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    雛子(ひなこ)

    @kyushi_hinako

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    雛子(ひなこ)

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    ここ千2開催おめでとうございます🎉
    ワンドロライ企画に『ハロウィン』のお題で参加させていただきます!
    書いて出しなので文章変なところはご容赦ください💦

    ハロウィン「トリックオアトリートォ!」
    「トリックオアァァァ!トリートオオォ!!!」
    飛び交う怒号と共に繰り出される拳。
    「怖い怖い怖いなになになに!?」
    入り乱れる退治人と吸血鬼の乱痴気騒ぎが地方都市の駅前を賑わせていた。
    呼び出されて来てみたら、わけの分からぬ状況に半ばパニックで叫べば馴染みの退治人達から口々に回答を貰えた。
    「地域の皆さんにハロウィンを楽しんでもらうギルド企画だ」
    「人気商売だからな!」
    ええー?そ、そういうものなの?引き篭って長いから知らなかったけどハロウィン企画ってことなの?
    「いや、普通コスプレして退治とかじゃないのか……って、まあ、そっか」
    突っ込んでみてから周りを見渡して、悟る。色とりどり千差万別、個性の主張が激しい退治人たち。
    「普段からコスプレみたいなもんだしな……」
    「あぁ……」
    納得してしまった。
    「つーわけで掛け声くらいはッ!なっ!」
    「トォリック!」
    「オアァ!」
    「トリートォ!」
    「2ヶ月後にはウィウィッシュアメリクリスマスゥ!になるしその1週間後はあぁけぇォォォォォめぇ!だ」
    土埃と共に様々な武器を振り回しながら答えてもらいつつ、ヒクヒクと頬が引き攣る。
    「大変な仕事だね」
    「お前らのせいなんだよなぁ」
    馴染み深い赤の退治人、私を呼び出した張本人が少し手隙になって近寄ってきてしみじみこぼすけれど。
    「……まあ、何だ、こう、盛り上がってる所にノコノコ出てきちゃう同胞の気持ちもわからんでもない」
    我々吸血鬼にはそういう習性があるからね。
    「あ?お前もトリックォァしとくか?」
    「遠慮しときます……」
    凄まれて片手を上げて一歩引いた。
    「ああ、そうやって退治終わるまで少し離れてろよ」
    しっしと呼び出してきたくせに遠ざけようとする彼にちょっとムッとしてしまった。
    「何で呼ばれたんだ私」
    こんな乱闘まがいの場所で死なずに役立てるわけが無いことくらいわかるだろう。ロナルドくんとは短くないし浅くない付き合いをしているはずだが?
    そう思ってちょっと膨らんだ頬に、ぷすっと指先がささる。
    「この後のお楽しみのために決まってんだろ」
    その指の奥で、煌めく青が悪戯にすうっと細められていた。
    「えっ!?」
    「お前じゃねーと出来ねぇだろ?」
    だから死なずに待ってろよ。なんて壮絶な流し目で意味深に微笑みかけられたら、それこそ死因になりかねないのだけど!
    ドクドクといつになく速い心音とかっかと火照る頬のおかげで、初秋の肌寒さも平気だった。
    ハロウィンのお祭り騒ぎに乗じて吸血を目論む下等吸血鬼の同胞や、羽目を外しがちな高等吸血鬼の同胞を愉快な声と拳でたちまち制圧していくロナルドくんの赤い残像を右へ左へと追っているうちにだんだん辺りは静かになる。
    そうこうしているうちに夜も更けて、終電が無くなる頃には人間たちは姿を消した。イベントの日といえども大都会とはやはり違うよなあとしみじみしてしまう。都会の皮を被っていても駅の裏手は山……
    人間がいなければ吸血鬼たちも目的を失う。ある者は捉えられ、あるものは塵と化し、騒ぎたいだけだった無害なタイプはさっさと闇に紛れて逃げて行った。
    後処理で大変なのは吸対とVRCなどの公的機関。
    民間のハンター達は解散である。
    「終わったわ」
    はぁ……とため息混じりに疲労の色を残したロナルドくんが退治人たちの輪を抜けて1人こちらへと歩いてきた。
    「もういいの?」
    まだ何やら話をしている人達が多いので一応確認をしてみたけれど……
    「いい。それよりもっと、大切な事があるだろ?」
    そう言いながらこちらを真っ直ぐに見つめられたら、また心がそわついた。
    大切って、私との時間が?
    嬉しくてじっと見つめ返せばふっと微笑みが返される。
    「なぁ、準備、してきた……から、早く」
    小声で囁かれた衝撃の言葉に死んでしまわなかった私は偉い!よく耐えた!
    心象風景はどっかんどっかん大爆発の火山である。
    「嬉しいよロナルドくん……!もし良ければすぐそこのホテルでも……!」
    感動すら覚えて打ち震えながら抱こうとした腰はスルリと掌から逃げた。
    「俺ん家」
    なっ?くすくす笑って歩き出したその背中を慌てて追った。
    ああ、ハロウィン万歳!
    トリックオアトリート!もちろんトリートも用意出来るけれど、やっぱり恋人同士ならトリックも楽しまなければね。
    意気揚々とたどりついた、ロナルドくんの自宅。ドアをくぐればめくるめく官能の夜が始まる。
    期待に胸を膨らませ踏み込んだそこには……


    『ハッピーバースデーカボチャヤツ』


    パステルカラーのウォールガーランドがどどんと壁に鎮座し、色とりどりのバルーンで飾り付けられたファンシーな空間が広がっていた。



    「…………え」

    呆然と立ち尽くす私の腰をロナルドくんが抱いて促してくる。
    「さ、ケーキのデコレーション、やってくれよ」
    お前に作ってもらおうと思って材料も全部買って準備してあるから料理も頼む!
    わくわく!と顔を輝かせるロナルドくんはとても美しい。
    キラキラの睫毛、期待に満ちた潤む瞳、紅潮したまろい頬。
    ベッドの上で見せてくれると思い込んでいたそれらは明るいダイニングのど真ん中で輝いているのだが。
    そこへ2人の帰宅を察知してやってきたのは、我が使い魔イデアの〇ことジョン。え?先に帰ってるヌって意味深にウインクしてたのって私とロナルドくんに気を使ってくれたんじゃなかったの!?
    そしてこれから供される晩餐にウッキウキで跳ねるツチノコくんに、本日の主役とでかでか書かれたタスキをつけたカボチャヤツくん。
    「サプライズとかはしてやれなくてごめんな〜!今からドラルクが美味い飯作ってくれるからな!そしたら誕生日会始めような」
    3匹に向かってロナルドくんは相好を崩して笑いかけている。

    う、うそでしょ……
    私は、なんて勘違いを……

    暖かな光景に湧き上がる、勘違いによる恥ずかしさと申し訳なさ。そして……
    ガッカリ!!!
    期待した!期待した!あんな言い方されたから、めくるめく官能的な夜を期待した!
    ウワァン!泣いていい!?泣いていいか!?
    がっくり座り込んで床を叩く私を不思議そうに見下ろす3匹に、もう少しして飯が出来たら呼ぶからゲームでもしておいでとロナルドくんが促している。
    ぴょんぴょん跳ねるようにもつれあってじゃれながら掛けていく彼らを見送りながら、まだ床にへたっていた私の隣にしゃがみ込んだロナルドくんが言う。
    視線は部屋を出ていく3匹に固定したまま。

    「……あいつら寝たら、エッチなコスプレ、用意してある」
    「……え?」
    ええ!?
    そ、それって!!!
    ばっと隣の顔を見たらサッと視線を外されたけれど、その丸い耳が真っ赤だから、聞き間違いじゃないことはすぐにわかった。
    「はしゃいで遊んで、腹いっぱいになったら、あいつらすぐ寝ると思う……」
    もごもごとそっぽを向いたまま言い募るその後頭部に思わずチュッと口付けを落とす。
    「そういう事!なら!まかせて!!!」
    ぶわわっと湧き上がるやる気とともにスックと立ち上がればくすくす笑い声。
    「トリック成功か?」
    「大成功じゃない!?」
    期待させて、落として、また上げる。流石の人気作家様のシナリオだ。完敗!
    腕を巻くってキッチンに向かう。
    まんまとトリックされてしまったからには、とびきり美味しいスイーツと、それからとびっきり甘い時間でトリートを渡すしかあるまい。


    ハロウィンナイトはまだまだ終わらないのであった。
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