Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    柊・桜香

    好き勝手書いてはぽいぽいしています。物によってはピクシブにもまとめて行きます。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🍑 🍓 🍰 🍮
    POIPOI 101

    柊・桜香

    ☆quiet follow

    稲さに(ちょっと色々すれ違ってる。そこまで深刻じゃ無い)

    「初期刀。審神者を、借りても良いだろうな」
     そう言われた山姥切国広がチラリと審神者を見ると、この世の終わりのような表情をしていた。

     特に深い物でも無いが、事の発端は数日前に戻る。
     夏期連隊戦で無事に新しい刀剣男士も迎え、悠々と夏を過ごしていた。暦では葉月の上旬で暑さも厳しいが、夏期連隊戦場が開かれている今は海辺に近いと言っても過言では無く、涼を求めるために海辺へ行く男士達も多い。人の身体になれれば、刀剣の身であった頃と異なり水に浸かっても潮風を浴びても問題ないことは、この数年で殆どの男士が分かっていた。どこぞの本丸のように水着を誂え浜辺へ出掛ける様は、夏休みの光景そのものだ。
     それでも、この本丸の審神者は夏であろうと外に出ることは無い。それらしい理由は並べているが、要は単に外に出たくないだけだ。
    「くにくんが喜んでお仕事手伝ってくれる良い子で助かっています」
    「疚しい事があるんだな。白状しろ」
    「明後日締め切りの書類とその翌日締め切りの書類が出てきました助けて下さい」
    「宜しい。長義も呼ぶぞ」
    「ちょぎくんには言わないで!絶対終わったら小言いっぱい言われる!」
    「残念だったな。もういるぞ」
    「くにくんの裏切り者!」
    「残念だったな俺は刀だ」
     小気味良い扉を開け放つ音がして、山姥切長義が執務部屋に入ってきた。勝手知ったる部屋だとばかりに、機器の電源を入れ腰を落ち着ける。この本丸の長義も、国広同様積極的に外に出ようとする個体では無い。審神者の気質が影響しているのか、少なからずそう言う男士は存在して居た。
     時間も無いからと、1人と2振りは早速とりかかった。人の気配を察した留守役の治金丸と五虎退が、それなら同じく留守役の小竜景光と何か差し入れに来ると声を掛けてきた以外は、誰もいない本丸。そういえばと思い出した国広が、機器を動かす手を止めずに審神者に声を掛けた。
    「稲葉江とはいいのか。恋仲なんだろう」
    「いまここでその話振る!?江の面々と海辺に行っているよ!進捗どうですか!」
    「この書類も終われば、暫くは日課書類だけだろう。それなら俺と偽物くんでなんとか……主?」
     長義が顔を上げると、審神者が口元を押さえて固まっていた。その手には糖分摂取用にと留守役の2振りが一先ず置いて行った洋菓子が摘ままれている。視線だけが恐る恐る国広と長義に向き、青ざめた顔で恨めしそうに国広を睨んだ。
    「くにくんのばか」
    「――またやったのか、主」

     稲葉江は顕現して初めての夏という物を経験していた。夏期連隊戦に狩り出され強制水浴び状態になり、終われば練度も上げきってしまおうと上限値を越すまで走りきり、やっと得た休みだ。
     なお同じく狩り出されていた琉球宝剣の面々や新しく来た笹貫も同じく長めの休みを貰っており、思い思いの休暇を過ごしている。
     期間前半をこれでもかと働き通しだったため規定報酬数を全て達成した今は緩りとした運営になっていた。
     話しは変わり、この本丸の審神者は稲葉と恋仲になっている。どのような経緯でそうなったかは割愛となるが、ただ、想像以上にこの稲葉江という個体が審神者を好いている事は確かだ。
    「何故我も連れてこられたのだ」
    「いーいじゃねぇか!お前さん初めての夏なんだろう?なら楽しむが吉ってもんだぜ!」
    「ただ暑いだけだろう」
    「それにな?ちったぁ夏の海を知っていれば、主を誘い出す文句も浮かぶってこった」
     文句をたれていた稲葉に、和泉守兼定がそう言った。稲葉を連れてきた当人達は海を満喫していた。泳ぎの速さを競ったり、浮き輪に乗って波を揺蕩い、ゴーグルをつけて潜水したり。そう言うことで浜辺にほっぽり出されていた稲葉は、和泉守に捕まったのだ。
    「誘い出す?」
    「まぁーた主はなんだかんだ理由をつけて海に来ないつもりなんだぜ?こぉーんな綺麗な海を前にしてだ!もったいねぇだろ?」
    「だが我には関係の無いことだろう」
    「それにな、ここは男女の逢瀬にもお誂え向きな場所なんだぜ」
     ひくりと稲葉の目が動く。めざとく捉えた和泉守は、稲葉の肩を掴んだまま、洞窟になっている箇所の入り口を指さした。
    「あの場所なんかいいんじゃねぇか?丁度うまい事日差しも遮られて、でも暗くない場所だぜ」
    「何が言いたい」
    「ここに来れるのもあと何日もねぇんだ。一度くらいは来てみてもいいんじゃねぇか」
     そうしてパッと離れた和泉守は、ひらりと手を振って海に向かっていった。どうやら浅瀬で球遊びをしている面々に加わるらしい。
     和泉守が言っていた場所に足を向ける。洞窟というよりは窪みに近い構造で、日差しを遮る分温度は低い。海面が反射して、岩の天井が波の紋様を描いていた。
     自然の創り出す紋様だ。美しくない訳がない。
     一先ずは本丸へ戻ろうと、稲葉は浜辺に戻った。そこで海から上がってきた豊前江達に捕まり、何故か競泳対決に巻き込まれてしまった。

     本丸に戻ると、留守役が既に夕飯の支度を整えて出迎えた。その際に審神者が書類仕事に追われていることと、暫く国広と長義がその補佐に回るという旨が伝えられた。
     稲葉が留守役だった小竜に、審神者に用があるから会えないかと打診するが、それを断られてしまった。
    「今丁度書類仕事が立て込んでる頃でね。少し集中させてあげてよ」
     何か伝言があれば伝えるから、と小竜が付け加える。急用で無ければ悪いが後にしてくれと、そう言われた。
     確かに急用では無いと思い直し、他の男士と同じように夕食を摂った。
    「稲葉、主に何か用があったんじゃ無いの」
     隣で食事を摂っていた村雲江が、そう言った。夏の暑さで小食になっていた村雲だが、それでは身体が持たないと無理矢理にでも詰め込んでいる酢豚ならぬ酢鶏を頬張って白米をかき込む最中に、そう言われた。
    「些末なことだ」
    「いやあるんじゃん」
     濃い味付けの味噌汁を啜り、しかめ面になった顔を隠す。それでも村雲は構うこと無く話しを続けた。
    「一応さ、恋仲?なんだから。いいんじゃないの?」
    「仕事の邪魔をしろと」
    「よく分かんないけど、ごほうび?があるとやる気が出るらしいよ。早く終わったら、稲葉も主と一緒にいられるんじゃ無い」
     稲葉は何も返さない。沈黙を貫く中、ぱしんと両手を合わせて村雲が食事を終えた。
    「主、無茶してるとこに好きな顔が来ると馬力上がるらしいよ。実証済みだから、行ってきたら」
     にっと笑った村雲に、稲葉は目を少し丸くしていた。

     食事を終え、稲葉が向かったのは湯浴みではなく審神者の執務部屋だった。バタバタと忙しなく聞こえる音に、やはり止めておいたほうが良いだろうかと思ったとき。
    「追加の資料なら取ってくるから君はここに、っ!と、悪い、いきなり開けてしまって」
     勢いよく飛び出してきたのは長義だった。彼も稲葉がいた事に驚き、数歩下がってから冷静を取り戻した。
    「すまない、立て込んでしまってね。暫くはこちらに詰めることを小竜に伝えていたと思ったんだが」
    「あ、いや、聞いていた」
    「そうか。本当にすまないね。主、君の好きな顔が来たよ。少し休憩してからまた取り掛かるからね」
     はたはたと足早に離れていく長義を見送り、部屋の中を見た。机に突っ伏している国広、それから同じく机に突っ伏して虚ろな目をしている審神者。そこまで急ぎなのだろうかと、稲葉は目を配せた。
    「……ん?ああ、稲葉か……。すまん、暫く書類仕事が、立て込んで……っだああ!なぜ増える!上層部の怠慢だろうが!」
    「またか?」
    「ああそうだ。しかも先日出した書類も若干の仕様変更があったと一刻前に連絡が来た!呪ってやりたいが生憎主を反逆者にさせるわけにはいかないからな。俺は我慢しているんだ」
    「そう、か。難儀だな」
    「すまんがこの通り暫くは文字との戦いだ。少なくとも1日半はここに詰める」
    「それは仕方がないが、主は具合でも悪いのか。物静かだな」
     びく、と審神者が顔を動かす。とんとんと審神者の肩を叩くが、審神者は顔を伏せたまま。ふるふると顔を振り、とうとう腕でも顔を隠した。
    「主。主の今一等好きな顔だぞ。そら、観念して見てやれ」
    「貴様らは我をなんだと思っている」
    「今は主のやる気起爆剤だな」
    「山姥切」
    「俺はくにくんだ」
     そんな茶番をして居ると、長義が資料と簡単な食事を持って戻って来た。食べたら取りかかると伝え、それを聞いた稲葉は部屋を後にする。審神者の様子が気になったが、今は仕事を優先させるしか無かった。
     だが。
    「うっわびっくりした!なに稲葉、なんか変な物でも食べた?」
     加州清光が出会い頭にそう尋ねるくらいには、稲葉はおかしな顔をしていた。

     あれから審神者に会えていない。いや、廊下で時折ばったりと会えてはいるのだが、あからさまに避けられる。声を掛けよう物なら、口元を押さえてそのまま踵を返しとっとら小走りに駆けていくのだ。
     それが会う度に続けば、不機嫌になると言う物。
     そろそろ先に示されていた時期も終わろうかと言う頃に、稲葉は執務室の扉を乱暴に開けた。
    「初期刀。審神者を、借りても良いだろうな」
     突然現れた稲葉の様子に国広は当然そうだろうなと思っていた。審神者が執務部屋に籠もってから、仮眠も部屋に誂えた簡易的な寝具で数時間眠るだけ。部屋にも戻らず、最低限の身嗜みだけ整え、それでは悪循環だと長義と言いながらも、審神者はそれを聞かなかった。
    「ああいいぞ。後は確認をして政府に投げつけて暫く本丸を休みにするだけだ」
    「くにく、っ」
    「主、観念しろ。稲葉、もう連れて行って良いぞ」
    「感謝する」
     口元を押さえた審神者のそのまま抱え上げ、稲葉は執務部屋を後にする。稲葉に抱えられている間も、審神者は静かにしていた。
    「我の部屋にするか、お前の部屋にするか。選べ」
     思うよりも低い声だったのか、審神者が顔を伏せた。カタカタと震える様に、稲葉は息を吐いて向かう先を自室にした。
     行く先がわかった審神者は、観念したのか稲葉に身体を預けた。それでも手は口元から外さないまま。
     何があったのか問い詰めることも視野に入れながら、見えてきた目的地に鼓動が早くなった。

     稲葉の個室に入ると、軽く整えられていたベッドに座らされた。この本丸は基本各人の個室が宛がわれ、必要に応じて大部屋を借りることが出来る。だが一体どれだけを想定して作られたのか解らないほど大きな本丸は、個室が有り余っている以上に複数人が使用できる部屋も殆どが利用されていない状態だった。
     その外れ。隣人とも言える男士も不在で、周りは静かだ。その中で、審神者と稲葉は1対1で対峙した。
    「――」
    「……話すことも、厭うか」
     知らずの内に嫌われたと感じている稲葉と、口内炎がまだ酷く話すことも憚られる程痛みが続いている審神者。そんなちぐはぐな思い違いだとはお互い思わず、先に口を開いたのは稲葉だ。
    「我が気に障ることをしたか」
     審神者は首を横に振る。
    「理由は言えぬか」
     審神者は何もしない。
    「――他に好いたものでも出来たか」
     審神者がぎょっとした表情で稲葉を見る。勢い良く首は横に振られた。
    「ではなんだ」
     審神者は答えない。口を開けば唇の真ん中真裏に出来た口内炎に触り、激痛が走るからだ。ビタミン剤や薬を使ってはいるが、中々早くには治らないもの。だから喋らないと言う選択肢が、盛大に稲葉を勘違いさせている。
    「答えたくないのか」
     そう言うと、稲葉は審神者の顔を掴んだ。優しくないそれに、思わず身体を強ばらせる。何をされるのか解ってしまい、嫌だと拒絶をするも稲葉は聞かない。
     無理矢理唇を重ねられ、隙間から舌が入れられる。流石にそれはとなけなしの抵抗も虚しく、されるがままとなった。
     ぐちゅりと分厚い舌が口内を犯し、喰らわれるという錯覚が痛みを一時的に麻痺させた。だがそれでも激痛が走る程の炎症が治まるわけも無く、甘美な痺れと共に襲ってきた痛みに審神者は頭を殴られる。
     やがてしつこいほどの愛撫が身体から力を奪い、夜の行為を思い返す程の甘さを代わりに与えた。
     漸く唇が離れる頃には、様々な感覚に嬲られていた。それでも痛みより稲葉とのキスであたえられた快感が大きく、ジクリと内が濡れ始めていた。
    「答えないのなら、犯すぞ」
    「っ、ま、ッ!」
    「……まさか、怪我か?」
     口を開いた途端に歯が当たり、一等強く感じた痛みに残っていた快感も引っ込んだ。痛みを極力感じないようにと唇を開く。
    「くひのなか、けが、して」
    「何故言わなかった」
    「……ひゃべうと、いたくて」
    「我を避けていたのは」
    「……きす、すると、いたいし。それに、がまん、できそうになくて」
     そこまで聞いて、呆れたと言わんばかりに長く息を吐いた。
    「おい」
    「っ、ごめ」
    「我とお前は恋仲だろう。身体も知らない仲では無いだろう。どれだけお前の内に我のものを注いだと思っている」
     いきなり言われて、ぽかんと口が半開きになる。
    「我の霊力を注げば、軽い傷など治る。――舌を出せ」
     驚き何も出来ない間に、また唇が重なった。また痛みと痺れが身体を襲う。驚くことに、痛みは幾分も弱くなっていた。恐る恐る舌を出せば即座に捕まり、絡め取られ、また再び犯されるほどに愛撫された。
     じゅくじゅくと、頭が白くなるほど、掻き乱される。そうして痛みが遠くなったところで、服をある程度脱がされていたことに気付いた。
    「まっれ、なんれ」
    「そのままでは口を吸うこともままならん。大人しく、治されろ」
    「いな」
    「それと、散々避けてきた仕置きだ。ここから出られると思うなよ」
     ニタリと笑った顔に、審神者は怯えた。
     案の定翌日の昼まで愛されつくし、ベッドから起き上がることも叶わず。
     漸く部屋の外に出られたのは、3日後の夜のことだった。

    終わり!
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🌊🌊☺🙏🙏🙏😭🙏💴🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works