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    su133115zu

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    ドブ兄 Twitterにあげたやつと一言一句同じ

    バレンタイン 仕事帰り、醤油が切れそうから買ってきてという同居人からの要望に重いもんはクルマある時にしろって言ってんだろうがと愚痴りながらも渋々了承し、スーパーに寄った大門の両眼は赤地にデカデカと黄色く印字された大安売りの文字に釘付けになっていた。赤い垂れ幕のかかった大きなワゴンにはこれでもかと様々なチョコレートが雑に積まれて山になっている。本日は二月十七日、茶色く甘ったるい洋菓子の世間的な賞味期限が切れてもう三日は経つ。まだこんなに残ってるのはおかしいだろ、普通はイベント当日までに捌けるように発注するんだよ、担当者が桁を間違えでもしたのだろうか。どれもこれも商品のバーコードの上に半額シールがこれまた雑に貼り付けてある。俗に言う投げ売りだ。年間を通してスーパーで売られているものと比べて少々高級そうなチョコレートが三桁代で買える、大門も甘党ではないにしろイベントにかこつけて美味いものが安く食えると言うなら大いに結構だと思う。チョコレートも酒のつまみになると聞くし。こんなチャンスは一年のうちで今の時期しかありえない。ワゴンの上の方、他の重みで潰されていなさそうなものを二つ慎重に選んでカゴに投げ入れ、目当ての醤油の方へと向かう。

    会計を済ませ、ビニール袋をガサガサいわせながら数十メートル我が家へ向かって足を進めたところで大門ははた、と我に返った。
    バレンタイン。二月十四日。本来はキリスト教かどこかの司祭が処刑された記念日かなにかであったはずだ。大門自身よく知らないけれど学生時代、馬鹿どもがこぞって手料理の腕を披露したいがために碌に話したこともないクラスメイトにまで大して美味くもない菓子を配って回っているけれどもこんなのは日本の製菓企業の陰謀で、元を正せばただのどこぞのおっさんの命日なんだ。それを恋愛と絡めて騒ぎ立てているだけなんだよ。わかるかい弟。とかなんとかそれらしい口振りで片割れに毒づいていた記憶がある。昨今の日本ではチョコレート菓子を恋人や想い人に友達、果ては名も無き関係性のどうでもいい人間にまで押し付ける。そんな聖ヴァレンタインが殉教した当初からは想像もつかない内容に歪められてしまった哀れなイベントである。
    それを踏まえて、果たして今自分が半額以下で買ったチョコレートは一体どんな意味をもっているのだろうか。同じ種類のチョコを二つ、一つではなく二つ買ったその意味は。いや特に何の意味もないはずだ。通常では有り得ない程の割引に心惹かれ、少し良い菓子をお得に手に入れた会社員の賢い選択。それ以外に含意はない。加えて今日は二月十七日、バレンタインと言い張るには些か無理のある日付だ。何の意味もない。一週間ほど前猿顔の同居人にバレンタインのプレゼントはいいとこの財布かバルマンのジーンズで頼むわ。と居候の自覚がまるでない、厚かましいにも程がある要求をされたことなど神に誓って頭をよぎっていない。絶対にそんなことはない。この買い物には何の意味もないのだ。

    家に着くなりコートと背広を椅子に掛け、最近ようやっとただいまとおかえりを覚えた原始人のような同居人の部屋のドアを叩いて返事を待たずに開ける。いつものことだ。部屋の主も特に憤ることなくパソコンのディスプレイを見つめる顔はそのまま、キーボードを叩いていた手の片方をヒラリとあげた。
    「ただいま」
    「おうおかえり」
    大股で奴の背後に歩み寄り、ゲーム画面に注がれている視線を横切るように奴の肩口からキーボードに置かれた左手目掛けてチョコレートの箱を落としてやるとドブの視線は画面から手元の箱、そして振り向いて大門へと移った。何の反応もできず口を半開きにしてこちらを見上げる男に優越感のような何かが大門の心を満たす。自分はきっとこいつのこういう顔が見たくて柄にもなく甘い菓子を買ってきたに違いない。きっとそうだ。そうに違いない。
    間抜け面から瞬きをひとつ、そして嫌な感じに口角をあげて大門を覗き込むようにわざわざ顎を引いて顔を下に向け、片眉を上げた目線だけで見上げてくる。なんだよなんか文句でもあるのか。
    「え? お前マジこれ? なに? バレンタイン? なんで今日? 思春期かよ」
    男の口からは文句でなく揶揄が飛び出してきた。不快度合いではどちらも変わらない。咄嗟に言い返せなかったのはここぞとばかりに煽られたせいで無駄に気恥しさが湧いてしまったからである。こちらにはそんなつもりなんて微塵もなかったのだからサッと受け取られていればなにも思うことはなかったのに。大門が帰路で頭を振ってかき消した思考を読み取られたような気がしてしまったせいもあるだろう。実際にはそんなことはあり得ない。目の前に座っている男はただの元ヤクザ現居候でありエスパーではないのだから。しかしドブにはそういうところがあった、舌先三寸で俺はお前の何もかもを見抜いているぞと、そんな風に振舞うのが上手いのだ。本当はなにもかもがどこまでも薄っぺらい男であるのに。昔から振りだけは一級品である。本当に性格悪いなお前、この微妙な空気どうしてくれるんだ。煽る前に他人から何かを恵んで貰ったらありがとうじゃあないのか。お得意の義理人情はどこへやった。
    「え? 別に特になんも考えてなかった。勤労感謝的な?」
    「なんでだよ働いてんのはお前だろ」
    「ガタガタうるっせえな貰えるもんは有難く貰っとけばいいだろうが」
    煽りに負けじとボケで返したが、何食わぬ顔ができているだろうか 。そうだよバレンタインだよお返しは三倍返しで頼むぜ、なんておどけて見せた方が上手いこと誤魔化せたのではないか。うっかり赤面なんてしようものならこの悪魔になんと言って大笑いされるかわかったもんじゃない。
    「なになになに、あーあーそういうこと。可愛いことしてくれるじゃねえの」
    「うるっせえな何も言うな!」
    「へえ~~、ふう~~ん?」
    「あんだよ何か言えよ!!」
    「どっちだよ。掌すげえことになってるぞお前」
    「あーあーうるさいうるさい! 馬鹿みたいな値段で大安売りしてただけだっての。俺の分食われちゃ堪んないからお前のも買ってきてやっただけだよ。そんなに俺からバレンタイン欲しかったんなら事前に言えよな、来年はちゃんと送ってやるから」
    「いや言ったしそしたらお前ちゃんとゴン詰めしてきただろ。居候の自覚あんのかとか言って。なんで忘れてんだよ。もうボケてきてる?」
    なんでも自分の都合のいいようにしか捉えない男に嫌気が差して、およそ家主に対する態度とは思えない失礼極まりない問いかけには舌打ちだけを返してやるとそのまま部屋を後にした。背後から聞こえるお? 逃げるのか?という幼稚すぎる煽りを買ったもん冷蔵庫入れねえと腐るだろうが!と怒鳴りつけ、キッチンで買ったものを整理する。鶏もも肉は冷蔵庫、醤油はシンクの下の棚。そうして仕分けていってビニール袋の底に最後残ったチョコレートの箱を手に取ったその時、なにか名状しがたい、胸の奥と腹の奥の丁度間の辺りからじくじくと全身に広がるような、このまま走り出してしまいたくなるような焦燥にも似た感情が沸騰するようにボコボコと湧き上がってきて、なんだかたまらない気分になって箱を冷蔵庫に投げ入れ、乱暴に扉を閉めた。中で何かが崩れるような音がしたけれど知ったことか。クソが!!
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    su133115zu

    DOODLEドブ兄 Twitterにあげたやつと一言一句同じ
    バレンタイン 仕事帰り、醤油が切れそうから買ってきてという同居人からの要望に重いもんはクルマある時にしろって言ってんだろうがと愚痴りながらも渋々了承し、スーパーに寄った大門の両眼は赤地にデカデカと黄色く印字された大安売りの文字に釘付けになっていた。赤い垂れ幕のかかった大きなワゴンにはこれでもかと様々なチョコレートが雑に積まれて山になっている。本日は二月十七日、茶色く甘ったるい洋菓子の世間的な賞味期限が切れてもう三日は経つ。まだこんなに残ってるのはおかしいだろ、普通はイベント当日までに捌けるように発注するんだよ、担当者が桁を間違えでもしたのだろうか。どれもこれも商品のバーコードの上に半額シールがこれまた雑に貼り付けてある。俗に言う投げ売りだ。年間を通してスーパーで売られているものと比べて少々高級そうなチョコレートが三桁代で買える、大門も甘党ではないにしろイベントにかこつけて美味いものが安く食えると言うなら大いに結構だと思う。チョコレートも酒のつまみになると聞くし。こんなチャンスは一年のうちで今の時期しかありえない。ワゴンの上の方、他の重みで潰されていなさそうなものを二つ慎重に選んでカゴに投げ入れ、目当ての醤油の方へと向かう。
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    su133115zu

    DOODLEいつかの12月26日の癒着
    クリスマスではない日「おい吸うなって言ってんだろ。」
    「おかしいだろ俺ん家だぞ、しかも今更。なんでそんなカリカリしてんの?」
    「昨日イルミネーションだかなんだか知らねえけど道が死ぬ程混んでたんだよ。揃いも揃って公道タラタラ歩きやがって。なんだってんだ、ただの平日だろうが。あーあ、早くクリスマスはしゃぐカップル全員有罪になる法案可決されねえかな。」
    「お前それ絶対取り消すなよ。いつか彼女とクリスマス過ごした次の日自首しろよ。」

    悪事の打ち合わせで訪れた馴染みのヤクザの住処、ソファの隣でジッポをカチャカチャいわせて深く白い息をついた家主に苛立たしさを隠さずに吐き捨てる。
    別に大門だって喫煙者であるし突然心を入れ替えて嫌煙家になったわけではない。本日日勤の大門はロッカールームで夜勤帰りの弟と鉢合わせ、弟から嗅ぎなれた苦くべたべたしたタールの臭いがすることに気がついたのだ。まさか自分に染み付いたものが知らぬ間にうつってしまったのだろうか。いや一緒に住んでいるわけでもあるまいしそんなはずはない。しかし万が一というものもある。恐る恐る問いかけてみると、なんのことはない。今さっきまでの夜勤シフトで共に過ごした同僚が警察官の癖にとんでもないヘビースモーカーで、その臭いだろうとのことであった。
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