けぶりは天に届くのかㅤ
夜の帳が下りる頃、冬弥はライブハウスから地上へと降り立った。
夜は冬弥を迎え入れるように心地よい風を送った。冬弥は好きになびく髪を気にかけることもなく、夜を受け入れる。
「お、青柳君じゃん」
外の暗闇から不意に声をかけられる。振り返り音の発信源を探せば、そこには今では馴染みとなったライブハウスのオーナーがにこやかに手を振っていた。
「お疲れ様です」
「さっきのBAD DOGSのパフォーマンス、最高だったぜ! 相変わらずやるな」
「ありがとうございます」
生真面目に軽く頭を下げた冬弥に、オーナーは豪快に笑う。頭をもとの位置に戻した際、風が気まぐれに運ぶ硝煙の匂いに、冬弥は気づかないふりをしようとした。
「それで早速なんだが…ちょっと向こうで一服しながら話さねぇか? 実は打診してもらいたいことがあってな。お前らにとっても悪い話じゃないと思うぜ?」
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