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    amampanda

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    利きSSに提出しようとしてボツになった話②

    テスカトリポカの情操教育とデイビットの愛の自覚
    シリアスになりきれない話です

    愛してるなんていってやらない デイビットは名前が分からない感情を持て余していた。

     例えば、テスカトリポカがこの領域で休んでいる、他の戦士の話をするとき。
     例えば、テスカトリポカがカルデアにいる時の話を楽しそうにするとき。

     表面には一切出ていないだろうが、心臓がちくちくして、ぎゅうっとする。心の中に澱みが出来たような感覚がして、寂しいような悲しいような形容し難い感情に心を満たされる。
     恐らくテスカトリポカが起因となるだろう、この感情はなんなのだろうと、一人焚き火を見つめながら考えていた。
     ゆらゆら揺れる炎を見ていると、騒ついた心が凪いでいく。

     (さすがにテスカトリポカには相談出来ない)

     何かあったらすぐにいえよ、とあの神らしからぬ過保護な事をいっていたが、原因に相談するのはどうかと思う。
     ぱち、ぱち、と焚き火の弾ける音を聞きながら、デイビットにしては珍しく緩慢に思考を巡らせる。
     
    『これは嫌悪や、憎悪が近しい感情なのではないか?』

     今まで殺してきた複雑な感情を正しく理解することは難しく、手っ取り早く分かりやすい感情の型に当てはめることで、思考を整理する。
    つまり、テスカトリポカが他の何かに気を取られていることが、嫌だと言うことかも知れない、と。
    なんて子どもらしい、幼稚な考えだ。テスカトリポカはもう自分のサーヴァントでなければ、一連托生の関係でもなんでも無い。そのような感情を持つ事自体がナンセンスだ。
     当てはめてしまえば、あっという間にこの感情はいけないものなのだ、とデイビットの中で決定づけられる。
     幸いと言っていいのか、デイビットの漂白はこの冥界ですら消えることは無かった。
     だから、この感情は無くていいものだから、と貴重な五分間から排除した。

     
     何度も生まれてくる『嫌悪』の漂白を繰り返して、繰り返して、日々の安寧を手に入れていたのに、何故か神はそれを許してはくれなかった。

     「デイビット、オマエの魂が安定していない」

     いつもの軽口では無く、咎めるような声色でテスカトリポカは言った。

     「そう、だろうか……」

     俯いて歯切れが悪く答えるデイビットの顎を掴んで、無理やり上を向かせられる。いつになく真面目な顔で、こちらを見つめてくる青銀に耐えきれずに目を伏せた。
     「ここは安息の地。オマエが休むための場所で、魂の形を取り戻す場所でもあるのに、何を考えている?」
     僅かに摩耗していることは気付いていた。恐らくデイビットが不要として残さない感情が、テスカトリポカがいう魂を形作る上で必要不可欠なものなのだろう。それでも抱えていることが難しいくらい大きくなってしまったそれを、残すことがデイビットには出来なかった。

     「オマエの心を削るほどの何かが、このミクトランパに存在しているのか?」

     そんなの、テスカトリポカ以外いるわけがない。伝えられたら楽になるだろうに、デイビットの口は固く閉ざされたまま。
     そのまま無言の状態が続き、とうとう言葉の代わりに、その紫色の瞳からぽろり、と涙がこぼれ落ちた。

     「デイビット、」
     「……っ、」

     一度溢れて仕舞えば、ぽろぽろととめどなく落ちる透明な雫にテスカトリポカは大きなため息を吐いた。

     「オマエってほんとに頑固だな」

     呆れたように笑って、優しく抱きしめられる。
    いつもこの空間にいるだけで、感じられるテスカトリポカの煙の匂いが強くなる。

     「安心しろ、デイビット。今、感じているものは大抵の人間なら誰もが持っているもんだ」

     この痛みにも似た感情を誰もが持っていると、全能の神は諭すようにいった。

     「まぁ、時には悲劇も起こすし人も殺す。その感情に振り回されてな。だが、人を救うこともありゃあ、奇跡を起こすこともある」
     「これが、そうだと?」
     「あぁ、間違いねぇよ。育ったものを削り落とそうなんざ、相棒じゃなかったら追い出してるところだ」

     デイビットの髪を優しく撫でて、テスカトリポカは楽しそうだ。いや、もっと違う感情が与えられている。父が子を慈しむような無償の……

     「聡明なオマエなら、答えが分かっただろう?」
     「……愛、これが?」

     『愛』というものはもっとキラキラして、あたたかくて、美しいものだと思っていたのに。
     こんなに、ドロドロで、冷たくて、痛々しい感情だとは思わなかった。
     また涙が頬を伝って、テスカトリポカの肩口をじわじわと濡らしていく。

     「こんなものが愛なんて、信じたくない」
     「デイビット。お綺麗なものだけが愛じゃねぇ。オマエの大好きな映画の中でだって、散々描かれてきたものだ」

     テスカトリポカは、こちらに諭すように言葉を紡ぐ。心地よい低音はデイビットの頑なな心をゆっくりと解きほぐしていくようだった。
     しばらくそのまま、とんとん、と背中を叩いて幼子をあやすような仕草をする神にだんだんと気恥ずかしくなって、デイビットは離れようとするも、テスカトリポカはがっちりと掴んで放さない。
     そんな些細な抵抗をものともせず、神はデイビットの顔を上げさせてこういった。

     「なぁ、オマエがそれほどの愛を持つ相手なんて、オレ以外いないよなぁ?」
     「そ、れは………」

     先ほどまでとは打って変わって、意地悪な問いかけとニヤついた表情にデイビットはこれは揶揄われていると一瞬で理解する。
     言い淀むも、それが全ての答えになってしまっている。

     「素直にオレを愛してるって言ってみろよ?」
     
     テスカトリポカの、勝ち誇ったような顔にデイビットはなんだか無性に腹が立ってきて、無防備な腹筋に拳を打ち込んだ。
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