予約「なあドブ、お前足洗う予定とかないの?」
「はァ?あるわけないだろ、なんでだよ。」
「いや、しんどくねえのかなって。」
アルコールの入った大門はいつもより饒舌になる。上機嫌になることは滅多になくグダグダ管を巻くのみであるし今のように突拍子もないことを言い出すことも多々あるので鬱陶しいことこの上ないが、ドブは大門のこういう面倒な所をほんの少しだけ気に入っていた。頑なに隙を見せない男の意地で塗り固められたこころの奥を垣間見たような気分になるのだ。
いやあ全然慣れないもんだな犯罪。お前すごいよ、いやホントに。よく指名手配なんかされてのうのうと生きてられるもんだ。
今だってベラベラと聞いてもいないことを語り出した。それは俺は今しんどいですがお前はどうですか?と問うているようなものだぞ。嫌いな相手にそんな一面見せて大丈夫か?
「なんだよ大門、今更怖気付いたのか?」
「は、そう見えるならそうなのかもな。」
赤く染まった目元をゆるりと細めてこちらを嘲笑う汚職警官。酔って尚憎まれ口は健在なようで何よりである。聞けば俺が組を抜ければもっとウマの合う人間と組めるのではないかと考えたらしい。何処までも可愛げのない奴だ。
「いつか小指切り落としてやるからな、左手の。」
「左ぃ?普通右だろ。」
「利き手じゃ可哀想じゃん。」
「可哀想ってお前…お前の優しさってどっかちょっと違うよな。なんか上手いこと言えないけど気持ち悪ぃ。」
「人の情けに文句つけんな。」
またなんの脈絡もないことを言い出す大門に、お前が俺の指詰めてなんの意味があるんだとか指詰めはケジメの儀式であって指無くしたら破門とかそういうルールはないからなだとか突っ込むのも馬鹿らしくなってしまって、適当に話に乗っかってしまった。酔っ払いの戯言は聞き流すに限る。
「婚約指輪みたいなこと言うじゃん、熱烈だねえ。」
「キモ。」
調子を合わせておちょくってやると男は言い出しっぺのくせにこちらに非難の目線を向け、おえ、と嘔吐くように舌を出して濃い目のハイボールを呷った。深酒はいいけど吐くんじゃねえぞ。