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    ミスオエ バレンタイン
    (ノーチェイベスト後)

    絡める絡めとる離れてまた絡めとる 爪先に掠った血液を多量の砂糖水でたっぷりと薄めたような橙。薄い皮膜の向こうに揺蕩うほのかな色を指先でなんどもたどってから、ようやくそのやわらかな唇に自らのそれを重ね合わせた。
     舌の上に砂糖を纏わせておけば、あちらから積極的に舐めてくれると覚えたのはわりと最近のことだった。
     表皮を溶かし尽くすように隙間なく合わせてゆく。案の定、オーエンの方から唇をわりさいて舌を入れてくる。
     最近、といってもそれはミスラの感覚であって、年月としてはここ五百年くらいのことである。オーエンとこういったことをし始めてからもう四桁の年を経る頃になる。そう考えれば半分あるいはそれより前に気づいた事実になるから、もはや最近と呼ぶには差し支える年月かもしれない。
     結局どちらでもいいことを考えながら、唇を合わせたまま、動かずにいた。
     オーエンの冷たい唇は、ミスラの唇から体温を盗んでぬくもってゆくけれど、ミスラも負けず劣らず体温が低いため、眠たくなるようなぬるさしか生まれることはない。
    ぬるさなんて退屈と同じで、人生から唾棄したいものであるのに、この男と肌を寄せ合う時間だけは、そう悪くない──どころか、それなりの頻度で求めたくなってしまうのだった。オーエンの肌を裂く方が、体は赫灼たる熱を覚えるというのに、ときどきこうして彼の肌の上に、己の肌を滑らせる感触が恋しくなるのだった。
    「ん……」
     思わず鼻から声が抜けてゆく。
     ミアの屋敷からくすねてきた菓子やケーキのクリームがよほど好みの味だったのか、オーエンの舌があまりにもゆっくりとミスラの粘膜を徘徊するものだから、つい呼吸が疎かになっていた。歯の裏や舌の上のざらざらひとつひとつに至るまで余すところなく糖分を絡めとろうとしているらしく、何度も丁寧に舌が這う。舌先で口蓋をちろちろと舐め回されると、さすがにくすぐったさのあまり肩を揺らしてしまった。
     横髪をかけてやりながら耳介に指を添わせ、仕返しとばかりにゆっくりと軟骨をなぞる。口の中で薄い舌がびくりと震えた。それでも振り払われることがないため、耳の裏をやわく引っ掻き、ときどき軽く引っ張ってみたりと、戯れに愛撫を続ける。
    「ふ、……ぁ……」
     いったい何分舌を合わせ続けていたのか、ようやく離した唇の間に溜まる吐息は重たい熱を孕んでいた。
     一度大きく息を吸って、唇を繋ぐ唾液を追うように再び口付けた。唾液のせいでぬるりとすべるから、啄み、噛みつきながら、今度はミスラがオーエンの唇を堪能する。
     背に手を添えた。張りがよく、だけどとろりとした触り心地のシャツ。その向こうから、もうミスラの手に怯えなくなった筋肉と、硬い骨の感触が伝わってくる。硬い、といっても皮膚と筋肉と比べたときの話で、防御魔法がなければ素手でもへし折れてしまうのだが。
    「んん、」
     オーエンもミスラの動きに合わせて唇を啄んでくる。ときどき舌を出して唇を舐めてくるので、ミスラも呼応し、舌を絡める。首の角度を変えてもすぐに合わせてきて、タイミングも舌を絡める深さも、いつだってちょうどいい。ミスラがこの体に教え込んだのだから当たり前ではあるが、それにしても唇の重なり方や感触など、ミスラが変えていない元の体の部分でさえしっくりくる。
     唇を啄み合いながらゆっくりと押し倒していく。
     シーツに押し付けた肩を繰り返し撫でつけていると、ゆるりと輪郭を解くようにオーエンの体から力が抜けてゆく。
     ちゅう、と音を立てて吸いついてみると、びくりと一瞬だけ体が強張る。だけどすぐにくすぐったそうに身を揺らして力を抜く。ベッドの上から逃げ出そうとする身体を押さえつけたり、うっかり殺してしまった頃が懐かしい。今でも稀にそういった日はあるけれど、すっかり互いに互いの体の扱いを心得ているといっていいだろう。少なくともミスラの方には、その自負がある。
     唇の隙間を舌先で撫でつつも、舌はいれず、閉じた唇を柔らかく押し付けた。
    親指で顎やその裏の皮膚が薄い部分を撫でながら、四本の指で首筋を辿る。ぴくりと震えた膝が跳ね上がり、ミスラの腰に触れる。
    「っあ……」
     ミスラの体が入り込み脚を閉じられないことにようやく気付いたらしく、先を期待したのか視線を外すとともに頬が赤らんだ。
     傾き始めた穏やかな陽の光を纏うオーエンは、血色が良く見えるが、それだけではない肌の火照りに笑みがこぼれる。笑いとともに僅かに息を漏らしたミスラを見上げるも、オーエンは再び気まずそうに視線を逸らし、再びキスを待つように目を閉じる。
     頬に手をあて、親指で瞼を撫でた。繰り返していると、オーエンはゆっくりと息をつく。もう片方の瞼に触れるだけのキスを落とすと、伸びてきた指がミスラの顎先を撫でる。顔を少しだけ上げると、オーエンは目を開けていて、こちらを真っ直ぐにみつめてくる。唇を指の腹でとんとんと叩かれた。
    「こっち」
     そう言って開かれた口に、招かれるまま応じてやる。唇を合わせた途端絡みついてくる舌を吸い上げ、舌の裏から表面まで、犯すように舐めつくす。
     ネクタイを解いてベッドの下に放った。ボタンをふたつ外しても、ミスラとは違いちゃんと体に添うサイズでくたびれていない布のものを着ているせいで、黒いシャツまだはしつこく白い肌にまとわりついている。
     ボタンを外すのはやめて、狭いシャツの中に手を入れ、鎖骨を撫でた。なめらかな皮膚は、このまま手のひらから熱を移していればそのうちシーツに溶け込んでしまうのではないかとさえ思う。もちろんオーエンはことばのとおり、シーツにとろかすようにして身を消しどこかへ去ってしまうことができるし、気が乗らないときはそうすることもしばしばある。これだけキスを続けても逃げないあたり、今日はそれなりに、そういう気分の日らしい。
     胸の突起に触れようと指先を伸ばすと、ミスラの動きを性急だと咎めるように、オーエンは両手で頬を包み、下唇をあまく噛む。二、三度ゆるく歯を立てられたところで手を引いて、髪を梳く動きに変えれば、ミスラの腕の檻の中で、男はうっとりと目を細めた。
    「っ……」
     どちらともなく諦めたように吐息をこぼし、一度くちびるを離す。
     自身が魔法使いだと知る頃には、とっくに性欲の盛りを過ぎていた。とはいえ肉体は若いままで、定期的に燃え上がるように欲がわくこともあるのだけれど。
     大抵は魔法で沈め、時折手で処理してきた。他者の身体を使って溜まったものを吐き出したこともあるが、生きてきた年月に対し、その人数はあまり多くない方だろう。行為を始めても、精を吐き出す前に相手の身体を壊してしまったことだって何度もある。
     この男とこうするようになってからは、別だった。
     石にならない男の死体を眺めているうち、顔も肌も髪もそこらの誰よりも綺麗だということに気付いて、一度くらい手を出してみてもいいかと、ふらっと気が向いたのだった。空間の扉を繋げて、死の湖の中心にある自室のベッドに死体を放り投げ、冷たい唇にキスをした。
     生き返り、徐々に温もってゆく唇を堪能しながら服を脱がしていると、オーエンは開いたばかりの瞼を瞬かせていた。おそらく本人も自覚していなかっただろうが、あのときオーエンの顔に浮かんでいたのは怯臆だった。
     どんなときでも、不敵あるいは怒りに満ちた表情で襲いかかってくる男が、こんな顔をするのを初めて見た。無意識のうちに舌なめずりをし、のしかかかった無垢な体を暴き立てて、なにもかもを教え込んでいた。
     それ以降オーエン以外を抱いていないのは、殺しても死なない体が便利だったからだけではなく、ミスラが初めてこの行為に、溜まったものを吐き出す以上の感覚を味わったからだった。
     特に、魔法舎なんていう狭い建物に押し込められてからは、頻度も回数も、格段にふえたように思う。
     この、いまのように。
     あまいのもっとちょうだいと蕩けた声でねだられてしまえば、年甲斐もなく唾をのんでしまう。いとも容易く、誘われてしまう。
    「っもう、ないですよ」
    「じゃあこれはなに」
     オーエンの長い指がポケットに入り込み、そろりとなにかを摘み上げた。
     まだチョコレートが残っていたのかと思ったが、六花の紋章の咲くそれは、ミアの屋敷でもぎとったものだった。ミスラの分とされた実はすべて賢者にあげたものと認識していたが、無意識にひとつ持って帰ってきていたらしい。たしかに、この男が喜ぶ味をしているのだろうと想像した瞬間があったから、おそらくはその時だろう。
     微かに歪んだ眉が「これ誰の気配だっけ」と言いたげなのを察して「ミアですよ」と言ってまた口付けた。溶けはじめた実のせいで ──あるいはそのおかげで、ぬるりとすべる舌を擦り付ける。ベネデッタの実だけでなく思考までとろかすことを願って、深く、深くまで。ミアがどんな魔女かを思い出そうとして、ミスラから意識が逸らされることが、どうしてか気に食わなかった。
    「あ……」
     オーエンの口の端から小さな恍惚の声が、目からは涙がこぼれ落ちた。ミスラにはいまだに分からないことだけれど、この男は気持ちいいと感じているとき、涙を滲ませる。
    「今度は僕からのプレゼント」
     食べてくれるよね、そう微笑む男の唇は、口付けをはじめる前とは違い、しっとりと色付いていた。
     長い指に挟まれころころと弄ばれている小さな球からは、チョコレートの香りがするけれど、魔力が透けている。
     かけられた魔法の種類を探ることはせず、オーエンの指とミスラの唇で挟むように顔を近づけた。
     殺そうと挑んでくる者が仕掛けた魔法を解明しないのは、命取りになりかねない。それでもそのままチョコレートを口に含むことにしたのは、魔力だけでいえばオーエンが自分を殺すだけのものを有していないというのが大きな理由だが、赤らんだ頬の上で細められた瞳を潤ませる淫蕩の光に、きっとミスラにとっても悪くない欲望が包まれているのだと思えたからでもある。
     かぷりと歯を立てると、薄い殻のように張ったチョコレートが割れて、なかからとぷりと魔法の溶け込んだチョコレートが溢れ出す。オーエンの指から舌でチョコレートを絡めとると、硬い部分を数度咀嚼してから嚥下した。きっと好みでなかったチョコレートをこの場で使い切ろうと思ったのだろう。ミスラの舌にちょうどいい甘さだった。
     味わって食べてよ、そんなことを言う男の指先についたままのチョコレートもなめとるために舌を伸ばすと、オーエンの方からミスラの舌に指を乗せてきた。
    「ん、ぁ、ちょっと……」
     中指と人差し指で、押さえつけたり挟んだりと弄ばれる。
     仕方なくミスラもオーエンの指に舌を添わせた。骨を舐めしゃぶるように吸い付いては、唾液を絡めてまた舌でなぶる。
     やがてオーエンは二本の指を縦に広げてミスラの口を開かせると、自身の舌を入れてきた。引き抜かれた指はミスラの指で絡めとった。自身の指に嫉妬したのか焦ったように侵入してきた舌は、もうすこし泳がせてやろうとミスラの舌を引っ込めて簡単には絡めてやらない。
    「んっ、んっ……!」
     顎をあげて舌を伸ばし、必死にミスラの舌を捉えようともがく様子を見下ろした。喉の奥でくつくつと笑うと、ようやく見つめられていることに気付いたオーエンは、目を見開いて今度は逃げようとする。口内から出て行こうとした舌を少し強めに噛んで、今度はミスラから絡ませ、擦り付けた。
     繋いでいる方は手の甲に、もう片方は肩を掴んでシャツの上に、ぎりぎりと爪が立てられる。
     空いている手で頬を撫でれば、何粒もの涙が指にぶつかってくる。それに気を良くして唾液まで啜りつくすように深く吸い付けば、オーエンはまるで達したようにぎゅっと身を縮こまらせた。
     口を離せば、オーエンはぐったりと力の抜けた体をシーツに沈めて肩で息をしていた。さすがに達したわけではなく、呼吸が限界だったらしい。
    「ああこれ、」
     体がぴりぴりと痺れ始め、心臓がどくりといつもより深く収縮する。そして送り出される血液は、脈動とともに温度を増すように熱くなってゆく。
     ミスラが身を起こそうとすれば、オーエンは腰に脚を巻き付け、後頭部に腕を回してくる。
     また唇を重ねてくるけれど、やはりチョコレートの甘さ不足が気に召さないのか、触れ合うだけにとどまっている。
     無理矢理唇を割って、舌から舌へと直接シュガーを注いだ。鼻から抜けるような甘い声とともに、腰を掴んでいた脚がほどけていった。
     舌を擦れ合わせるあいだも、オーエンのかけた催淫の魔法が、ミスラの体を侵してゆく。あちらもミスラの体をよく知っているだけあって、ミスラが触れられるのが好きな場所には特に重点的に響いてじんじんと痺れるよう魔法が調整されている。
     シュガーを溶かすように舌で触れ合えば、ざらざらとした感触が新鮮で夢中になっていた。さっきまで粘膜やチョコレートを交えたぬかるんだ甘い馴れ合いだけだったから、余計にこの独特なざらついた感覚が際立って感じられる。
     一段と激しくなった唾液の混ざり合う音の原因は、貪るように口付けるミスラだけでなく、オーエンにもある。やはり甘いものがミスラの舌の上にあれば、喜んで求めてくるようになる。
     誰とでもこうなのかと考える瞬間もあるけれど、たとえそうだとしたら一層燃え上がる。キスだって、この男の体の扱いだって、他の誰かに負けるつもりはない。オーエンが目移りするようであれば、隈なく快楽を叩き込んで、誰が一番か何度だって覚えさせてやる。
     ミスラが絡めるまま握り込まれていた指が、するりと抜け出してゆく。そろそろキスだけでは足りないかと、その逃げ出した指先を掴んでシーツに押し付けてやろうかと思えば、オーエンは変わらず舌を擦り付けたまま、ミスラの胸元に触れた。ひとつひとつ、秒針よりも遅い速度でボタンをはずしていく。ベルトは外さずスラックスの中に手を入れ、シャツ越しに下腹部を撫でるように最後のボタンをはずした。
     ミスラが体を起こそうとすると、首に抱きついてきたオーエンがそれを阻む。あまったるい舌先でミスラの頬を舐め上げると、こめかみにくちびるを押し当てて、ちゅう、と音を立てて吸い付いてくる。互いに低いはずの体温も、オーエンのかけた魔法のせいかすっかりと上がっていて、いつのまにか、汗をかいていたらしい。
     オーエンの方は催淫魔法がないため垂れ落ちるほどではないが、細砂のようにさらりとしている肌が、いまはじっとりと湿気を含んで熟れている。頬にくちびるを寄せると、皮膚の方から吸い付いてくるような感覚にくらりとする。
    「はぁ……」
     今度こそ体を起こすと、重なり合っていた身体の隙間を埋めていた湿気や熱が霧散してゆく。首飾りと一緒にシャツを脱ぎ去ると、首筋や鎖骨からも汗が流れ、胸から腹へと伝い落ちていった。
     髪を掻き上げてみても、わずかな涼しさを得るだけで、魔法で勝手に上げられた体温が下がることはない。見下ろせば、期待に口角を緩めつつも、焚き付けたことで苛烈になるであろう快楽への不安で瞳が微かに揺れている。
    「ははっ、まだですよ……」
     笑ってまた唇を合わせた。
     勝手に炙られ高まってゆく欲。行為に励むような年頃でもないし、自身の魔法で湧き上がるものを押さえ込むことも、オーエンの魔法を解いてしまうこともできる。できるけれど、こうしてじわじわと身を蝕んでいく性欲さえも楽しんで味わうことを選んでいる。
    「僕はいいけど、」
     オーエンが持ち上げた膝に軽く揺すられるけれど、彼の唇に噛みつくことで堪えて、血の滲んだそこをちろちろと舐める。そうするとたえられなくなるのはやはりオーエンの方で、ミスラの舌に噛みついては絡めとり、口内にひきずりこんでくる。
     唾液の音を立てながら強く吸われる感覚に、またひとつ余裕が削られるのを感じながら、両手の指を縋るように絡めてシーツに縫いつけた。
     どちらもいつでも逃げてしまえるし、もっと奥深くにだって触れられるのに、そしてその感覚を何度も思い知っているのに。時々こうして浅い触れ合いに興じたくなってしまう理由は、何百年をともにしてもまだ分からないままだった。
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