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    haihaiki15

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    アラハス
    いいようにペットの特権を使うハスクとペットの自覚があるハスクを好ましく思うアラスターの話

    わがままと、角を少々 酔いつぶれる前に覚えている最初の事は、スライドされていくチップの山。
    「おい、今のイカサマじゃねぇのか?」
    テーブルにいるディーラーとチップの現主は鼻で笑い、情けなのかチップの山の隙間から、空のグラスになみなみと酒を注いでくる。
    手元に何も残っていない事への苛立ちと、自身の運の無さに、負け犬のような舌打ちを残して席を立つ。もちろん注がれた酒を飲み干してから。


    何度も通って見慣れたカジノ。
    地獄には似つかわしくない程きらびやかに光っている。
    そしてカジノテーブルの上は、自身の身体に刻まれた模様と同じものが誰かの手元に舞っていく。
    それとは反対に、赤を基調とした絨毯には踏み付けられた吸い殻や、液体等のシミが不規則に散らばっている。上と下の不調和が、ここに訪れる奴らを表しているようでなんとも言えない気持ちが湧き上がる。

    それらの感情を消すために、散らばったシミたちを踏み付けて、少しだけ心がすっきりする。
    不規則なものを踏み付けていくと、行き着いた先は出口の少し手前
    このシミの主たちも、自分と同じ気持ちでここを歩いたのだろう。

    比較的遠くのシミを踏み付けると、目の前にはバーカウンターがあり日頃の自分と同じく、無愛想なバーテンダーがグラスを拭いてはラックに掛けている。
    ポケットの中身を確認して、バーの椅子に座る。
    「座り心地が最悪だな」と文句と酒の注文を行う
    バーテンダーは気にする素振りも見せず、酒を乱暴に注いでいく。
    テーブルに溢れた数滴が勿体ないと、頭の隅で考えながら金をカウンターに置く。
    酒を一口飲むと値段相応の味がして気分が少しだけ上がる
    しかし、隣に気配を感じてそれもすぐに下がる事になる。

    「わざわざ隣に座るんじゃねぇよ」
    人でごった返した店内とは売ってかわり、出口付近のバーカウンターには数秒前まで自分一人しか座っていなかった。
    そんなガラガラの状況で、隣に座ってくる輩などモノ好きかふざけた奴か、殺されても文句がないような人間だけだ。

    「さっき大負けした奴ってあんた?」
    「さぁな、だが口の利き方には気をつけろ」
    「そんなあんたにいい話があるんだ」
    「そろそろ本当に黙らないと――」
    「賭けをしよう」

    要領を得ない会話に、段々と忘れかけていた苛立ちがよみがえり、それが言葉の節々から滲み出てしまう。しかし、賭け
    その単語に耳がぴくりと揺れた

    この不自然な接触の仕方から経験上、碌な結果にならない事は身を持って知っている。
    物怖じしない相手は続けて言葉を紡ぐ
    「どうする?」
    「…………」
    理性では続きを聞くことを止めているが、本能では続きを聞きたいと疼いている。

    そういえば、一度も隣の奴の顔を見ていない
    自身の呼吸で揺れる、グラスの中身を眺めているばかりだった。
    そんな思い付きで、ちらりと声の主を見る
    なんだ、まぁ小僧ではないか。
    怖い物知らずで何かに飢えている。
    少し昔の自分を見ているようで、グラスがまた一度、呼吸で揺れる。

    「聞くだけでいいのかい?坊っちゃん」
    物言いが癪に障ったのか、相手の瞼が痙攣する。
    それをバレていないと思ってか、目を細め、誤魔化すように笑う。
    そしてこちらから視線をそらし、バーテンダーに酒を注文している
    動作は軽やかだが、目だけは興奮したようにギョロギョロと忙しなく移動させていた。
    落ち着きがゆっくりと無くなっていく中で、注文が届く前に男は話を始める
    「今日はいくら負けた?」
    今さら負けた額をきかれて腹が立つほど青くはないが、素直に答えるのもスマートではない気がする。

    先程まで座っていたテーブルを指差し、あのテーブルの主役は間違いなく俺だったよと言う。
    例の主役は先程と変わらず、なんならそれ以上に儲けているように見える。
    チップの山はこの短時間で一つ二つ三つと、山を増やしている。
    「意外とかっこつけたがり?」
    「うるせぇ、早く話せ。内容次第では俺は帰る」
    「怒らないでよ」

    要領の得ない会話が、これほどまで耐え難いとものだと思ったのはいつぶりだろうか。
    本当に帰ってやろうかと酒を一口飲む

    「賭けの内容はね」
    「!」
    「無一文のアンタが勝てば、あそこのテーブルの主役以上の金が手に入る」
    「ああ?」
    「あれ、あんまり金には興味ない?」
    金は嫌いではない
    あって困るものでもないし、ギャンブルをするにも元手がいる。
    だがこいつの言っている物の対価は何だ
    明らかに金お金ではない。
    だからと言って男を買うような奴にも見えない
    そんな怪訝な表情を読み取ってか、相手は笑みを深める。

    「でも、アンタが負けたら……ラジオデーモンの角が一本欲しい。もちろん、俺の目の前で引っこ抜いてくれ」



    対価。
    あんなちっぽけな量の金でアラスターの角?あのラジオデーモンの?
    可笑しくて笑ってしまう。
    隠そうと思っていた笑みは隠せておらず、思った以上の笑い声を出してしまったようだ。
    だがその笑い声も、騒がしい店内では滲んで消える
    聞いているのはバーテンダーと隣の男だけ。

    了承しないと思ったのか、男は眉をひそめ怒りを露わにしている。
    最初とはお互いに正反対の表情になっている事に気が付き、自身の笑みが一層深まってしまう。


    そんな賭け、したいに決まってる。
    割に合わない賭け、しかも自身が劣勢であればあるほど賭け事は面白くなる。

    一呼吸つけるように、持っていたグラスをテーブルに置く。
    せっかちな男は、ガタガタと貧乏ゆすりをしながら声を震わせて言う。
    「その笑いは馬鹿にしてる笑いか?」
    「すまん、あまりにも割に合わない賭けでね」
    「断るってことか?」
    「まぁ待て、どうせ時間はあり余ってんだろ」
    より足の振動が強く伝わってくる。
    それにまた一つ笑いが出そうになり、誤魔化すためにグラスの中身を一気に飲み干す。

    「ちょっと待ってろ」
    そう言って席を立つ。

    さて、どうやってあのアラスターに賭けの了承を得るかなと、数歩足を踏み出す。
    すると足の裏に痛みが走り、反射的に踏み出した足を軽く持ち上げる。
    痛みの原因は新品同様の煙草
    一吸いもされていないであろう煙草は、自身の足で台無しになった様子だった。
    意味のわからない奴がいるもんだなと、視線を正面に戻そうとする。
    しかし、ふと――
    先程とは違う床のシミを見つけてしまう
    そのシミはなんとも言い難く、新しくも古くも見える。
    誰かを思い出させる赤い絨毯には、蛍光色の強い緑の跡
    店の中央からここまで来たときにはこんなものは無かったな、等という正常な思考は消え去っており無意識にその跡を辿る。

    暫く歩き、行き着く先には落ち着いたデザインのサイドテーブル。
    その上にはアンティーク調のダイヤル式電話。
    どうやら、今日のラジオデーモンは相当機嫌が良いらしい

    あの悪魔は、どうにも文明の利器が嫌いらしく、スマホは当たり前に持ってはいない。
    そして、奴の電話番号なんてものは知る由もなく
    スマホのように連絡先を簡単に眺める事ができたなら、と叶いもしない事を考える。


    なんとなく、受話器を本体から持ち上げる
    それをなんの迷いもなく耳に当て、久方ぶりの中高音が耳に届く。
    そこからは遥か昔に、何度もかけたであろう番号を指が思い出す。
    ジージーとダイヤルを回して、ついにはブツリと一際大きな音が鳴る

    『Hello!どちらの負け犬でしょう?』
    いや、負け猫ですか?と笑い混じりに軽やかに話す
    腹は立つが、まずは最初の賭けに勝った
    普段は連絡がつきようのない者に連絡がついたのだ、興奮すると同時に瞳孔が開いていく錯覚すらも感じる。

    「賭けをしたい」
    『どうぞご勝手に。貴方の財布まで握った覚えはないですし』
    「そうかよ、じゃあ勝手にさせてもらう」
    『なんですかぁハスク。どこかの誰かに、金と私の一部を賭ける勝負でも吹っ掛けられましたか?』
    「おい、聞いてたのか」

    ノイズが入った笑い声が聞こえ、それと一緒に鎖の擦れる音が聞こえる。慌てて自身の首を確認するが、鎖の音は質の悪い幻聴だったようだ。


    『お前がいくら賭け事に負けようが気にしないが、私の一部となると話は変わる』
    どうせ、興味が無さそうに自分の爪を見ながら話をしているのだろう。
    『その賭けに関しては却下です。まぁ、私に許可を得ようとした点では……可愛らしいですが』
    「くそっ」
    『それで?もう用事はないんですか?ハスカー、あと一言くらいなら聞いてあげてもいいですよ』
    「俺は……」
    『ええ、ええ!』
    「俺はお前のペットなんだろ?なら最後まで面倒みやがれ」


    ジ、ジ、とラジオ特有のノイズのような音が続く
    その数秒後、先程とは質の違う笑い声が電話越しから信じられない程の大きな音で届き、一瞬耳がキンと鳴る。
    そのせいで受話器を耳から離す。

    「惨めな貴方は嫌いではないですよ」

    片手で握っていたはずの受話器が影となってドロリと消える。受話器どころか電話本体やサイドテーブルまでもが、跡形も無く赤い絨毯に溶けていく。
    そして何より、電話越しに聞こえていた声が、自身の真後ろから聞こえてくる事に気が付いてしまう。
    そっと後ろを振り向くと、予想通りの人物が行儀良く立っている。
    少しの恐怖心と、まず一つ目の賭けに勝った大きな興奮、それを隠すために顔を逸らす。

    「ご機嫌よう、ペットの負け猫くん」
    上機嫌に失礼な挨拶をした後、視線を混ぜるようにアラスターはハスクの顎を掴み、至近距離に顔を突き合わせる。離れようにも、顎の骨が砕けるほど強く掴まれた手は振りほどけない。
    「さぁ、言い訳をどうぞ」
    「くそったれが、言い訳なんてねぇよ!」
    これ以上上がらないくらいに口角を上げきったアラスターは、汚いものを振り払うように掴んだ顎を離す。それに少し身体がふらつき、舌打ちをこぼす。

    「まぁいいでしょう、それで?ハス―――」
    そう自身の名前を呼ぼうとした所で、先程の男が待ち切れない様子で怒鳴り声をあげて近付いてくる。
    何やら色々と喚き散らしているようだが、目の前で少し首を傾げて、声の元を見ている飼い主から目を逸らせなかった。
    「これはこれは……面白そうなお方で」
    口先だけの小さな気遣いと笑い、心底つまらなさそうな声が、いやに印象に残った。



    そして、酔いつぶれる前に覚えている最後の事
    それら用意されたチップの山と、ラジオデーモンの赤い色。

    「バレなけりゃイカサマもありだ」
    はっ!と笑ういつもの笑い声と、目だけでこちらを見る男。そして澄ました顔のディーラー。

    「ゲームを選ばせてやるよ、ペットと飼い主様」
    「あんまりふざけたことを言うなよ小僧」
    「私は彼と同意見。さぁ!今日の我がペットは何で負け越しを?」
    「ポーカー……」
    「ではポーカーで勝負なさい」
    「俺の話聞いてたか?」
    中々会話が途切れない事に焦れてきた男は、ぎちぎちと歯軋りをしてディーラーに一つ耳打ちをした。

    結局自身の意見は通らず、有無を言わせずのポーカー勝負となった。
    最初のチップを出すと、ディーラーが手札をスムーズな動きで配る。

    緊張感とわくわくとした気持ち、それはこの勝負が始まるまでがピークとなっており、数回ほどゲームを重ね、段々と興が冷めていく。
    数回のゲームだけでもう既に何度もイカサマをしているだろう相手を「下手くそ」と頭の中で罵倒する。
    近くに佇んでいるアラスターが、いつもより幾分か冴えない笑顔を貼り付けて問いかけてくる。
    「これの何が楽しいんです?」
    「俺もわからん」
    「早く終わらせて帰りますよ」
    そう言うとアラスターはため息を吐いて、くすねたチップをぴんと指で弾き遊んでいる。
    その方が楽しいのだろう
    込み上げてくる欠伸を噛み殺し、仕方なくテーブルに向き直った。





    その後は、負けた男が無謀にも、アラスターに飛び掛かろうとした所を制し、張っ倒した所で途切れている。


    ―――――――



    赤い絨毯に、また別の赤を継ぎ足していく。
    自身のペットによって、トランプで腕を切り落とされた男。その泣き叫ぶ男の声をBGMに、酩酊気味のペットを引き摺りながら店を後にする。

    思いの外気分が良い。
    お気に入りの店にこいつを連れて行こう。

    そう意気込み、身の程を弁えない泣き叫ぶ男をぐちゃぐちゃにすり潰すのだった。



    ―――――――



    目が覚めた時には、ネオンの光が眩しいダイナーに座っていた。
    目の前には、何かの料理と炭酸ジュース。そしていつもの笑顔を貼り付けたアラスターが肘をついてこちらを見ている。
    既視感を覚える光景に、遥か昔のことを思い出しそうになる。それを拒むため、水をかけられた猫のように頭を左右に振る。
    そして、余計なことが口からこぼれ落ちてしまう前に、自分の前に置かれたジュースを飲み干す。
    その全てを見通すかのように、アラスターの笑みは深まっていくのだった。



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