結ばれなかった者達へ**結ばれなかった者達へ**
ばたばたと布地のはためく音で目が開く。
二メートル近くあるだろうか。へこんだ地面の縁で、深緑色の布の塊が強風に煽られて翻っている。風を孕んでは膨らんで、押し出されては萎む。繰り返されるその動作を眺めている内に、それの中央に一対の羽が刺繍されている事に気づいた。太糸で力強く縫い表されている。よく目を凝らして更に注視していると、それは誰かが羽織ったマントであることが判った。みるみる内にマントから手足が生えて、ちょこんと頭部が乗る。蹲踞した後姿に、ドキドキと胸が震えた。ゆっくりとこちらを振り返る人物の口元だけが妙にはっきりと見えた。
「 」
その人の口元が大きく笑みを象って、何かを告げる。ひときわ大きくなる風の音に、言葉の判別はおろか声すらも届かない。もう一度言って、と大きな声で懇願している内に、その人はゆっくりと風の中に溶けて消えた。
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