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    ak1r6

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    ▶︎web再録加筆修正+書き下ろし約40頁 (夭折した速水ヒ□の幽霊が、神浜コージの息子13歳のもとに現れる話)
    ▶︎B6/66頁/600円 予定
    ▶︎再録は 下記3つ
    酔うたびいつもするはなし(pixiv)/鱈のヴァプール(ポイピク)/せめてこの4分間は(ポイピク)

    #コウヒロ
    kouhiro.
    #サンプル
    sample
    #禁断のプリズム
    forbiddenPrism

    【禁プリ17】コウヒロ新刊サンプル「鱈のヴァプール」書き下ろし掌編「ヤングアダルト」部分サンプルです。(夭折した速水ヒロの幽霊が、神浜コージの息子13歳のもとに現れる話)
    ※推敲中のため文章は変更になる可能性があります

     トイレのドアを開けると、速水ヒロがまっぷたつになっていた。45階のマンションの廊下には、何物にも遮られなかった九月の日差しが、リビングを通してまっすぐに降り注いでいる。その廊下に立った青年の後ろ姿の上半身と下半身が、ちょうどヘソのあたりで、50cmほど横にずれていたのだ。不思議と血は出ていないし、断面も見えない。雑誌のグラビアから「速水ヒロ」の全身を切り抜いて、ウェストのあたりで2つに切り、少し横にずらしてスクラップブックに貼りつけたら、ちょうどこんな感じになるだろう。下半身は奥を向いたまま、上半身だけがぐるりと回転してこちらを振り返り、さわやかに微笑む。
    「お、やっと出てきた」
    「怖い!」
     半ば叫ぶように言った僕の言葉を無視して、ヒロは僕の手の中の物を指さした。
    「やっぱりスマショをトイレに持ち込んでたんだね。まったく、最近の若い子は……ん? 何が怖いって?」
     僕が彼の腰のあたりを指さしたことで、ようやく水平方向にも回転方向にもずれている自分の身体に気づいたらしい。ヒロは少し考えるそぶりを見せ、何かを念じるように眉根を寄せた。「んー……」といううなり声とともに、上半身と下半身が徐々に擦り寄っていく。擦り寄っていくのと同時に、下半身がゆっくりと回転する。気味が悪い。なめくじが進むような速度のそれを見守っていると、やがてシャツから覗くヘソの上半分と下半分がぴったりくっついた。安堵と疲れで、トイレのドアを背にずるずる座り込んでしまう。一度止まった鼓動がまだ早い。毎回トイレから出てくるたびにヒロの奇行に驚かされている僕の心臓が心配だ。ヒロは悪びれた様子もなく、自身の腹の継ぎ目を確認するように撫でて、にっこり微笑んだ。大人なのに、子供みたいに悪びれない笑顔だった。
     ため息をついていると、廊下から足音が近づいてきた。
    「××、なにひとりで騒いでるの」
     壁の角から覗いた父さんの顔を見て、ヒロの顔がぱっと明るくなる。
    「コウジ」
     きちんとくっついた上半身と下半身が父さんに歩み寄るが、父さんはヒロに一瞥もくれない。ヒロはめげずに「仕事は終わったのか」「今回も楽しみだ」などと話しかけているが、父さんは一切の返事をしなかった。一見哀れな光景だけど、無視されているわけではない。ヒロ――速水ヒロは、僕が小学校に上がる前に亡くなった父の古い友人で、いわゆる幽霊というやつで、どうやら僕以外には見えないらしいのだ。見た目は大学生みたいだが、実年齢は父さんと同じ、四十を目前にした立派な大人のはずだ。
    「通話してたの? トイレではやめなさい」
    「別に……」
    「フフ! 通話じゃないよね。ずっとスマショ触ってたみたいだけど。あっ、それか、うんこかもしれないけど……」
    「うるさいな!」
     ヒロのよく分からない擁護につい荒げてしまった声に、父さんの表情がさっと硬くなった。無理もない。そんなつもりじゃなかったけど、父さんに注意されて怒鳴り返したような状況になってしまった。
     廊下に、気まずい沈黙が落ちる。少し間を置いて、父さんはためいきをひとつ残して廊下を引き返し、仕事部屋に戻っていった。ヒロが何か言い訳のようなことを言いながら後をついていくが、もちろん父さんは返事をしない。やがてヒロの声が止んだ。代わりに、小さく父さんの声が聞こえる。母さんと電話し始めたのかもしれない。廊下のフローリングの上で膝を抱える。
     父さんは、何かと理由をつけて、先月離婚した母さんに連絡を取りたがる。ふたりは離婚したと言っても、嫌いになったわけではないらしい。僕と双子の妹は、その説明を素直に受け取った。父さんの寝室には母さんのポスターが年代別にたくさん貼ってあるし、リビングのレコーダーは、母さんの出演した番組でいっぱいだ。そんな父さんを鬱陶しそうに振る舞いながら、母さんも満更でもなさそうに見える。
     お互いまだ好きなら、離婚なんてしなきゃいいのに。どうせ今までも、仕事の都合上ほぼ別居で、僕たち兄妹はこうして夏の間だけ父さんの家で暮らす程度の生活だったのだ。大人はよく分からない。
     僕は父さんの仕事部屋の前から悄然と戻ってきたヒロを引き連れて、自室のドアを開いた。フローリングの床に、小さな丸いシールが落ちている。赤いシールを剥がして、ゴミ箱に投げ入れると、不規則な軌道を描いたそれは、ゴミ箱の内側の壁にくっついた。
    ――大人だから、じゃない。僕はずっと、あの人のことが分からないんだ。
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    ak1r6

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    ▶︎B6/66頁/600円 予定
    ▶︎再録は 下記3つ
    酔うたびいつもするはなし(pixiv)/鱈のヴァプール(ポイピク)/せめてこの4分間は(ポイピク)
    【禁プリ17】コウヒロ新刊サンプル「鱈のヴァプール」書き下ろし掌編「ヤングアダルト」部分サンプルです。(夭折した速水ヒロの幽霊が、神浜コージの息子13歳のもとに現れる話)
    ※推敲中のため文章は変更になる可能性があります

     トイレのドアを開けると、速水ヒロがまっぷたつになっていた。45階のマンションの廊下には、何物にも遮られなかった九月の日差しが、リビングを通してまっすぐに降り注いでいる。その廊下に立った青年の後ろ姿の上半身と下半身が、ちょうどヘソのあたりで、50cmほど横にずれていたのだ。不思議と血は出ていないし、断面も見えない。雑誌のグラビアから「速水ヒロ」の全身を切り抜いて、ウェストのあたりで2つに切り、少し横にずらしてスクラップブックに貼りつけたら、ちょうどこんな感じになるだろう。下半身は奥を向いたまま、上半身だけがぐるりと回転してこちらを振り返り、さわやかに微笑む。
    1931

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