The day I first met you 駆け出しキラー.トリックスターの話信じられない、元居た世界では、百発百中だったナイフ命中率が
この世界では思い通りに投げられない。
そんな僕を嘲笑うかのようにサバイバー達は順調に発電機を直していく。
残すところ後一台と言ったところか?
……それも時期につくだろう。
『くそ、何でこんなに追いつけないんだよ……』
儀式が始まると、まるで身体に鉛でも
仕込まれているんじゃないかって感じる程に
身体が重く、ナイフを投げる反射神経も
サバイバー達を追う足も言う事を聞かない。
まるで僕だけが、彼らとは違う重力が乗っかっているようで…。
僕が欲しがる音達を欲しいがままに得られると言う、
エンティティの誘惑に誘われるがまま、
この世界を楽しもうと、意気揚々に挑んだ儀式も、
甘いものでは無かったという事をすぐさま思い知らされた。
ゲート開通音が聞こえたが、そこまで追う気力も無く僕は
膝から崩れ落ちる様に地面に手をついて、滴る汗を拭い
荒い息を吐いていた。
カチ、…カチッ
と、遠慮がちながらもフラッシュライトのスイッチを
僕の顔に向け、オンオフ繰り返す相手が居る様で、
僕は無性に苛立ち睨み返そうと起こした目の前には、
しゃがみ込み僕の顔を覗き込む
ボブヘアーの中国人(?)の女性がにっこりと笑みを見せたなら
僕の口に何かが押し込まれた。
『んぐっ!?』
これってチョコレート?
普段甘いものを摂取する事が少なく、久し振りに口にした
この蕩ける様な甘い味は身体に染み渡り、どことなく心地良さを感じ、
口内に残るチョコを平らげるまで、その味に夢中になった。
『ふふ、美味しかった?
疲れてる時って甘いものっていいもんね。
アンタ結構頑張ってたよ。
たまたま持ってた板チョコだったけど、
見てほら、今日って2月14日だったみたい』
そう言ってボブヘアーの女性は、自身のスマホの日付画面を僕に見せた。
『ハッピーバレンタイン。トリックスター』
にひっと悪戯っぽい笑顔を見せて、立ち上がる彼女に僕は名を聞いた。
『君、名前は?』
『フェン・ミン』
『ミン……今度は君にお返ししなきゃ』
僕は、ゆっくり立ち上がり、たった一人残った彼女はゲートへ向かう。
本当ならこのまま隙を突いて彼女の声を奪ってやろうと思ったけれど
流石に恩をあだで返せるほど今の僕では力不足だ。
僕はひらひらと彼女に手を振り今度会うだろう約束を、曖昧に交わした。
『……お返しは倍返しじゃなきゃ嫌だからね?』
『うん……飛び切りのホワイトデーをプレゼントしてあげるよ』
『ふふ、そんな事言ってる場合?アンタはもっと上手く
なって私に少しはドキドキハラハラを感じさせてよ……頑張ってトリックスター』
『僕の名前はジウンだよ……ミン』
『そ?ジウン、またね!』
初めての儀式は惨敗を喫した。
僕は約束を果たすべく、みっちり一か月積極的に儀式に赴いた。
何度も彼女を追う度に、徐々にこの世界での僕の立ち回りを理解していった。
そして3月14日
トンッ
エンティティのフックに彼女の身体を吊るし上げる事に成功した。
彼女の甲高い悲鳴と共に彼女は笑って居た。
『あーぁ……ついに捕まっちゃったか……ッ』
『ミン……君のおかげで、僕はこうして君を捕まえる事が出来たよ』
『つい最近まで散々色んな奴に弄ばれてたジウンが、嘘みたいに上達して
吃驚しちゃった……』
彼女の唇から滴る血を指で拭い、僕はそっと彼女に青を基調とした包装紙で
丁寧に包んだプレゼントを渡した。
『私このまま死んじゃったらこれ、失くしそうだから開けていい?』
『うん……いいよ開けて?』
彼女は震える指先で、少し乱雑に包装紙を破き、青い箱を開くならそこには
チェーンブレスレットが入っていた。
『わぁ……キラキラしてる奇麗。プラチナ?銀?』
『僕とお揃いの銀のチェーンだよ』
そう言って、僕は首に掛けていたシルバーネックレスを指で引っ掛け見せた。
『ねぇ、ジウン……お願いがあるんだけどさ?
私痛みでもう感覚が分かんないから……貴方の手で
私の手首にこれ、付けて欲しいんだけど頼める??』
『勿論……』
僕は彼女の前に屈みそのブレスレットを付けて上げた。
『ハッピーホワイトデー……ミン』
『ん……また、遊んでね?ジウン』
『うん!』
彼女の身体は無残にエンティティの黒爪に引き裂かれ空へと運ばれて行く。
僕は少しの切なさと多大な高揚感に口元に笑みを刻んでいた。
ミン……今度はもっとたっぷり君の声を貰いに行くよ。
こうして僕は漸く霧の森の住人となれた気がした。