鬼勿 つゆのまだひぬ
「お」
ふらりと日課の散歩中
草薙はさらさらと降る雨の中
咲き初めの淡い紫の花に目を留める
怪異のせいで年中雨のホタルビにも
それなりの四季はあるが
仄かに暗いこの敷地内では
この色の花は少々鄙びて見えてしまう
「お前さん達も健気だねえ」
もっと明るい場所で咲けば秋の色と愛でられように
暗い上に雨にけぶり
葉先からはたはたと雫を重たげに垂らし
風も無いのにふらふらと揺れる
戯れに傘を傾けたとて
慰めにもなりはしない
草薙は
つ、と手を伸ばしぱきりと茎を折る
だがそれは、
存外丈夫な皮のせいで
綺麗には手折られてはくれず
「あらら、…すまんね」
半端に折ってしまった花に謝り
雨と青臭い汁のついた手を
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