わたしはあなたのとりこ ちりりん……。
微かに響いた鈴の音に、犬飼は目を覚ました。じっとりと汗をかいていた。
僅かずつこちらに近づいてくる鈴の音をぼんやりと感じながら、もう何刻だろうかと寝惚け眼のまま辺りを見回してみたが、閉め切った薄暗い部屋には時刻を知る手掛りになりそうなものはなかった。すぐに諦めて、重たい布団を押し退けてふらりと身を起こす。随分長い間寝ていた気がする。
行燈に照らされた白い肌が、薄暗闇に淡く発光するかのように浮かび上がっていた。何も纏っていない腕を天井に向かってうんと伸ばす。ほとんど陽の光を浴びることがないほっそりとした身軀は、透けるほどに白く、しなやかだ。
何処から迷い込んだのだろう、一匹の蝶がひらひらと犬飼の周りを優雅に舞う。蒼い鱗粉を撒き散らしながら暗い部屋をゆらゆらと行ったり来たり、何かに誘われているかのように。犬飼はそれをぼうっと見つめたあと、襖の向こうに人の気配を感じて、視線をちらりとそちらへ投げかける。
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