あさのおわり 全てが終わった。俺たちはそれぞれ、色んなものを捨てたり壊したりして、その上で全てを終わらせることが出来た。
たった二人だけになって、俺の心臓は時々喪ったものを思って震える。俺たちを守って散った、守護者。俺はその度に自身の体をかきいだいて、泣けないこいつの代わりに涙を流す。
朝が来るようになって、夜と入れ替わる度に、安堵して、それだけのものを払ったとは思うし、払ったにしては、もしかすると大したものじゃなかったかもしれない、などと朝日を見ながら呟くと、そんなものかもね、と返ってきた。叱られると思ったのに、存外こいつもお人好しだ。
そうして、ほうほうの体でまるまる一週間かけて、俺たちは始まりの場所に戻った。ドラルク城に。
俺の心臓を戻す方法なんてのはついぞ見つからず、なのでせめてこいつに心臓を返しに来たのだ。そりゃあ、そうだ。俺の心臓はあの日無くなって、代わりのものなんかありはしないのだから。こいつみたいな酔狂家は他にはいない。
あの日こいつを退治すべく乗り込んだ時のように、正面玄関から入る。中は暗く埃っぽい。心臓が少し忙しない。というか、俺をきっと止めようとしている。やっぱりいい。戻りたくない、君に生きていて欲しい、と。俺はドラルク城に足を踏み入れた。
そのとき、視界の端で何かが輝いた。次いで、ドッという鈍い音。それは、俺の、左胸に、突き立てられていた。
お前、あの大公に傍についていた、人間の子ども。そいつが、銀のナイフを俺の胸に突き立てている。いつの間にどこに行ったかと思ったら、生きていたのか。
ドラルク、ドラルク。胸を咄嗟に抑えたが、床にざらついた塵が積もり、手でかきあつめて、それでも返事はない。俺の胸から流れ落ちた塵は、もうただの塵と化していた。
心臓が、生命維持に必要な臓器が失われ、塵の上に倒れる。
まぁこんなものかもしれない。俺達が失ったように、みんな何かを失って、朝を迎えたんだ。
ドラルク。お前と死ねるってのは、きっとこの陽光に照らされる世界の中では、一等幸せなことだろうなぁ。
塵が、ザラザラと耳元で風に流される音がして、ロナルドは「そうだよな」と一言呟いて、目を閉じた。