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    nanatsuya_

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    永い後日談のネクロニカのキャラクター前日譚

    イチ白い
    それは僕が唯一知っている色だった。
    天井も、床も、ベッドも、そこに寝ている僕ですら白い。
    この部屋に存在するものは全てが白かった。
    鼻をつく消毒液の匂い。
    トレイの上に置かれた何本もの注射器。
    僕の体を縛り付けるように貼り付けられた何本もののコード。
    誰かが白いドアを開けて音もなく入ってくる。
    誰かが動くたびに白衣が揺れる。
    無造作に壁に貼られた写真が共鳴するように僅かに揺らめく。
    僕はあれが何の写真なのか知らない。
    なぜそこに存在するのかも知らない。
    写真は僕のことを知っているのだろうか。
    彼は動かない僕の掌に触れた。
    生暖かい感触が電気信号となって僕の脳を刺激する。
    僕はゆっくりと彼を捕らえた。
    近くに居るはずなのに、
    その顔は殆ど認識できなかった。
    薄い唇が滑らかに動く。
    「さて、今日も君の行く末を見てみようか。」
    良く通る声が白い部屋に響く。
    僕はほんの少しだけ口角を上げた。
    例えその結果が予定調和だとしても、今の僕にとっては唯一の救いだった。
    彼の指先が掌をなぞる。
    細い指先が肌を滑る感触だけが続く。
    そこに感情は存在しない。
    昨日と同じように、最後に彼は僕の手を柔らかく握った。
    一体この行為にどんな意味があるのだろう。
    昨日の彼の言葉を僕は覚えていなかった。
    それでも僕は
    昨日も、今日も、明日も、彼の言葉を待っていた。
    明日の僕が今日の僕で無かったとしても。
    昨日と同じように、彼の唇が滑らかに動く。
    「君はきっと幸せになれる。」

    目を覚ますと、世界は真っ黒になっていた。
    しかし僕はそれを怖いとも思わなかった。
    暗くて狭い場所に押し込まれている。

    永い夢を見ていたのだろう。

    それとも今、夢が始まったのか。

    そんな無駄な思案を巡らせていると、何かを蹴り破る大きな音が響き、肩を震わせた。
    耳を澄ますと誰かが話している。
    その声には聞き覚えがない。
    聞き覚えのある声などあっただろうか。
    意を決して、僕は暗闇に手を伸ばし、それを押し上げた。
    それは難なく持ち上がり、暗闇の隙間から目が眩むような光が漏れる。
    あまりの眩しさに目を細めると、視界の先に誰かが動いていた。
    誰かが動くたびに白い何かが揺れる。
    記憶の片隅の声とは違う声が響く。
    「やっと起きたね。」
    彼女らをよく見ようと起き上がると、ぼろぼろになった写真が乾いた音を立てた。
    白い部屋。
    誰かの声。

    君はきっと幸せになれる。

    「大丈夫?」
    不意に掛けられた声に、僕は慌てて写真を掴んだ。
    こくりと首を縦に振り、返事をする。
    「君の名前は?」
    再びあの声が響く。

    イチ。君はきっと幸せになれる。

    僕は無意識に首の後ろに刻まれたナンバーに触れた。
    あの声がたまに僕をそう呼んでいた気がする。

    「僕の名前はイチ。」
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