習作①吸血鬼は汗をかかない。肌はひんやりと冷めていて、さらりと乾いている。
長寿の生き物らしく代謝がひどく緩やかなのだ。
だから、だから……これは、全部俺の汗。
「あっ、はっ……ッ、くぅ……」
「ほら、がんばって?好きなところ当てていいよ?」
馬乗りになって膝と肘で全体重を支えているけれど、がくがくと震えて力が入らない。
ともすればガクンと落ちてしまいそうな腰を必死で耐えているのはそもそも体重をかけたが最後、コイツが重みで死ぬからだというのに。
当の本人は申し訳程度に腰骨の上に両手を添えて至極無茶な要求をするだけだ。
後ろにずっぷりと埋められた質量は腸壁を押し潰してゴリゴリと抉ってくるけれど、抜こうと腰を持ち上げた途端に良いところに当たって力が抜けて、その拍子にずぷりと奥まで埋まってしまう事を繰り返している。
泥沼だ。
「ぅ、っ……」
項垂れた額がガリガリと肋骨の浮いた胸板の上に触れる。
ひやりと冷えて、鼓動も少ない、異種族の感触。
そこがぬるりと濡れているのは、俺から滴った汗のせい。
ひゅうひゅうと喉が鳴る。
「む……り……」
ついに弱音を吐いた。
騎乗位を挑んだのは自分だったが、もう意識も朧げで何もかもがぼやけてしまっていた。
自ら穴をこじ開けて挿入するまでに、力加減を間違えて殺してしまったり穴の位置がズレたり角度がわからなかったり。
何度も何度も失敗を繰り返して、それでもドラルクは寝転んで俺が腰を落としていくのを見守っているだけで、何も手助けをしなかった。
入れたら入れたで、今度は良いところに強く当たり過ぎたり、奥まで入って怖くなったり、でも気持ちが良くて止まらなかったり。
理性が焼ききれるたびにずしんと腰が落ちて、死んだドラルクが砂から復活するのを待ってまた1からやり直し。
何度射精の手前でスタートに戻るを繰り返したか覚えていない。
もう何もかもが限界だった。
「も、イきた、ぃ……っ、ドラルク……」
すりすりと洗濯板みたいな胸にほっぺたを擦り付けて、汗と涙と色々な汁でぐちゃぐちゃな液体を塗り付ける。
自分で動くだけじゃ、上手にイけない。あの焼き切れるような快感を、与えて欲しい。
みっともなくぐずぐず鼻をすすれば頭上で苦笑いの気配がした。
「もう生殺しはお終いにしてくれる?」
「こ、殺してない……」
砂になってないだろ、と言えばそーゆー意味じゃないと返された。
「キミが絶対動くな自分でやるって言うからめちゃくちゃ我慢したんだけど?……ね?わかった?2人でするものなんだよセックスっていうのは」
言い聞かせるような口調と裏腹に、長い指が至極優しく髪を梳く。
「キミがやりたいって思ったなら、そう言ってくれたらいいんだよ。サオだけ貸せなんて、そんな事言わないで?」
そう、だ……今夜の最初はそういう、始まりだった。
でも俺がヤリたいだけなのに、お前を巻き込むのは迷惑かと思ったのだ。
だから全部自分で済ませてしまえば……ただ寝転がっていてもらうだけなら……それならお前の負担には、ならないと思ったんだ。
……結局、時間も手間もかけさせてしまったけれど。
面倒くさい奴だと呆れただろうか、時間を無駄にさせたこと怒っているだろうか、俺の事……嫌になった……だろうか……
「悪……かっ……ごめ、ごめんなさ……っ……」
そう思い至ったら、決壊してしまった。
ぼたぼたと零れる涙が色の悪いドラルクの肌に溜まって。
止め方の分からないそれは溢れて零れてシーツを濡らす。
その涙をつうと撫で上げて、両手を皿のようにして受け止めながらドラルクは言った。
「あぁ、あぁ、そんなに泣かないで。目玉が溶けてしまうよ」
その声が存分に優しく柔らかかったから、ますますどうしたらいいのかわからなくなってしまう。
ずっと、寝そべっていたドラルクが少し体を起こして、その拍子に入っていた陰茎は抜けてしまった。
あまりの喪失感に呆然としていると、目元に冷たい感触。
ちゅっちゅと、何度も触れる、それはドラルクの唇で……
それから、ゆっくりと涙の膜越しに近付いてくる……それ、は。
表面の肌と違って、酷く生暖かくて、驚いた。
べろり。
敏感な粘膜に、ぬめった感触の、それは。
「しょっぱいね」
眦からじゅるじゅると涙を掬いとって吸い上げてから、ドラルクはようやくその舌を納めた。
「ど、こ、舐めて……お前……」
呆然と零せば、ふふと笑われた。
「どこもかしこも、舐めてみたいし触ってみたいんだよ」
だからね?キミからのお誘いはとても嬉しいんだ。
したくなったらそう言ってくれたらいい。
優しく、でも、今日1番の強さで、抱きしめられる。
「したいって言って。それで、二人で、しよう?ね?言える?」
「い……嫌じゃねぇの……」
「嫌なもんか」
「負担じゃ、ねぇの……?」
「負担なんて感じた事ないよ」
「俺なんかに時間、使うの……」
「あー、俺『なんか』禁止。それで、時間はたっぷりあるんだから、キミに使わせて。ね、ロナルドくん、言える?したいって。言って」
ぎゅう、抱きしめる腕に力が篭もる。
さっきまで冷たかった肌が、熱を帯びている。緩やかだった鼓動は早くて。くっついた額から……汗。
「キミに求められたいし、二人でセックスがしたい。ねえ、きっとさっきまでと全く違うよ。一緒に気持ち良くなろう?ね?言って?言ってよ……」
汗をかいて一人で必死になっていた先程までより、二人で汗をかく方が絶対気持ちがいい。
そう……そうだよな……
いいの、かな。お前に、言っても。
「言って?」
促されて、ついに言葉は転がり落ちた。
「した、い……お前と……」
よく出来ましたと、唇が寄せられて。
後はもう、なし崩し。
二人して汗だくになって、シーツをぐしゃぐしゃに……した。
END