嘘偽りだとしても、あの人の命が続くなら……
赤子の泣き声がどこからともなく聞こえて、大般若長光は吸い寄せられるように歩みを向けた。
その背を黙って追うのは日本号たった一振。
一振にはできない、と何故か奇妙な感覚が胸中にあった。
「いた」
静かに紡がれた言葉に日本号ははっと顔をあげる。
本丸の外、茂みの中にその小さな存在は確かにいた。
涙で顔をぐしゃぐしゃにして世界の終わりのように泣く声に、大般若は膝を着いて思わずを伸ばしかけた。
はた、とその動きを止めたのは大般若を見た赤子の瞳と色もそうだったが、母を求めるように迷いなく伸ばされた小さな手だった。
「ぅうっ……あーっ」
大般若は直感的に“だめだ”とそう悟った。
この子に“自分”を覚えさせてはいけない、記憶させてはいけない。
1846