同軸リバ 花洋花 エロなし 家に帰ったら風呂場の電気が点いていて、嫌な予感がした。部活のバッグを廊下に放って急いで押し入れを開ける。すると予感はさらに高まった。
「洋平!!」
廊下へ逆戻りして脱衣所の戸を開け、折れ戸を叩く。
「おー。おかえりっ、うおっ!?」
「あ゙ぁっ!やっぱし!」
ほんのり赤い顔で湯船に浸かる洋平がこっちを見た。その傍でぷかぷか浮いている、ドレッシングの容器みたいなプラスチックの入れ物は他でもないローションである。いつもは押し入れに仕舞われているが、場合によって風呂と布団の上にある時もある。
布団の上はともかくなぜ風呂かと言うと、使う直前に手で温めるのが面倒なので一緒に湯船に入れることにしたから。お互い揃ってカラスの行水だから普段はあまり浸からないけど、身体をほぐす必要がある日はよくローションと一緒に長めの風呂に浸かる。
今日は俺がそれをしようと思ってたのに!
「なぁー、さみーから閉めろって。……あっ、なんでだよお前は出ろよ!」
「うるせえ!」
服を着たまま風呂場にいるのは妙な感じがする。しかしそんな事はどうでもいいくらい目の前の男にムカついている。
「明日部活休みなんだから俺の番だろ!」
「そうだけど、一昨日にやったばっかじゃん。俺は二週間以上こっちやってねーの」
あと明後日も部活休みなの知ってるし、とローションの容器で手遊びしている恋人が実に憎らしい。
「二週間空いたのはオメーが立ち仕事いれたり辛ぇラーメン食いに行ったりすっからだろ!」
「それはここ一週間の話じゃねーだろ。言っとっけど一昨日だって俺準備してきてたんだぜ。それなのに花道が、」
「うあー!!あーっ!!」
「うるせっ」
痴態とも言うべき自分の姿をあわや思い出しそうになって掻き消した。
「ま、だから今日は俺の番」
「……ヤダ!だっ、だって、今日すげーキブンなんだよっ」
部活が終わってから電車乗ってここに来るまで、ぼーっと今夜のことを考えてた。なんなら今朝方に明日がオフだと知ったときも考えた。つまりは物凄くこの気分が高まってしまっていた。
「ズリいなぁ、ちょっと素直になりゃ俺が折れると思って」
これみよがしにため息をつく洋平は、実際その言葉尻より揺れ動いてるはずだ。なんせ俺の頼みだから。
「でもな。そんなこと言ったら俺だって気分だよ。早いもん勝ちってこと」
「なっ!?そこは折れるとこだろーがよ!」
「ほら打算的。かわいくねー」
「かわいくねーならニヤニヤすんな」
取り上げたローションの底のとこでパコンッとでこを打ってやる。
「いってぇ!」
「……洋平ちょっとこっち見ろ」
大袈裟にでこをさすってる洋平と目が合う。
「あんだよ」
いつから湯船に浸かっているのかは知らないが顔の全体がかなり火照っていて、俺を見上げる目は潤んでた(たぶん痛みが由来のじゃなくて)。
「……すげー見んじゃん」
逃げるように洋平が肩まで浸かった。
隠されると見たくなる、もしかしてこいつわざとやってんのか。
「ずりーぞ」
「は?……んっ」
湿った前髪を乾いた手でかきあげてやると、確かにこの表情をここ最近見ていなかったことに気づく。ほんの少し罪悪感みたいなものが湧いた。
「なに、エロい?」
「んなこと言ってねー」
「言ってねーけど顔がそう。抱く気になった?」
「……な、……」
なった。多分、二週間っていうのが俺にも効いてきた。さっきまでは確かに下から眺める洋平の姿を想像してたのに、今は組み敷いた姿が勝手に浮かんでくる。
「あー!くそっ!」
「よっしゃ。俺の勝ち?」
「うるせー、はよ上がれ、茹で上がるぞ」
「やりい」
嬉しそーな顔した洋平が湯船からあがる拍子にこっちの服が濡れたので、ついでに脱いでしまうことにした。
「え?ここですんの」
「ちげえ!俺が今から入んだよ!」
「なんだ」
「……出てけよ!」
「先入ってきたんはそっちだろ」
無駄に居座る恋人を無視してジャージを脱いだ。シャツも脱いで、脱衣所に移すために戸を開けると横の裸男が縮こまった。
「さっ……む」
「風邪ひくぞ」
「そりゃやだな」
風呂場を出ていそいそとタオルに包まったかと思うと、俺がパンツを脱ぐのを眺めている。
「服着ろ助平」
「はい」
戸は開けたままで、掛け湯だけしてから風呂に浸かった。ぷかぷかしているローションを湯に沈めてから手を離すとポコンと飛び出してくる。
ひやりとした空気が入ってくる方を見るとパンツを履いた洋平が俺のTシャツを着ているところだった。
「なんで俺の着んだよ」
「なんとなく。うわ、デケー」
完全に服に着られている。普段はあんなにキマッてる男がブカブカの服を身にまとってるのは、何故だか裸よりも見てはいけないもののような気がした。
「よーへー」
「ん」
「さみい」
「ああ。じゃ、お先な」
半透明の折れ戸が閉められて洋平の影ができた。すぐにぱたぱたと向こうへ行く足音が聞こえて、本当に俺の服着て行きやがったことを知る。
一気にしんとした浴室で、脳みそが勝手にあらぬ想像を弾き出す。布団の上で組み敷いた洋平は俺の服を着ていた。裾から手を突っ込んでゆっくりと捲り、それを期待した目で追ってる顔まで想像してから自分の顔を叩いて強制終了させる。しかしすぐにまたぼんやりと輪郭が出てきて、今度は俺が組み敷かれてる、ぶかぶかの服を着た洋平に。
「だぁっ!!」
変態になっちまう!恋人のせいで!!
「……花道?いま叫んだ?」
少し向こうから声がした。それに返事をせずにいたら今度は影が出てきた。だぼついたシルエットから太くも細くもない脚が二本。また勝手に想像図が浮かぶ。
「なんでもねえっ!」
「あっそう。まあ逆上せんなよな、騎乗位しか出来なくなるぞ」
「っ、……っ!、うるせえ!」
けたけた笑って脱衣所から出ていった野郎はやはり憎たらしい。
一時間後にはぐでぐでのでろでろになる癖に、今に見てろよ、と思う。ただし明日に響くほどくたくたにすると俺の番が回ってこなくなる恐れがあるので程々にしなければ。かといって上手く加減ができる自信もないし、手を抜くなと頬を抓られる気もする。でもあんまり奥を虐めた次の日はポーッとしちまうからやっぱり加減はしなきゃならない。
充分すぎるほど温まったローションと一緒に湯船に浸かり、桜木花道は天井から落ちた水滴が背中に当たるまでの間で唸りながら思考をめぐらせていた。
待ちぼうけを食らっている彼の恋人はアイスバーを齧りながらテレビを観つつ、あいつ実は騎乗位してーのかなとひとり想像に耽った。