Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    jjxL8u

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 60

    jjxL8u

    ☆quiet follow

    ミスオエ
    第二部22章の内容を含みます。少しグロ要素があります。

    異音 吐き出した息が、唇が、まるで燃やされた人間が放つ煙のように恨みがましく震えた。これからしようとしていることのくだらなさに辟易する。今この瞬間の自分のことは、厄災の傷によって現れる人格よりももっと嫌いになれそうだった。

     わざと灯りは点けたまま、いつもより重ねて結界を張った。たぶんこれで、誘き出せるだろう。
    魔法で衣服を寝巻きに替え、シーツの上に座ったところで、もくろみ通り結界が一瞬で破壊された。今日ばかりは入ってきてほしかったとはいえ、新しい方法を試すつもりで強い媒介を使ったのに。ミスラのにとってそれはささやかな障害にすらならなかったらしい。
     自然に舌打ちが出てきたので良かったともいえる。焦燥を悟られたくなかった。
    「寝るんですか?」
    「見ればわかるだろ」
    「一人で慰めるのかと思って」
    「そんなに盛ってるわけないだろ」
    「そんなこと言ったってあなたいつも俺が、」
    瞬間、ミスラはオーエンの真上に移動する。背をシーツに押し付けながら、空いた手が重ねられる。
    「え?」
     なんでこんなときだけ察しがいいんだろうと気まずくなって、視線を逸らした。
     豊かに赤い髪が、オーエンの薄い胸にのしかかる。賢者が任務で魔法者にいない日、ぐずって額と前髪を擦らされることはあるけれど、今日は違う。胸骨に擦れるのは硬い頭蓋骨ではなく、耳の軟骨だった。
     冷たい手がゆるく首を掴む。そのままじっと、動かなくなった。
    「…………」
    「…………」
     首にかけられていた長い指が、喉仏から臍までを一直線に辿る。まるでかしずくようにボタンが外れていった。
     オーエンから注がれる視線に気付かないふりをするように、ミスラは瞼を伏せたまま鎖骨に唇を寄せた。今さらぎこちない手つきであばらに触れてくる。何度も掴んだり折ったりしてきたくせに。
     いつのまにか壊れそうなくらい強く噛み締めていた奥歯を緩めて、呪文を唱える。
     一瞬だったけれど、もうここ何十年も聞いていないような濁った叫び声が飛び出した。ミスラにこんな不意打ちの攻撃を仕掛けられたのはいつぶりだろう。
     甘やかな湿り気を帯び始めていた空気とミスラの腹を突き破って、穴を開けた。胸部まで吹き飛ばしたつもりだったけれど、心臓を掠るぎりぎりまでしか抉れなかったらしい。
    「っぐ、」
     反射的に、ミスラも攻撃魔法を繰り出してきた。急所を外せず、顔の半分を吹き飛ばされる。脳の大部分が失われたらしく、目の前が真っ暗になる。残った魔力で感覚器官の補完を試みるけれど、視界はどうにもならなかった。かろうじて機能する触覚と聴覚に神経を集中させる。
    「…………」
     息を呑む音が聞こえた。直後、ため息も聞こえる。また胸に重さを感じた。
    「魔法、だったんですね」
     ミスラの言う通りだった。擬似的に心拍を刻むよう、首と胸に魔法をかけた。血液が回っているように見せかけるために、指先まで体温を灯した。
    見てみたかった。一回しか死ねないオーエンを、いまさらどう扱うのか。これまでのように殺してみて、どんな顔をするのか。
     胸に、額と前髪が擦られる。結界や脈拍を丁寧に準備したのに、視界がやられて失敗に終わった。それなのにどこか安心している。
     どんな顔をしているのか、答え合わせになってしまったら。自分がどれほどの怒りに支配されるか、想像もつかなかった。
     体の修復が間に合わないから、このまま一度死ぬのだろう。だけど体温を失っていく腹が妙に温かい。ミスラは腹に空いた傷を修復していないらしい。滴り落ちる血液は命の熱さをしている。
    「あなた、どうして泣いてるんですか」
     ほとんど傾いた意識の中で、かすれた声が聞こえた。お前のせいだろと言いたかったのに、唇はもう震えてもくれなかった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator