ふわふわしてる本歌と布くんの話山姥切長義を審神者に折られたという壮絶な体験をした山姥切国広。その本丸は解体され新しい審神者に引き継がれた。そうして数年、山姥切長義が顕現した。しかしこの山姥切長義は大変ふわふわしており同位体たちに「本歌山姥切としての矜持を云々」「どこの馬の骨ともわからん写しに騙されるな云々」と説教を食らう始末。
そんな長義は国広のことが好きだ。布をかぶっているため顔をまじまじと見ることは出来ないが不器用でも優しく接してくれる。そんなある日長義は国広の以前の審神者のこと、長義が折られたことを聞いてしまう。
「国広は俺に優しいけれどそれはかつて折れた本歌を重ねてるんだ」
どうしたら国広に今の自分を見てもらえるんだろうか。長義は日々考えにふけることになる。他の同位体のように振る舞えばいいのかと「偽物くん」と呼んでみると驚愕の表情で返された。違う。そんな顔をさせたかったわけじゃないのに。長義は気不味くなり国広と距離を置くことになった。
(国広は優しいから俺に本当のことを言わないだけでずっと折れた俺のことを思っているんだ。どうして俺は他の同位体と違うんだろう)
同位体とは違い土いじりが好きだ。国広と一緒に畑仕事をするのが好きだ。馬当番も嫌いじゃない。手合わせだって、国広と一緒だったらとても楽しい。
そんなある日の演練にて、長義はぼこぼこにされてしまい誉れも取れず落ち込んでいた。部隊長が戦果の報告に行ってる間隅の方でぼーっとしていると一振りの男士が声をかけてきた。
「何か悩み事でもあるのかな」
よその本丸の長義だった。しかもきわめている。自信に満ちたその立ち姿は長義には眩しすぎて思わず口を噤んだ。
「誰かに話してみれば楽になることもある。幸い、報告に時間がかかっているようだ」
そう言われて長義はおずおずと口を開いた。
「俺は他の同位体とは違うんだ。いつも怒られてしまう」
「そうなの言われてみれば雰囲気がふんわりしているような気がする」
「主にも言われた。ふわふわしてるって。国広も、そう言ってた…」
ちらっと視線を向ける。今日の部隊長は国広だった。
「偽物くんは優しい」
「うん。こんな俺に幻滅せずに一緒にいてくれる。……でも」
「でも」
「俺…主から聞いたんだ。今の本丸の審神者は違う人だったんだって。その審神者は国広を……写しに肩入れしすぎて…」
「まさか、俺を折ったのか」
「……国広の目の前で、審神者は本歌を…」
ぐずっと長義は鼻をすすった。
「すぐに捕縛されて新しい審神者…今の主が全部引き継いだんだ。俺は最近顕現したからそんなこと全然知らなくて」
「そう…」
「……国広は俺にかつての本歌を重ねてるんだ。だから俺もそうありたいと思うけれどうまくいかない」
「別に無理をしなくてもいいんじゃないかな」
「え」
「きみのそれは個性だ。他の同位体は頭が痛いだろうが…そのままの君でいいと思う」
「……」
ぐしぐしと涙を拭っていると国広が近付いてきた。
「長義、帰ろう」
「……うん、国広」
午後。非番の二振りは国広の誘いで万屋に行くことになった。
「何でも好きなものを頼んでくれ」
「でも」
「俺はあんたが美味しく食べているのを見たいんだ」
「……じゃあ、お団子」
「ひとつで足りるのか?」
「うん」
椅子に座り団子を見つめる長義を見て国広は口を開く。
「悩んでいるのか?」
「……」
「すまない、俺ではあんたの悩みを晴らすことができないかもしれない」
「なんで国広が謝るの?謝るのは俺の方なのに」
長義はぽつりぽつりと言葉を漏らした。以前の本丸での事件を審神者から聞いたこと、自分が他の同位体と違うこと。本歌として振る舞いたいのにうまくできないこと。国広は何も言わずただ聞いていた。
「国広は折れた長義のことが忘れられないんだろう?でも俺ではその長義のように振る舞えない」
「長義」
「どうして俺はこうなんだろう。主は優しいし、本丸のみんなは強くてかっこよくて…国広は優しいのに…どうして」
「長義、そんなことを言わないでくれ」
肩を震わせる長義を抱き締める。突然のことに長義は固まってしまった。
「俺はあんたを通して別の本歌を見たりしていない」
「でも」
「俺が好きなのはあんたなんだ。あんたじゃないとダメなんだ」
「え……」
「折れた本歌のことは…ショックだった。俺の主とあろう人が、そんなことをするなんてにわかに信じられなかった」
聚楽第での任務で厳しいことを言われながらもあの長義は俺に、俺たちの本丸に優判定をくれた。その時に俺はあの本歌のように強くありたいと思った。だというのに、主は、審神者は――
「俺があの長義に抱く思いは今も変わらない。でもそれはあんたに抱いているものとは全く違う」
「?」
「俺はあんたと恋仲になりたいんだ」
一目見た時に分かった。あの長義に抱いていた感情は思慕のものではない。尊敬と畏怖。苛烈で傲慢で美しい本歌に抱いた感情はかつての憧憬を思わせた。しかし、此度顕現した長義は違った。ふわふわしているし、無垢で何でも信じてしまう。戦いが苦手で裏方に回るほうが楽しいと言う。本歌と写しの確執を気にするそぶりも見せず、写しに対して穏やかに接する。
「一目惚れだった」
「くにひろ…」
「戦いが苦手というなら俺が守る。裏方に回るのがいいというなら俺はそれに付き合う」
「……俺は他の長義とは違うんだよ?甘い物は好きだし、ちょっと方向音痴だし、涙もろいところもあるし、寂しがりなんだよ?」
「甘党なのは可愛いと思う。方向音痴であることは否めないが俺がいればいいだろう。泣き虫なのも寂しがりなところも可愛い」
「……人前でたぴおか食べちゃうよ?同位体に怒られても大盛のぱふぇとか食べちゃうよ?」
「一緒に食べよう。そうすれば大丈夫だ」
「……うん、うん。ありがとう、国広。大好きだよ」
「本歌。どうした?何を見て…」
「いいや?なんだかお熱い二振りがいるなと思っただけだよ」
「ああ、午前中の演練にいた本丸の」
「お前はあんな可愛げのある俺の方がいいのかな」
「俺の本歌はあんただ。あんたじゃないと意味がない」
「……そう」