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    蒼月ルートのクロロレです。

    家出息子たちの帰還.5───つまりフォドラとは因果が異なるのだ。霊魂を失った結果、体調を崩す。肉体から離れた霊魂は我々の世界を漂っていることもあれば、神々の住む世界まで飛んでいってしまうこともある。(中略)霊魂は様々な理由で肉体を離れる。呪いをかけられた時、肉体や精神が激しい衝撃を受けた時、先祖や精霊が何か伝えたいことがある時───

     イーハ公リュファスがブレーダットの紋章をその身に宿していたら、ディミトリは命を狙われなかっただろう。マイクランがゴーティエの紋章をその身に宿していたら、シルヴァンに殺意を抱かなかったはずだ。ディミトリもシルヴァンも殺意には慣れきっている。
     だからシルヴァンはディミトリが何を言いたいのかすぐに察した。推理ではなく経験が答えを導く。この殺意は見せかけに過ぎない。騎士団は真に守るべきものを見誤っている。大司教より大切な存在が彼らにはないのだろうか。
    「ま、狙いがなんであれ、修道院の女性たちに被害が及ばないようにしないとな」
     そう言ってシルヴァンが茶化すとドゥドゥーが微かに目を細めた。彼は主君とシルヴァンの昏い共通点に気づいているのかもしれない。
     大広間で解散した後、シルヴァンは通路で訓練用の籠手と大きめの包みを抱えたローレンツと遭遇した。
    「お、見知らぬ美女からの贈り物か?手伝おうか?色男」
    「結構。こちらは弟妹からの品でね」
     ローレンツは澄ました顔で剥がれかけた包装紙を直しているが、それでも紫の瞳は愛おしさを湛えている。女性からの贈り物であった方がずっとましだった。マイクランならどうすればシルヴァンが最も傷つくか考え、そのまま行動に移すに決まっている。
     鳩尾に重い一発を食らったような気持ちを誤魔化すため大袈裟に息を吐く。ローレンツは弟妹たちにとって誕生日でもないのに贈り物をしたくなるような、領内で良い品を見かけた時に顔が浮かぶような良い兄なのだろう。
    「グロスタール家のご令嬢は美人か?」
    「弟妹共に僕と同じく眉目秀麗だ」
     紋章の有無は流石に聞けなかったし、ローレンツも言及しなかった。マイクランがその身に紋章を宿していたらシルヴァンはこの世に存在しない。
    「今度紹介してくれ」
    「良いだろう。常に僕か弟同伴なら構わない。ところでシルヴァン、君は先ほどの表現に矛盾を感じないのか?」
     困惑しているとローレンツは見ず知らず、と言うからには実際の外見も評判も知らない筈なのにどうやって美女と判断しているのか───と言葉を続けた。ローレンツは日頃クロードに文句しか言わないが、共に過ごすうちに影響を受けたらしい。まるで猜疑心の塊を自称する誰かのような発想だった。


     今節はクロードの誕生日と女神再誕の儀がある。ローレンツはまた課題協力を頼まれているのでそこそこ多忙だった。ロナート卿を誑かした輩が修道院内の何かを狙っているのだと言う。だから夜にクロードを招いて呑んでいる場合ではないのだが、ローレンツには他にも目的があった。
    「面白そうな課題じゃないか!あーあ、ベレト先生はなんで俺に声をかけてくれなかったんだろう?」
     酒が入っているせいか愚痴ですらクロードの口調は明るい。今晩はもう徘徊するつもりがないらしく、寝巻き姿の彼はすぐに杯を空けた。
    「私欲を満たしそうな印象のせいだろう」
     確かにシルヴァンやディミトリが主張するように大司教に対する殺意には真剣さが足りない。だからローレンツ個人は悪質な悪戯だと思っている。仮に何かを盗み出したいとして───発覚すれば処されるような行為で誤魔化すほどに彼らが欲するもの、とは一体何だろうか。ローレンツには修道院にそこまで貴重なものが存在するとは思えない。
     だがクロードは意見が違うはずだ。何かがある、という確信がなければ夜な夜な寮を抜け出して敷地内を探索しない。彼の知見を借りれば敵の狙いが分かるのではないだろうか。
    「それにしてもこれ、美味いな」
     だがクロードは具体的なことは言わず、ローレンツの弟妹が見立てて送ってくれた乾酪と干し杏を食べている。同時に口に放り込んで噛めば味は同じだ、と主張する彼の目の前で薄切りにして重ねたのはローレンツだ。
    「意見がないならこれで終いだ」
    「教会にとって都合が悪いものを探してるのかもしれないぜ。ツィリルやカトリーヌさんでもあるまいし、正直になれよ。憎まれてる、とは思わなかったか?」
     わざとらしく眉間に皺を寄せ、目でも細めてくれたら良かったのに緑色の瞳は真っ直ぐローレンツを見つめている。杯は何度か空けたが彼は全く酔っていない。クロードの言う通り、ダスカーの悲劇を処理する際に教会は決定的な何かを間違えた。だから彼らはこんなに憎まれていて───そうでなければ無謀な叛乱など起こるはずもない。
     そして彼らは現状把握を拒んでいる。だから士官学校の学生が警備にあたるような、気の抜けた対応をしているのだ。
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