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    amampanda

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    テスデイ
    ミクトランパがお花畑になる短文
    デイくん視点

    なんでも大丈夫な方はどうぞ

    夢想の花 微かにかおる生花の瑞々しい匂いに誘われるように微睡んでいた意識が浮上する。
     蜂蜜色の長いまつ毛をゆっくり持ち上げると、見慣れた天井では無く、視界は柔らかな薄紅色と明るい黄色に埋め尽くされていた。
     「……花、が咲いているな。」
     デイビットは突如として目の前に広がった美しい光景に目を見開いた。



     ミクトランパはテスカトリポカが全てを管理している。
     休息を取れと言われた時に休み方が分からないと伝えれば、生前住んでいた部屋をそのまま与えられた。家具の配置まで全く同じとは流石全能神と言うべきか。
     毎日一分、一秒たりとて無駄にしないように張り詰めていた意識はあの時、藤丸に負けこの冥界に来てから緩んでしまっていた。
     相変わらず5分分しか記憶出来なかったが、無限にある時間を十分に使っている。見たかった映画を見たり、ミクトランパには最果てがあるか探索したり、もしテスカトリポカが帰って来ていれば行ってみたかった遺跡を再現してもらったり、生前では考えられない自由な時間。全てを記録出来ないのが惜しい程、楽しい時間だった。
     そんな日々に慣れきっしまったいた代償か、今この場が一面花という花に埋め尽くされた状況であることに驚いてしまい誰の仕業か分かっているはずなのに、思考が止まってしまった。
     「お目覚めか?デイビット。」
     聞き慣れた声に振り返れば、咲き誇る花の間を縫うようにテスカトリポカがこちらに向かって歩いて来ていた。このメルヘンチックな空間から明らかに浮いている相変わらずの黒装束だ。
     「これは、おまえのせいか。どうしたんだ、明らかに趣味ではないと思うが。」
     はらはらと舞うピンク色の可愛らしい花びらがこの光溢れる華やかな空間を演出する。
     「……オレの趣味じゃあない。もちろんな。」
    肩をすくめて苦笑いしながらも、この花たちを消すつもりは無いらしい。
     ベッドを囲うように咲き誇るチェリーブロッサムの薄紅とミモザの黄金色の花びらが、ベッドシーツに積もっていく。突拍子も無い行動はこの神らしいが、意図が全く汲めずに混乱する。
     ベッドから足を下ろそうとすると、床だったところにはナルキッソス、チューリップ、ブルーベル、ガーベラ、クロッカス、ラナンキュラス、数えきれない種類の花々が所狭しと咲き誇っている。
     踏まないように慎重にテスカトリポカに近づいていく。
     お互いこの華美な空間に穴が空いたかのような黒を纏っているため、側から見たらきっと浮いている。尤も二人以外誰もいないから、指摘するものもいない。
     デイビットが気を遣いながら歩いている様子を見て、テスカトリポカがさっと腕を上げると道が出来る。花を踏み荒らさずに済むことに安堵の息を吐いた。彼のところまで敷かれた道を歩きながら、興味深そうに花々を見渡していると、種明かしとばかりにテスカトリポカは咳払いをしてから語りかけてくる。
     「最近、カルデアによく借り出されてただろ?」
     「あぁ、体感で言えば、70分ほど戻って来ていなかったな。」
     「その特異点で、一面の花畑があってな、ガキの英霊たちがバカみたいに喜んでる様を見てたら、…………オマエに見せたくなった。」 
     それだけだったが、まぁ失敗だったな、と戦神らしかぬ自信の無さそうな声で吐き出された真実に紫の瞳が零れ落ちるほどに目を見開いた。
     自分見せるためだけに、ミクトランパに戻り、自分に喜んでもらうためだけに、この果てまで続く美しい花々を用意した。そうテスカトリポカは間違い無く言ったのだ。
     ただ一人を甘やかし過ぎだと罪悪感が顔を出すのと、反比例するようにこの全能神がデイビットただ一人を見ている事実に静かに高揚感が湧き上がる。
     今、この場所にいる時だけはこの神を独り占めしても許されるのでは無いかという愚かな思考を今だけは許して欲しかった。
     いずれ次の生を持つ時、この事実を心の拠り所にしたいという人間らしい我儘。
     「驚いたが、素直に嬉しいよ。ありがとう、テスカトリポカ。」
     声は歓喜に震え無いように冷静に、それでも彼に抱きつきたい衝動を抑えることは出来ず、思わず近くに咲く赤いチューリップを摘み取ると、テスカトリポカに向かっていく。
     差し出した一輪の花の意味に、あの神は気付くだろうか。いや、気付かなくてもいい、彼はただ一人の物には決してならない、神さまなのだから。
     「おっと、やっぱガキだなー」
     「めいっぱい甘やかしてやると言ったのはおまえだ。」
     目に見えて嬉しそうに抱き止めてくれるから、勘違いしそうになる心を叱責して、それでも自分の感情を相手に知って欲しくて、そんな矛盾を抱えて手に取った花を差し出した。
     「いいチョイスだぜ、相棒。」
     「たまたま手に取っただけだが?」
     「ほーう?そういうことにしといてやる、今はな。」
     その言葉に心臓が跳ね上がる。デイビットにとってはこの曖昧な関係がちょうど良いはずなのに、もっと、もっとと叫ぶ心を見透かしたような言葉。
     聞こえないふりをして、テスカトリポカの肩口に顔を埋めた。
     
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