帝徳if[1]《2人の世界》
幼い頃はそっくりな双子だった。ただし外見だけ。
性格は真反対。アホと天才、月鼈、提灯に釣鐘と言われることもしばしば。でもやっぱり根っこは同じ。双子テレパシーで意思疎通可能。
カリスマオーラを持つ兄、智(あきら)とアイドルオーラを持つ弟、圭はみんなの人気者。
みんなの中心にいるけれど2人だけの世界がある。誰も2人の世界には入れない。
智は幼い頃から、弟のことをもう一人の自分ようだと思っていた。
「あいつは生まれる前から俺のツインレイ」
細胞分裂して体が別れてしまったから一つに戻りたいのかもしれない。兄は禁忌を犯す。
《幼馴染》
圭には前世の記憶がある。若くして亡くなったが幼馴染とプロとして活躍出来たのだから良い人生を送れたと思ってる。今世では自由に過ごしたい。
母親が近所の同い年の子を勝手に連れてくる前に会いに行ってみた。泣き虫なハルちゃん。
「キャッチボール、しよ!」
それは稲妻の如き一目惚れ。
その日から葉流火の心が"圭と野球"一色になった。
やっぱりこうなったか……。ハルちゃんから野球を取り上げるなんて出来ないし、困ったなー。
圭ちゃんと野球やりたいと言われてしまっては断りづらい。悩む次男に気付いた長男。兄の計略に従う弟。
《リトルシニア時代》
「俺に勝ったら圭とバッテリー組ませてやる」
才能を伸ばしメキメキと力をつけていく葉流火。しかし智には一歩及ばず。圭と野球が許されているのはトレーニングの時間だけ。葉流火が智に勝てるまで同じチームに所属すら出来ない。我武者羅に挑むこと数年、ついに勝利を掴む。
葉流火に陽盟館から声がかかる。今度こそ圭と一緒のチームに……そう考える葉流火。圭をバーター扱いする監督に近視感を覚える智。古い傷を懐かしむような目で陽盟館のスカウトを断る圭。
行く場所はすでに決まってる。約束を果たす時が来た。
《帝徳高校》
「君たちと帝徳で甲子園に」
国都には尊敬する選手がいる。要兄弟と清峰の3人だ。彼らはあの陽盟館のスカウトを蹴って帝徳のスカウトを受けるつもりらしい。噂を聞いて居ても立ってもいられなくなって、少々早口で自分も帝徳へ行くことを伝えた。
清峰と要(兄)は実にクールな対応だったが国都は満足だった。気持ちを伝えられただけで充分、そのはずだった。
「オレもスゲー楽しみ!絶対一緒に甲子園行こうね!!」
無邪気な笑顔で要(弟)が言う。彼は確かに約束してくれた。一方的な決意表明では無くなった瞬間だった。国都は恋に落ちた。
《陽ノ本兄弟》
兄弟で比較されるなんて珍しいことじゃない。例えば名前ではなく、当の弟と呼ばれるだとか。そんなことは日常茶飯事でいちいち気にしていたら切りが無い。だから気にしていないフリをする。兄は才能を持っている側の人間だから、と自分を納得させて現状を受け入れてた照夜。
しかしそれはただの諦めに過ぎなかった。自身の能力を証明するための努力が足りなかっただけ。それを気付かせてくれたのは要兄弟の存在だった。
要弟は自分と似た立場にいると思っていたのに実際は全然違う高みにいることを思い知り、圭への憧れを抱く。あの人のことがもっと知りたい。
一方で当も要兄弟と知り合ったばかりの頃、なんとなく親近感を持っていた。自分たちと同じ仲の良い兄弟というイメージ。が、それは正確には正しくない。兄弟というより恋人のような近さで寄り添う美しく倒錯的な双子。彼らの秘密を知ってしまった当。
「お願い。秘密にして」
妖しく濡れて光る唇に目が釘付けになる。圭は熟れた林檎のように頬を朱くして当を見上げてきた。心臓がけたたましく跳ねる。まるで耳の近くで鳴っているようにうるさい。返答に窮し生唾を飲む。
圭の後ろで黙っている智が静かに当を観察していた。答えを間違えてはいけない。当は喉の渇きを覚えた。
《岩崎監督の夢》
少年たちに自分の夢を託すだなんて今時クサいだろうか。だが如何せん諦めらめきれないものもある。だから岩崎は全力で仏神に願った。
あの6人が帝徳に来てくれますように!!!!!!
神社仏閣に参拝すること数百回。岩崎の願いを叶えたのは神でも仏でも無かった。
国都は元より帝徳入りに前向きで可能性が高かったため然程心配が要らなかったのに対し、藤堂、千早、清峰、要兄弟に関しては直前まで色よい返事を貰えなかった。おかげで岩崎は彼らに会えるまで毎日ソワソワしていた。
清峰が要弟の決定に追従する形だったのは言わずもがな。意外だったのは要兄もまた、弟に判断を委ねていたことだった。
「いいよ、お前がそうしたいなら」
そう甘く囁く姿は彼女を溺愛する彼氏のようであったが、仲の良い兄弟は尊いので問題なし。
藤堂は「試合前、変なやつに絡まれたおかげで軽めのイップスで済んだんで」と岩崎に打ち明けた。
「一緒に帝徳で野球するかって聞かれたとき、やるって言っちまったし」
照れくさそうに、しかし嬉しそうに、のばしている最中の頭髪を触る。
「やっぱ野球続けてぇし、続けるなら帝徳がいいっス」
[爽やかな短髪の野球少年だった藤堂が髪をのばす理由]
昭和のヤンキー姿をもう一回見たいから髪のばしてと圭が言ったから。
売られた喧嘩はするけど煙草は吸わない。
すでに手遅れなくらい圭に振り回されているけど本人は無自覚で普通のダチ感覚でいる。次第に世話焼きへと進化。
千早は「いまでも身体的なコンプレックスはありますけど自分より華奢で野球センスの塊みたいなやつがいるって知ってから絶望して逃げることが恥ずかしくなりました」と岩崎に打ち明けた。
視力が悪いわけでもないのに気分転換でかけ始めたメガネを手持無沙汰ぎみに触りながらしかしハッキリと口にする。
「音楽に浸って野球を遠ざけても俺も満たす音はいつだってグラウンドの上だった。……野球から、自分の弱さから逃げたくないです。俺のプレイスタイルを褒めてくれたアイツとなら自分を認めてやれるんじゃないかって。だから、帝徳に行きます」
[イメチェンメガネのその後]
圭にカッコいいと褒めてもらって内心喜んでる。アホの子に悪態はつくが、からかいの範囲内であり、圭を傷付ける言動は絶対にしない。傍から見るとツンデレっぽい。
圭に惹かれていることを自覚しているがそんな自分が嫌で葛藤してる。圭と二人っきりの時は割と素直。
《ハイパーつよつよ1年生爆誕》
岩崎は膝から崩れ落ちて神様仏様圭様に感謝の祈りを捧げた。そんな監督の様子を目撃してしまった生徒たち。期待と不安が帝徳野球部に広がるが、入学式の日はやって来る。
制服の選択の自由。
女子生徒がスラックスを穿いて登校することができる現代。令和は逆もまた然りだ。男子生徒だってネクタイではなくリボンを付けていいしスカートを穿いたっていい。これを知った時、圭は面白ッと思った。彼は間違いなくアホであったので羞恥などなく笑いに走った。
いわゆる出落ちというやつで、女装で登場した場面で友人たちの爆笑を掻っ攫うのだ。
圭のそんな目論見はいざ登校してみると尽く外れていった。それもそのはず。
成長に伴い、精悍な智とは異なる可憐な容姿に華奢で丸みのある中性的な躰では女装してもただの美少女になるだけである。
駄目押しのヘアメイクで完璧度が増してしまったのもある。
が、考えてみてほしい。葉流火を始め、そもそも圭にガチな男たちが更に美少女みが増しただけの圭を笑うだろうか。否。奴らは好機とばかりに圭へ「可愛い」と言いまくった。普段は圭が嫌がる"女の子扱い"だって当然のように行った。
そうやって圭を取り囲んで愛でてやれば、圭は(あれ?意外と悪くないかも)と思い始める。似合ってて可愛いって言われるのは満更でもない。当初の予定とは違うがみんなから構ってもらえるのは嬉しかった。
そんなわけでこれが日常となる。いつの間にか美形双子は王子と姫と呼ばれるほど帝徳名物になった。
続