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    柊・桜香

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    柊・桜香

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    転生体審神者とその刀剣豊前江のちょっとしたお話。

    6/28は豊前江重要文化財指定記念日

    ##早月本丸

    はろー、でぃあ じくじくと、身体を駆ける熱が哮る。内を巡る流れが荒れ狂う。
     欠片が組み合わさり、1つの己へとなっていく。再び熱が入り、欠片が溶け合い繋がっていく。
     身体に衝撃が奔る。圧が掛かり、金属の中にある余分なものがはじけ飛ぶ。
     己の中の存在が、次第に明確になっていく。生み出されていく感覚が、次第に俺の意識を作り上げていく。
     何度も、何度も、何度も打たれる。
     次第に俺の身体は1つの長い金属になった。長い長い金属だ。
     時間をおかれ、俺の身体には薄い部分と厚い部分とが作られた。先は薄く鋭い部分と、反対側は無骨な形のまま。
     再び俺の身体に熱が奔る。熱く、熱く、熱い身体。
     先程とは打って変わって小さい圧が、小刻みにいれられる。俺の形が、また変わっていく。
     俺は、1つの形になった。
     そして俺は漸く目を開けた。
     俺が目にしたのは、俺に何かを塗りたくる男の姿だ。俺の身体はすっかり冷やされ、形は少し反った細長いものになっていた。
     ふと目を上げると、俺を見てくる影が見えた。幼子のような見目に、青年のような見目。また壮年のような見目の影もいる。俺は一体どんな形をしているのだろう。
     やがて男が道具を置いた。コンと置かれた道具の先、それを覗くと、泥が塗りたくられた俺の身体がそこにあった。
     男は満足げに俺を抱え、あれこれと見てくる。泥に覆われているとは言え、少し気恥ずかしい。
     幾時、何度かの昼夜を経て、俺の身体は再びあの熱い場所へ運ばれた。
     また熱くなっていく。なんとも言えない、心地よい熱だ。
     徐々に熱されていく身体。赤く、赤く、熱を含んでいく。
     じくじく、じくじくと己に何かが巡っていく。
     やがて、俺の身体は一気に冷やされた。
     そうして俺が、生まれた。
     荒削りの後、俺の身体から泥が取れていった。俺の身体には、うっすらと紋様が浮かび上がっていた。
     幾人の男達の手を経て、白木に包まれた俺は、また再び俺を生み出した生みの親の元へを渡された。
     男は俺を手にしたあと、ゆっくりとひき抜いた。

    「――御父上。お初にお目にかかります」

     俺の声が、父上に届いた。父上は、俺の声を聞くと急いで顔を上げた。酷く驚いた表情だ。

    「貴方様に作られた、その刀の付喪にございます。御父上」

     父上は、俺を見て漸く笑みを浮かべてくれた。



    「――ご――――。豊前江。ここで眠っていては風邪を引くよ」

     ふっと目を開けると、丁度太陽を遮るように青年がこちらを覗き込んでいた。手には茶を淹れた瑠璃の茶器。盆に置かず手で鷲掴みにし、すとんと側に座るとそのうちの1つに口をつけた。ずずずと音を立て、一気に半分飲み込んだ。
     体を起こした豊前江は、青年が差し出した茶器を手に取って口をつけた。どれだけ眠っていたのか分からないが、口に入れた茶はすんなりと喉を通っていった。

    「今日は一際長閑だねぇ」
    「そうか?」
    「そうだよ。まず第一部隊が阿弥陀ヶ峰に出陣中、第三、第四部隊は長期遠征中。第二部隊は特命調査の再調査に出ているからね。二十四振りも不在にしていれば、時間もゆっくりになるものさ」
    「でも特命調査中だろ?」
    「加州清光筆頭に古株の面々で組んでいるから、俺の出番はないんだよ」

     そうかと言った後、暫く無言となった。カランと遠くで何かの音がする。畑からだろうか。

    「今日は、豊前江も静かだね」

     そう言った青年に、豊前江は笑う。

    「俺はそんな騒がしくねぇよ」
    「そうだね。見つけにくかったんだよ?」

     ぎくりとした。青年は全く気にしていないといった風だ。

    「あんまりにも静かだから、いっそ鈴でもつけようかなって思ってたんだよ」
    「俺は犬か!」
    「犬モチーフは五月雨江と村雲江でしょ。豊前江はどちらかというとライダーかな」
    「らいだぁ?」
    「バイク乗りって事」
    「そうかぁ?」

     懐から扇子を取り出し、はたはたと扇ぐ。今日はなんとも蒸し暑い。

    「豊前江は風が似合うから。ぴょうと行って、返ってくる風だね」
    「可笑しな事をいうっちゃね。風は行ったっきりだろ」
    「そうかな。でも豊前江は、帰ってきてくれるから」
    「まぁ、ここが俺の本丸だからな」
    「手放した君が、こうしてまた帰ってきてくれたからね」
    「……え?」

     青年は立ち上がり、自分の瑠璃器だけを取り上げ豊前江に向き直る。

    「君は、名乗りを上げてくれた君じゃ無いかもしれない。けれど、きっとあの時の俺は、覚えているよ」

     ふわりと笑って、青年はその場を後にする。
     その背を見て、豊前江は小さく笑った。

    「親父殿。そういう事は、『俺』に言ってやってくれ」

     ぐいと茶を飲み干し、豊前江はさくりと立ち上がった。
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