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    ひとひら

    @C6kVe

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    ひとひら

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    ・創作男審神者×大i般i若
    大i般i若が三i日i月と周りに担がれて宿に独り旅に行くだけの話。

    うたかた(上)「なかなか予約の取れない宿の予約が取れた」
    と、三日月宗近から宿を教えられたのは数日前の事だった。
    それも1人分だけ。
    大般若は奇妙だと思いながらも「行った方がいい」と骨喰に後押しされ、当番や出陣、遠征もなんとかする。との答えが周りから返ってきたのだ。
    そんな場所に自分が行っても良いものか、と思いながらも、半ば本丸を追い出されるように必要最低限の荷物を持って件の宿へとやってきた。
    人里離れた静かな場所に、鳥居のような入り口を携え周りには整えられた森のような木々が囲っていた。
    鳥居の足元に小さな行灯が一つ。
    【うたかた】
    と流れるような字で記されていた。
    大般若のため息だけが冷えた空気に溶けていく。
    鳥居を模した門を潜れば整備された日本庭園の様な庭が続く、敷かれた砂利の中に浮かぶ敷き石を踏みながらゆっくりと奥へと進んでいく。
    時おり視界の端を掠める僅かな明かりは木々や庭に設けられた行灯の明かりだろうか…
    ぼんやりとそんな事を考えながら庭を抜ければ、流れる水音と共に流れる池に浮かぶ蓮の花に大般若は目を見開く。
    今は蓮の時期だっただろうか…
    じゃり……
    と、固い小さな石が踏み締められて音を立てる。
    敷き石はどうやらここで途切れているらしい。
    視線を蓮から前方に向ければ少し歩けば着くであろう宿の入り口が見える。
    奇妙だ……
    そう思いながらも、大般若は足を進めた。
    格子の引戸の向こうには旅館でお馴染みの広い玄関。その向こうには藺草が香っていた。
    出迎えの従業員や宿の客が居そうなものだが、1人の姿も見えないどころか人の気配すらない。
    そして、本来ならば椅子なりテーブルなりがありそうなロビーには帳場がぽつりとあるだけである。
    もしかして、自分は三日月宗近に担がれたのではなかろうか。と、大般若はため息と共に目を閉じて肩をなでさせる。
    それならば骨喰や他の男士……ましてや、長谷部や大包平までが自分を騙す理由が分からない。
    ゆっくりと目蓋を持ち上げた先に人の影を捉えて、大般若は思わず身構えた。
    偵察力は確かに高くないが、戦場に出た身でこうも人の気配に気付かない事があろうか。と、目の前の人物を凝視する。
    獣を象っているらしい面はどこか抽象的で浮き世離れしている。
    真っ直ぐに伸びた背筋そのままに面の人物は深く頭を下げる。
    「ようこそ、お越しくださいました。大般若長光様。ーーーー様より承っております」
    誰だって?名前のところを奇しくも聞き逃してしまったが、おそらく三日月宗近だろうと大般若も聞き返す事はなかった。
    履物はこちらへ、と四角い盆のような物を差し出された。
    宿に預ける様だ。大般若は脱いだ靴を差し出された盆に置く。
    この面の人物について行けばよいのだろうか、と歩き出した背を追うように足を踏み出すも「大般若長光様」と、名を呼ばれて思わず身体ごと向き直る。
    帳場にまた別の獣を象った面の人物が立っていた。
    「こちらにお名前の記帳を…」
    きっちりと揃えられた指先が示す机の上には開かれた冊子と筆が一本。
    はて、そこに名前を記帳する冊子はあっただろうか?
    呆然と帳場を見つめていた大般若に面の従業員は再び声を掛ける。
    「こちらにお名前の記帳を…」
    機械かなにかか?と、思うほど声に違いがない。
    大般若はゆっくりと歩み寄り、真っ白な冊子に己の名を記して行く。
    “大般若長光”
    「ようこそお越しくださいました。大般若長光様。当宿についてご説明させていただきます。まず………」

    ・全室露天風呂の完備
    ・部屋の香は消さぬ事。途切れそうな場合は、切れる前に火を点けて焚く事。
    ・ご利用は如何なる理由があろうとも一泊限り
    ・宿で起こったことを他言してはならない

    「そしてこれが一番大事な事でございます。お帰りの際は門を潜り抜けるまで決して振り返りませんよう…」

    大般若を見つめていた無機質な面がゆっくりと下方へ下がっていく。深く頭を下げたのだ、と思えば姿勢を戻した面の従業員の片手を伸ばす。
    「大般若長光様。揖夜の間。揖夜の間。ご案内~」
    カンッと乾いた木をぶつけたような高い音が響いたかと思えば、示された指の先に広がる深く落ち着いた赤い絨毯が敷かれた廊下が開かれていた。
    廊下の先に淡い色の格子の扉。そして掛かる札には“揖夜の間”。
    奇妙な宿。警戒心や逃げなければと言う思いよりも、この先にある桜の間に行かねばならない、と言う気持ちの方が大きかった。
    「長い旅路のうたかたの間を、大事にお過ごしください」
    半ば足早に向かう大般若の背に掛けられた奇妙な口上に、一度大般若の意識は従業員へ向くも直ぐに揖夜の間へと移って行った。
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