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    amampanda

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    テスデイ
    前回のお話のデイ視点
    時系列的には少し前
    マシュマロ食べてる
    こちらはまだ恋未満

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    手を離したくない最小の一日デイビット」それが自分の名前だった。
     ■■というのは再構築される前の彼のもの。記憶はあっても、彼と自分は違うものだと知りたくなくても知っているのだ。
     塩基配列は人類であっても、何をしていても自分が存在する気がしない、誰といても安心出来ない、それは自分自身が既に「地球人」ではなかったから。一日の記憶が五分分という疾患もみつかって、人々は自分から遠ざかっていくことが当たり前だった。
     父が「人間は善いことをしたい生き物だ」と言っていた記憶だけがやけに鮮明で、デイビットにとってその言葉は指標になった。
     だって、善い事をしているうちは人間でいられるんでしょう?
     例え、光に集まっていく冷たい虫の反応と同じに過ぎなくても、「人類」にカウントされない自分にはそれしか無かった。
     『僕は、善いことをしていたい。』
     その一心で時計塔の伝承科で、8年を過ごした。そんなある日、マリスビリー・アニムスフィアに星見台、人理継続保障機関フィニス・カルデアに来ないかと勧誘を受け、デイビットは伝承科を自主退学し、南極へ向かうことを決めた。
     彼の計画の全ては何処までも醜悪で「このままでは地球人類は138億光年に亘る汚名を被る、“この宇宙に生まれた、最低の知的生命体”と。」それを全力で阻止する決意したものの、どうあっても最後の瞬間に立ち会うには、計画に乗るしか無かった。
     すべては、善い事をするため。
     そうしなければならない、そう思ってしまうデイビットは、傍からみればただ善い事をする“機関”と変わりない。
     『僕もう人類ではない。それでも善い事をすれば、人間でいられるんだ。』







     「デイビット、もう焼けてるぜ。」
     「…………あぁ、」
     「──心ここに在らず、神を前にして随分と不敬なこった。」
     ミクトランパの焚き火の前で、マシュマロを焼いて食べたいといいだしたのは他でもないデイビットだった。
     にも関わらず、限界まで膨らんで茶色く焦げてとろりと落ちてしまいそうになっている。
     「……すまない、昔のことを考えていた。」
     「へぇ、珍しいこともあるもんだ。今を生きることに必死だったオマエが過去を思うなんてな。」
     自分自身の善に固執していた自覚はある。大いに。でなければ、アイツに自己満足と伝えるはずがなかった。
     大それた正義を振りかざして、人類を救うためなんて大義名分も無く、ただ宇宙の秩序を維持したいという理由で地球を破壊しようとしていたのだから、正しく狂人と言われても仕方がない。
     自分の生死などどうでも良かったし、地球が無くなり人類がいなくなれば、英霊の座など意味がないことを分かっていた。
     そのことを承知の上で、協力してくれた目の前の戦の神には素直に感謝している。 
     「テスカトリポカ、ありがとう。」
     「───、っ?は?」
     「オレの召喚に応じてくれて、計画にも協力してくれて、本当にありがとう。おまえがいてくれて、よかった。」
     素直な言葉を並べれば、ストンと心に落ちてきた感情、自分は“嬉しかった”のだと自覚した。人理修復の孤独な旅をして、この異聞帯でもきっと独りだと思っていたのに、テスカトリポカが来てくれた。
     それだけで十分だったのに、ミクトランパにも招き入れてくれて、魂の休息をとっている。
     いずれは繋がってしまった外宇宙に記憶だけで無く、魂ごと吸い込まれるとばかり思っていたのに、こんな穏やかな時間を過ごすことが出来ているなんて、奇跡に近い。
     口角がゆっくりと上がる、久しぶりの無意識の笑顔だった。
     一瞬、惚けたような顔をしたテスカトリポカはすぐにいつもの表情に戻ると右手で口元をおさえて、こう言った。
     「……あー、デイビット、そういうところだよ。」
     天を仰ぎ見る神の声は、どう聞いても照れていて、感謝されることなど神ならたくさんあるだろうに思ったより殊勝なのかと小首を傾げる。
     テスカトリポカはそのまま、しばらく動かないし、手に持っていた串先についたマシュマロはとっくに溶け落ちていたから、いそいそと新しいマシュマロを刺した。
     程よく焼き目がついた頃、ようやくこちらを向いた戦神は「おいおい、そんなに食うのかよ!」と声を張り上げる。
     手の串にはマシュマロ3つが食べ頃になっている。
     「二人で食べれば問題ないだろう?」
     「はー、そんなこといいながら、全部食べるんだろ。ほら、冷める前に食べちまいな。」
     子どもをあやすような優しい声。
     心地よいこの環境にいつの間にか慣れ切っていて、いつか終わりが来ることは分かっているけどもうしばらく、テスカトリポカの傍にいたいと思う。
     離れる事が脳裏を過ぎると、心がひんやりと冷たくなるようだった。


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