鉄錆の味がする。フリスクは手鏡に映った自分の左の頰を眺めて改めて失敗を悔やんだ。
子供の頃にリンゴやパンに例えられた丸みは落ちつき、幾分か大人っぽくなったと自負していた頰は今、痛々しく腫れ始めている。
明日の朝にはもっと酷い色になることだろう。口の中も切ってしまっているので少し表情を変えるだけでビリビリと痛む。
「あちゃー…ママ怒るかなぁ」
まだこの状況を知らせていないトリエルが、この顔を見たらどうなってしまうのか。怒ると怖い養母を想像し、フリスクは震え上がった。
そしてそれ以上に悲しませてしまうであろうことがため息を深くさせる。まったく、今回は本当に下手を打ってしまったものだ。
「ほい、冷やしなよ」
キッチンでゴソゴソと物音を立てていたサンズが現れて、タオルを渡してくれる。タオルの中にはケーキを持ち帰る時についてくるようなカチカチに凍った保冷剤が包まれていた。
フリスクはありがたく受け取って頰にあてながら、サンズがため息混じりにソファの隣に腰掛けるのを見る。彼は彼でどう見てもこの状況に呆れ返っていた。
いつもは「ぶんせき」から入るのが定石のフリスクだが、ここは先手必勝。
「ごめんね、変な事に巻き込んじゃって」
多少声がわざとらしく明るくなり過ぎてしまった感があるが、お説教が長引くよりはマシだ。
サンズはいつもと特に変わった様子のないニンマリと笑った骸骨の顔でフリスクを見返した。
「何をそんなにビビッてるのか知らないけど。オイラ別にアンタを叱るつもりなんてないぜ」