極めてから練度99になった記念ということで主命を受けた国広と長義。
「二振りにはとある温泉に行って頂きます」
「何故」
「温泉」
「おお、二振りとも息ぴったりですね」
主は二振りにとある温泉旅館のパンフレットを渡す。
「宿はちゃんととってあるので安心して行ってきてください。日時は明日から二泊三日です」
「いきなりすぎてついていけないんだが」
「まさかとは思うが…主、偽物くんと一緒に行け、と?」
満面の笑みの主を見て二振りは言葉を濁す。国広と長義は互いに修行を終え極めた身とはいえ、まだきちんと会話をしたことがなかった。日々の業務連絡程度の会話を続けること数か月。練度をカンストした二振りは暇を貰ったということだった。
「どうして俺が偽物くんと」
「……主命だ、文句を言っても仕方がない。主は俺たちを労わっているんだろう」
「分かっているよ、そんなことくらい」
不服そうにしている長義を見て国広は視線を泳がせた。
(俺のせいか?)
数日前、主は国広にとある質問をしていた。
「山姥切国広は」
「なんだ、主」
「練度が上限に達したらなんでも願いを叶えると言ったら、何がしたいですか?」
主の言葉に国広は言葉を詰まらせる。修行を終え早数か月。幾回も出陣を繰り返し、すっかり強くなったことは実感していた。それももうすぐ一区切りがつく。主はじっと国広を見ている。
「……特に、これと言ったことは思いつかない」
「そうですか」
「ただ…そうだな。本歌と…山姥切と二振りで話せる機会がほしい」
「……なるほど」
「……山姥切には言うな」
「わかっていますとも」
そんな会話を、国広は思い出していた。
(俺のせいだ。俺が本歌と二振りで、と言ったから…主はあんな強行を)
もやもやと頭の中で考え事をしている国広を見て長義は眉をしかめたが、大きく息を吐いた。
「明日は六時に出発すると主が言っていた」
「そう、だな」
「寝坊したら置いていくからね、偽物くん」
「ああ…善処する」
部屋に戻り着替えをカバンに詰めながら国広はあれこれ考える。
(本歌は嫌がっている。こんなことで話ができるのだろうか。いや、しかし、主がせっかく設けてくれた機会を無駄にするわけには……)
などと考え事をしていたらまったく眠れなかった。明け方に三十分ほど寝ただけでまったく疲れはとれていない。起き上がり顔を洗いに行こうと廊下を歩いていると、すっかり身だしなみを整え終わっている長義とばったり会ってしまった。
「酷い顔だよ、早く顔を洗っておいで」
「……ああ」
「何、温泉が楽しみすぎて眠れなかったのかな?」
「そうだな……」
「ほら、ぼさっとしていないで早く行っておいで」
「ああ」
今日は何故か当たりが柔らかい気がする。国広は洗面所で顔を洗い頬をばちんと叩いて気合を入れた。