10月新刊改稿 完璧な日没を済ました空が薄手のジャケットを着た肩へ懐かしそうに接し、幅の広い影を生んでいた。カルナにはさいしょ、それが誰かわからなかった。若い男だ。後ろ姿では年齢は曖昧になるが、膝から腿にかけての発条が入っているかのような力強さでおおよそ察した。柔和な凜々しさに浸りきり、癖のついた黒髪は僅かな明かりを吸って天使の輪を浮かべている。アルジュナだ。アパートの廊下の端、部屋の連なりとは直角に位置する階段横のひときわ狭い部屋に、カルナは住んでいる。段差を下りて外へ出ようとする際に、彼は必ず横顔を向ける筈だ。インターフォンを押す腕は衣服に隠れてもわかるほど筋が浮き彫りになっており、背中の筋肉は厚い。部屋へ響き渡るチャイムの音が耳の奥でこだました。
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