文句で飛び越えてしまうのかと思うと、自分に呆れてものも言えない。
     最近、少しずつ開いてきた身長差、ほんの少し上目遣いに視線を向けた先、ただ純粋に、嬉しそうに頬を緩める相棒の顔があって、依織は観念したように溜め息を吐いた。否定も肯定も返さないときの依織の沈黙が、だいたい肯定であることは、匋平にはすっかり見抜かれているのかと思うと、またそれも、癪に障る。勝ち誇った顔でもしていてくれれば、鳩尾に拳の一つや二つお見舞いしてやっても、気が咎めなかったものを。
    「……旦那が金、出すんなら」
    「!、おうっ!」
     頬にあてがわれていた手が、両手になる。そのまま、ついと顔を上げさせられて、真っ直ぐ迫ってくる顔には、さすがに全力で抗った。何考えてんだ、ここ外だって何回言わせんだ、依織の正論が、周囲の住宅に筒抜けであったことは、今は言うまい。
     手を叩き落として、今度こそ、距離を取った。じとりと睨みつけているというのに、何が嬉しいのか、依織の顔を見て、にぱっと笑う匋平の顔の、あどけないこと。さっきまであんなに獰猛に、ギラギラと目を輝かせていたのが嘘のようだ。
     依織が落としたコロッケの袋を拾い上げて、あいた手は依織の手に伸びる。
     二人暮らしのアパートまで、あと約三十メートル。残りのアパートまでの道のりの、最後の街灯。ここからが、依織が匋平に、手を繋ぐことを許した距離。
    「……ラブホって」
    「ん?」
    「未成年、入れたか?」
    「それはいけるだろ、姉さんたちも、俺の見た目なら、大丈夫だろうって」
    「嬢たちに聞いたのかよ……………、俺のこと言ってないよな?」
    「同棲してる彼女としか言ってない」
    「おっ、まえなぁっ……!」
    「あだっ!」
     依織の華麗なタイキックが、匋平の尻にクリティカルヒット。勢いよく前につんのめったものの、依織と繋いでいた手のおかげで、前に吹っ飛ばされることはなく。代わりに、尻へのダメージは、それなりなわけだけれど。
    「何すんだよっ!」
    「同居してるのはバレてんだから、必然的に相手が俺だって言ってるようなもんじゃねぇか!」
    「………あ」
     ちなみに、依織はこの時点まではバレていなかったと思っているようだが、実際のところ、十代の少年たちなど、百戦錬磨の夜の蝶たちにとっては、子猫も同然。当人たちが自覚するより前から、彼女たちは、二人の間に漂う甘酸っぱい空気を、それはそれは美味しくいただいていたのだ。
     即ち、尻を蹴られたのも、繋いだ手に爪を立てられたのも、バカアホと幼稚な言葉で罵られたのも、匋平はただただ、やられ損だったわけである。
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    DOODLE匋依 / デキてる / ちょっとはやめのクリスマス小話
    クリスマスソングも弾かないで 街がイルミネーションに彩られている。
     地上26階から見下ろすと、ひかりのつぶてを纏う木々はまるで海の底に沈んだ流れ星のようにみえた。いつもより思考がロマンティックになっているのは場の空気に酔っているからだ。首筋に細く湿った吐息がかかる。煙草と石鹸と匋平の香水のかおり。はだけたバスローブのした、膚を撫でる手つきはやさしかった。

     これまでクリスマスというものに特別な思い入れをもったことはなかった。年に何度かある掻き入れ時のうちのひとつで、年の瀬も近いから人々が浮足立って賑やかしい、その空気感が心地いい。依織にとってクリスマスとはながらくそういうイベントだ。
     もちろん楽しみもあって、弟たちとパーティもすれば、プレゼントを贈り贈られすることもある。先代翠石が存命だったころも同様で、ど派手な宴会(あれはパーティと形容できるものではない)が行われ、大量の酒がふるまわれたあげく、泥酔した組員たちによるビンゴ大会などが催されていた。若いころの依織はどちらかというと会の裏方に回ることが多く、宴もたけなわのころには邸のキッチンなどで一服するのが常だった。そういうときに決まって親父がひょっこりと顔を出し、「袖の下っちゅーやつや」などと冗談を言いながら贈り物をしてくれたのを覚えている。いつまでもガキじゃねぇんだと嫌がる依織の心情を思いやってかプレゼントとは言われたことはなかったが、あれは間違いなく親父からのクリスマスプレゼントだった。だから依織にとってクリスマスとは家族のためのイベントだ。
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