雪と消える吐く息は白く染まる。凍える風は隙間から肌をなぞり、痛みを伴った。静寂は辺りを包んでいて、二人分の足音しかしないようにも思えた。景色は色褪せて、モノクロ写真のようだ。
そんな中で、鮮やかに映る彼女だけが確かに生きているような輪郭を纏っていた。
「兄さん」
そう彼女──秋鹿は楽しげに雪を踏み締めてはこちらを振り返った。
「そんな陰鬱な顔をしないで、妹の誉高い姿を見ておくれよ」
「悪いな、この顔は生まれつきだ」
そう返すと彼女はくすくすと笑って見せては歩みを進めていく。今日は世間に言う大学の合格発表日で、此度は目出度く彼女は合格したのだった。
「それともアレかな。優秀な兄から見れば私はまだまだなのかな?」
「そういうワケじゃねぇよ」
身内という贔屓目に見ても妹は頭が良かった。ついでに顔も自分とは違って美しく、社交的で、世間一般でいうところの優等生というやつだ。
自分はただ単に出された問題を解くのが上手いだけの頭でっかち、というやつだ。彼女と比べると優秀でも何でもない。
「ふふ、それで今日は祝ってくれるのだろう?」
そうはしゃいだように彼女は自分の腕を掴む。
いつもはそんなことは言わず、他の身内がいない自分に気を遣っているのだが。今日は自分が既に祝いを用意していると知って、言ってきたのだ。どうせ祝いの品の隠し場所はとうに知られてるのだろう。
「……期待すんなよ」
「いいよ、兄さんがくれるものなら何だって」
彼女はそう答えると、手を離してくるりと回った。白く霞んだ景色に、赤いマフラーが揺れる。
そう、彼女だけがその時
オレの視界の中で生きていたのだった。