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    絽愗ちゃん

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    POIPOI 21

    絽愗ちゃん

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    実録から発展した映電、電解が取り乱して縋るだけ

    狂うほどに想う 多分、いつかはきっと、こうなる時が来るんじゃないかと薄々勘づいていた。だから、心の準備はしていた。しているつもりだった。そのタイミングが思っていたより早かったことだけが誤算だった。対戦席に腰掛けた、彼と同じ姿形の男に、私は、自分でも分かるほど酷く動揺していた。エミールに「代わってくれ」と席を立つよりも早く、意識はゲームに向けて落ちていった。
    ゲーム中の事は覚えていない。思い返そうとも思わない。ただ、勝利したというアナウンスの後、私はその場から逃げるように走っていた。行く宛ては決めてなかった。自室に戻れば私はきっと駄目になる、それだけは分かっていたけれど、何処へ行こうとも考えていなかった。だから、足を止めた時、目の前にある毎朝見ている木製の扉に、「嗚呼、私はこんなにも彼に縋ってしまっているのだ」と自嘲した。彼はきっと寝ていない。必要の無いことをする彼ではない。深呼吸をひとつして、3度のノック。いつものよりも少し強めになったのは、少しでも早く安心したいという醜い人間の性だ。程なくして扉が開くと、笑顔の彼が出迎えてくれた。
    「いらっしゃい、こんな時間に誰……ああ、電解。君か。珍しいね、訪れる時間帯も、そんなに必死な顔をしているのも」
    私の頬を撫でるその手は優しい。分かっている、分かっていた。彼と、私の映写室は違う。姿形こそ同じでも、中身はまるで異なる。それでも……それでも、
    「怖、かったんだ」
    「……何があったかは無理には聞かないよ。おいで、電解。珈琲でいいかな?」
    「……ああ、」
    すい、と手を引かれ、ソファに座らされる。珈琲と、僅かな機械油の匂いがする部屋は落ち着く。ぐちゃぐちゃだった頭が、絡まった糸を解くようにゆっくりと、冷静さを取り戻していく。
    「ミルクと砂糖は……いつものように、砂糖ひとつでミルクは無し、で良いかな?」
    「ん、」
    「承知したよ」
    くすくすと笑いながら、私の目の前に珈琲を置いて、向かいに腰掛ける映写室。嗚呼、その顔だ。私が愛している映写室は、今、目の前で柔らかく微笑んでいる彼でしかない。それなのに。私は重ねてしまった。映写室を、映写室でない彼に。
    「……電解。メンタルのシグナルが随分と不安定だね。今は少し落ち着いてきているとは言え……不安だよ」
    「ん……すまない、」
    「謝らなくていいさ。不安定になっている君が私を頼ってここに来てくれたのが……不謹慎だが、嬉しいと思ってしまった。電解。愛おしい君は、中々他人に弱みを見せないだろう?だから、尚更ね」
    差し出された珈琲を手に取ると、カップ越しの温さに安心した。苦い。けれども少しの甘みと、鼻腔を擽る香りの高さに、ようやく呼吸が自由になった気がした。
    「美味しい……」
    「それは良かった。君の好みの豆の銘柄も、豆の挽き方も、淹れる温度も網羅しているとは言えど人は変わってしまうから。君が変わらずそう言ってくれるのが私にとっても喜ばしい」
    「私は……アンタに関することならきっと変わらない。変われない。アンタへの愛がこれよりも深く、強くなることはあるだろうけれど、」
    「そうかい?私は幸せ者だな。こうも君が愛してくれるのだから」
    髪を梳くように頭を撫でられ、どこか暖かな気持ちになる。ようやく緊張が解け、ふ、と息を吐いて目を閉じると、甘やかすような指先が眦をなぞっていくのが分かった。
    「…………映写室、」
    「うん?なにかな」
    「今日は、アンタに抱き締められながら眠りたいんだ」
    「お易い御用だよ。それなら先に汗を流してくるといい、ベタついて眠りずらいだろうから。カップは私が片そう。この時間だ、君はそろそろベッドに入っておかないと翌日に響くだろう?」
    「有難う、そうさせてもらうよ」
    笑ってみせて、シャワールームへ。くい、と肩を引かれたかと思うと、優しくキスをされた。「君が少しでも早く元気になってくれるように、のおまじない」なんて言われると、すぅ、と、心の中に名状しがたい温もりが流れ込んでくるようで。
    「……嗚呼、本当は…………」
    シャワーの水の音に隠れる独り言。
    「私は、アンタに抱き締めてくれなんて言える人間じゃないのに」
    ああも取り乱し、どうしようもなく彼に縋り着いている限り。私は、後悔と、愛情と、喜びと、ほんの僅かな優越感を、私はいつまでも抱き続けるのだ。
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    絽愗ちゃん

    DOODLE実録から発展した映電、電解が取り乱して縋るだけ
    狂うほどに想う 多分、いつかはきっと、こうなる時が来るんじゃないかと薄々勘づいていた。だから、心の準備はしていた。しているつもりだった。そのタイミングが思っていたより早かったことだけが誤算だった。対戦席に腰掛けた、彼と同じ姿形の男に、私は、自分でも分かるほど酷く動揺していた。エミールに「代わってくれ」と席を立つよりも早く、意識はゲームに向けて落ちていった。
    ゲーム中の事は覚えていない。思い返そうとも思わない。ただ、勝利したというアナウンスの後、私はその場から逃げるように走っていた。行く宛ては決めてなかった。自室に戻れば私はきっと駄目になる、それだけは分かっていたけれど、何処へ行こうとも考えていなかった。だから、足を止めた時、目の前にある毎朝見ている木製の扉に、「嗚呼、私はこんなにも彼に縋ってしまっているのだ」と自嘲した。彼はきっと寝ていない。必要の無いことをする彼ではない。深呼吸をひとつして、3度のノック。いつものよりも少し強めになったのは、少しでも早く安心したいという醜い人間の性だ。程なくして扉が開くと、笑顔の彼が出迎えてくれた。
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