カラカラと音を立てる車椅子を動かし乍ら、一つ溜息を吐く。
呼び出しがなんだと慌ただしく出て行った弟子に「ごめん師匠!阿喩をお願い!」と一方的に任せられたのが今朝のこと。彼が「阿喩」と呼ぶのは誰だったかと考えたところで、あのフードを被った青い瞳の誰かさんに思い至り眉を顰めた。自分を省みない者にやる薬はない。あんな奴放っておいたところでと思う反面、何かと気にかけている弟子に任された以上何もしないという選択肢はなかった。仕方なく朝食を取った足で誰かさんーー三鮮脱骨魚に与えられた部屋に向かい戸を叩いたところまではは良かったのだ。「お願い」されたということはおそらく体調不良で寝台に沈んでいるだろうと容易に予想できる。返事を待たず部屋に車輪を踏み込ませた屠蘇の目に入ったのは、ほんの僅かに温もりを残した寝台と開け放たれた窓であった。
というわけで、現在失踪した彼を捜索中というわけなのだが。
「全くなんて面倒な」
そう、流石長年正体を隠し通した怪盗「千顔の影」と言うべきか、どこを探しても見つからないのだ。早々に一人で探すのを諦め、手当たり次第暇していた食魂に協力を頼んだと言うのにである。
また一つ、溜息を吐く。つい口に出てしまったように、正直なところ面倒臭さが優ってしまい進んで彼を診る気は失せているのだが。先にも言ったように弟子に「お願い」された手前放置することはできない。